今、華咲く!

サぁモンスター

目醒める華

 幕が開いたその瞬間、大衆は舞台上の一人の女に目を奪われた。

 息遣いすらも耳障りで、瞬きなどする間も与えない。


「もう一度、あなたに逢えたなら!!」


 緊張が走った空間が大きく揺れる。

 その姿に、剣幕に、劇場が震える。

 叫びにも似た声は、大衆を構成する一人の少女の身体をつんざいた。その感覚は五感では到底表せないスケールのものであり、彼女を戸惑わせる。


「——!」


 硬直した彼女をよそに、舞台は続く。

 全身が粟立つような興奮は収まることなく、彼女を取り巻く空気のようにまとわりついている。

 

 照明に反射する金の耳飾り。

 演者の動きを追うように揺蕩う真紅のドレス。

 オーケストラピットから観客へと漂流する重厚な音の数々。


 その空間にあるもの全てが、互いを打ち消すことなく主張している。それでいて不均衡だと感じる部分は何一つない。

 全てが計算され尽くされた美であり、芸術であり、風雅である。


 開いた口を塞ぐという考えにすら及ばない。それくらい、彼女は支配されていた。

 何層にもなった衝撃が、何度も彼女を打ちつける。


 彼女の頭には既に一つの夢が棲み付いていた。きっと幕が開いた瞬間から、逃れられない運命だったのだろう。

「私、私……。この舞台に立ちたい」


 その決意は、彼女の十年間という人生において最も大きい志と言っても過言ではなかった。

 焼き印を入れられたように強い跡となる出来事を目の当たりにした百二十分は、確かに彼女の運命を非常に左右するものとなったのである。

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