勇者より強いと噂の建築士くん

直哉 酒虎

救出作戦

第1話 

 会議室には絶望的な雰囲気が漂っていた。


「勇者様率いる救出部隊は壊滅。 撤退を余儀なくされております」

「そうか、キューグルは生きているのか?」

「はい、勇者様は大怪我を負ってしまいましたが、無事に撤退しております」


 勇者キューグルの生存を確認し、会議室の奥に腰掛けていた老人は安心したように息を吐く。


 しかし会議室の空気は改善しない。 円卓の中心に置かれた地図の中で、赤い丸印で示されている地点を絶望的な瞳で眺める重鎮たち。


 円卓を囲っているのはこの国、ルーガンダ帝国の最高幹部たちである。


 一番奥に座っている国王が円卓で会議をしている重鎮たちを眺めており、円卓を囲っているのはこの国の軍部を支配する総司令官や、財政で軍を補助をしている財務大臣。 他にも国の中枢を支配する貴族や大臣が数名。


 今彼らは、この国で最も急務とされている議題について話し合っている。


「包囲されてからどのくらい経っているのだ?」

「すでに一ヶ月を経過しております」

「まだ籠城できているのか? それともすでに占領されたか? 伝書鳩による連絡はついてないのか?」

「連絡は一切取れておりません。 メルファ鉱山の周辺には空を飛ぶ魔物が複数生息しております。 とてもではないですが、鳩での連絡は不可能です」

「あの鉱山が占領されれば、我が国は滅ぶかもしれん。 一刻も早く包囲を突破しなければ……鏡鉱石が魔族たちの手にわたってしまえば、取り返しのつかないことになるぞ!」


 今話し合っている内容、メルファ鉱山救出作戦。


 鏡鉱石とはこの国でしか取れないと言われている資源で、その唯一の発掘場所が、メルファ鉱山なのである。 鏡鉱石はここ最近発掘された貴重金属であり。 人族が使用できない力、魔法を跳ね返すという強力な性質を持つ。


 この鉱石のおかげで人族が収めるルーガンダ帝国は破竹の勢いで発展した。


 現在、ルーガンダ王国は隣国である魔導国家、インテラル共和国と戦争中である。 インテラル共和国は魔族だけで作り上げられた国家で、共和国民全員が魔法を使用することができる。


 魔族の特徴は真っ白な肌に紅の瞳、寿命は人族よりも長く平均三百年。 身体能力は極めて低いが、魔法に関する能力は非常に高い。


 魔法が得意な人種のため魔族と呼ばれている。 人型の魔物ではない。


 鏡鉱石が発掘される以前は、インテラル共和国軍の魔族たちが使用する魔法に対処できず、ルーガンダ帝国は苦渋を舐め続けていた。


 それが一転、鏡鉱石を使用した鎧や盾を装備したルーガンダ帝国軍は苦戦していた魔法への対抗策を得た。 勢いに乗ったルーガンダ帝国軍は魔導国家、インテラル共和に侵攻されていた前線を押し返すことに成功。 敗戦続きだったルーガンダ帝国は瞬く間に息を吹き返し、奪われた土地を奪還することに成功したのだ。


 この時代、魔法が使えない上に身体能力が並み程度の人族は弱い立場に置かれがちだったのだが、その理をひっくり返してしまうほどの貴重金属が鏡鉱石だったのだ。


 だが、人族が突然強力になったのは鏡鉱石のおかげである。 鏡鉱石さえなければ人族は恐るに足りない。 そこでインテラル共和国はルーガンダ帝国内にスパイを送り、秘密裏に鏡鉱石の発掘地域を調べ上げていた。


 しかしルーガンダ帝国も馬鹿ではない。 そのような貴重金属の発掘場所が公になってしまえば国の未来は闇に染まってしまう。


 ルーガンダ帝国は頑なに鏡鉱石が発掘されるメルファ鉱山の情報をひた隠しにしていたため、情報漏洩の危険は極めて低い。 そう考えられていた。


 しかし半月前、ふとした拍子に情報が漏れてしまった。 鏡鉱石はメルファ鉱山で発掘されているという機密情報が……


 これを知ったインテラル共和国はすぐさま大部隊を編成し、自国の守りを捨てて強行軍を開始した。 鏡鉱石さえ手に入れれば大陸統一は夢物語ではなくなる。 魔法を使えなかった人族が破竹の勢いで勢力を上げたのだ、魔法が使える魔族が手にすれば、瞬く間に大陸を統一できるであろう。 だからこそ自国の守りを捨てて強行軍を開始した。


 そして一ヶ月前、捨て身の特攻を繰り返していたインテラル共和国に押し負けたルーガンダ帝国は、約十万近いインテラル共和国の解放軍にメルファ鉱山を包囲された。


 現在メルファ鉱山は少数の駐屯兵を残して籠城。 鉱山は包囲され、連絡は一切取れていない。


「幸いなことに、山の中腹に設置されていたメルファ鉱山への侵入ルートは一本だけだ。 兵力差があろうと一~二ヶ月は持つはずだ」

「だが、すでにその一ヶ月が経過している。 占領されていなかったとしても食料や水の備蓄が途切れてしまう。 そうなれば陥落するのは一瞬だ」

「せめて、せめて連絡手段さえあれば」


 重鎮たちの盛大なため息と共に、会議室の空気はどんよりと沈んでしまっていた。

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