ICHIZU~とあるコーギー犬の想い~

花田一晃

第1話~お別れ~

「ハァッハァッハァッ・・・」息が苦しいな。

久々おうちに帰って来れたのに身体が動かないよう・・。


-1週間前、動物病院のペットハウスの中-


まだ寒い日もある5月の深夜、国道1号の通りから車の騒音に混じって、聞いたことがある声が聞こえてくる。「うぅん~。ラム~・・頑張れ。負けるなよ。」ズルズルと鼻水をすすり上げる音。

「ドン・ドン・・・ドン」この男は動物病院の建屋の煉瓦塀を右手で叩いていた。

「生きろ。生きてくれ・・。」

五月蝿いな~外からパパちゃんの声かな。

苦しいけど、うちはもう「ヮォンクーン(寝るね)」・・。


-翌日-


明るくなって来た。

今日もこの狭い部屋で退屈な1日が始まるのかな?

あれ?クンクン 好きな匂いがする。

おや?声が聞こえる。声が大きくなってきた。アッ!きっとママちゃんの声だ。違いない。

「ハァ、ハアッ、クゥン(うれしいよ)」

おや、ママちゃんは隣の部屋で先生と話をしているみたいだ。

「先生、どうにもならないんですか?」先生は難しい顔をして、

「ここ(病院)にいれば、少しでも生きることが望めますけど、残念ですが、後、半月程しかもたないと思います。」それを聞き ママちゃんの顔は固まっていた。ママはラムのことを考えた。ラムはどうしたいの?・・きっと家に帰りたいはずだ。ラム、そうするね。ママちゃんの心は決まった。

「でしたら、先生!ラムは家族皆と家で過ごさせ、私達で見送りたいと思います。」

「そうですか。ラムちゃんの身体を思うと、あまりお勧めできませんが・・。ん~ん。その方がラムちゃんが喜ぶかも知れませんね。」

ドアが開き、誰かがこっちに来る。

嫌な先生じゃないよね。

アッ!ママちゃんがこっちに来てくれた。ハッハッハッうれしい~。ムム、な~んだ、余計なパパちゃんも一緒かよ~。

ママは「ラム。おうちに帰れるよ。モンネとネンネも待ってるから。」と優しい顔で挨拶のキスをしてくれた。なんでママちゃんは顔を濡らしているの?

うちの顔まで濡れちゃったよ。


その日から家族全員が2階のリビングで一緒に寝るようになったのだ。

もちろん、うちは嬉しかったよ。


「ハァ・ハァ・ハァッ。」数日後、息が更に苦しくなってきた。

その日は深夜にパパちゃんが酔っ払って帰ってきた。

パパちゃんはママちゃんに叱られた。「パパ!ラムのこと皆で看ようと言ったよね。今日は(仕事での)飲みを早めに切り上げて帰ると言ってたよね。この酔っぱらい!朝までラムのことを看てなさい。」

パパちゃんはコロボックルのように小さく、言われる度に更に小さくなっていた。


夜が明けだしてきた。

「ハァッハァッハァッ・・・」息が無茶苦茶、苦しいな。

でもここに居ると、皆の姿が見えて嬉しいが・・。

モンネ。ネンネも寝てるね・・。ママちゃんもうちの介護に疲れて寝てる。パパちゃんは大きな鼾をかき、やっぱり寝てる。

パパちゃん、あれぇ、朝まで起きてるんじゃないの。ハ・ハ・ハ、クス。

その時、ササ-!キィーン!頭の奥の方で何か弾ける音がした。

おや?何故だか苦しくなくなって来たぞう。

だけど、ダンダン周りが暗く・・狭くなって来る。

ママちゃんの顔・手・身体がだんだんと薄くなって行く・・。

うちがすぐにママちゃんの側に行くから・・待ってて。

ハァ、ハァ、アレ、身体が少しも動かない。

ラムは必死に右手を伸ばし、水が入ったステンレスの容器を倒して音をたてようとしたが・・出来ない。

ラムの必死な気持ちも分からず家族の誰も気付かなく、寝息をたてている。

ママちゃんの所までは5メートルだけなのに・・。

離れるの嫌だよ~!ママちゃん、うちの前から消えないで!

怖い。死ぬのかな。アッア、怖いよ・・。

あ~最後に(ママちゃんの)声が聞きたかったな。

サヨウナラだね、ママちゃん。

大好きだよ。もっと一緒に居たかった。

世界一愛して(るよ)。サ・ヨ・ナ・ラ・・・。(くおおーん)。


「アッ。寝てた。やべぇ、テレビつけっぱなしだ。」パパはママちゃんに怒られると思い焦ってテレビを消した。

その時、ハッハッハッとラムの声がしていないことに気がつき「ラム、ラムちゃん。」と声を掛けた。

ラムは座ったままの状態で、顔を床につけたまま、大きな目を開き皆んなの方を見てる。けど全く動かない。

パパはラムに近寄り身体を触って見た。

ラムの温かさが指に伝わってくる。

「ママ-!ラムが動かない-!みんな起きてくれ-!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る