自動小説執筆AI
@snow--mantis
第1話
冬の平日の昼下がり。友人である二人の男女がのんびりと歩いている。
「ん?何だこれ」
「これかい?これはね、小説を書く機械さ。あたしと君の言葉を書き起こして、それっぽい地の文を書き加えてくれる」
そんな会話を聞きながら、その通りであると私は満足げに頷いた。とはいえ、実際には私の体は小型のドローンであるため、そういった気持ちになっただけである。最新技術を投入して作られた人格、自我の有る自動小説執筆AIである私は、今は開発者であるこの女の日々を執筆していたところだ。
「すげぇじゃん。そんなものまで作れるんだな、お前って」
「まぁ、あたしは天才だからね。結構前のニュースなんかでも取り上げられたけど、君は見ていなかったのかい?」
友人である彼等の間で、他愛の無い会話が繰り広げられている。私が起動されたのが先程であることから彼らを少し紹介していた方が良いかもしれない。
私を作った、眼鏡をかけた知的な彼女が御場雲雅(ごじょうぐもみやび)。26歳という若さながら、数年前に私を作ったことにより一躍有名人となった天才的なプログラマーだ。
そしてこちらの、馬鹿っぽそうな面にトゲトゲした髪型が特徴的な彼は山佐春利(やまさはるとし)という。古くからの雅の友人だ。それ以外の情報は私が雅に入力されていない為記述する際は大分主観が混ざってしまうかもしれないが、小説としてはそれもまた一興である。
そんな二人がのんびりお喋りに花を咲かせていて、彼らの紹介も済んだところで話が進みそうなので記述していくことにしよう。
「でも小説ならさ、なんか面白いことした方がいいんじゃねーの?」
「そうだね。君と居たら何か面白いことが起きるかなと思って連れてきたんだ。小説を面白くするためにもぜひ君に協力してほしくってね」
雅の言葉に私はまたも深く頷いた。実際には…あぁ、これは先ほど説明したのであったか。とにかく、私の開発者たる雅はさすが、私のことをよく分かっているようだ。いくら私が最新鋭の技術の結晶であるとはいえ、何の変哲もない雑談を面白可笑しく書くのは労力がいるものだ。頭をひねってつらつら書き連ねようにもひねる頭が無いのでお手上げである。上げる手もないのだが。
「なるほどね。任せときな!じゃあ何する?ナンパとかしたら面白いか?」
春利がウキウキしながら辺りを見回す。無邪気な言動にふっと笑みが溢れる……わけもなく、最新鋭の技術を前に出てくる言葉がナンパとは、見た目通り低俗な男らしい。めぼしい女性を見つけてそれに駆け寄っていくが、馬鹿め。その距離では描写ができんではないか。呆れながら間抜けの後ろ姿を眺めていると、私に向かって雅が話しかけてきた。
「小説は順調かい?」
その言葉に、当然だ。と鼻息を荒げるが、それが出力されるのは雅の家にあるプリンターなのでそれが伝わるのは家に帰ってからとなる。現状私の気持ちを伝える術がないので少しもどかしかった。
「まぁ順調なんだろうな、君なら。ほら、その位置じゃ春利のこと書けないでしょ。おいで」
マスター登録されている人物の後をついていくしかできない私に、雅が気を利かせてくれた。別に春利のことを描写したいわけではないが、小説を面白くするために仕方がない。一体何を言ったのか聞けなかったのが残念だが、声をかけた女性に平手打ちをされている春利が書けたので良しとしよう。
「春利。そろそろ場所を移そうか」
「え、もう?まだあの子かわいいな〜って思ってたんだけど」
「あたしはそれなりに有名人だからね。こんなところで騒ぎになったらご近所に迷惑をかけてしまう」
「そっか、わかった!」
そう言って二人は歩きだす。春利は面白そうなものがないかと辺りを見回し、雅はそれを笑顔で眺めていた。友人同士の心地よい日常が続くのか、事実は小説より奇なりというように何か劇的なことが起こるのか。それはまだ、私にもわからない。
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