呪いの人形りんねちゃん幼馴染という名の浮気相手を見つける。2
歩と視線が交わり、内心で気まずさを感じながらも、このタイミングでなら女子の制服を貸し欲しいとお願いできるのではないのかと、真剣に悩んでいた緋影の複雑?な心情を察しているのか、いないのか呪いの人形(ドール)のりんねちゃんは真上に顔を向け、緋影のことをヤンデレドールオッドアイでジッと見つめていた。
歩達のことを立ち止まり廊下から見ていた緋影は内心で、そんな事を考えていたのであった。
そんな、緋影のもとに突如として嫌がる友人の曜子をずるずると引きずりながら、こちらに向かってきた歩に対して、内心ではめっちゃくちゃ動揺し焦っていた緋影なのだが、相も変わらず顔にはでないようで無表情だ。
そして、歩に引きずられ廊下に連れてこられた曜子は現在、なぜか緋影と対面させられ当の幼馴染の歩はというと小動物よろしくと曜子の背にサッと隠れたのである。
対面している緋影に対し、曜子は視線を泳がせていた。まずは下を向くが、さすがに失礼かと気が引け、緋影の顔を見ると、無表情ながらも怒っているように見えて恐ろしい。次に視線を胸のあたりに移すと、そこには不気味な人形(ドール)がいて、恐ろしい怒りの視線を向けられていた。
呪いの人形(ドール)の方が恐ろしいと、仕方なく、無表情の緋影の顔へと視線を向けるも、相も変わらず無表情の彼のことが恐ろしくて表情筋が強張る曜子なのである。
(いやいや、やっぱ……ヒトカタって、異様な雰囲気あってエグいって……それに、その人形(ドール)こえぇーよッ!!)
(な、何だこの派手な子……めっちゃこっち睨んでるんだが……完全に格好からして超陽キャ女子? ギャル? た、多分、あゆみちゃんの友人なんだろうけど……な、なにかオレに言いたいことがあるのか? まさか、見ていたことが不快だったとか?)
何故か幼馴染の歩が、見た目は完全にギャルの見知らぬ女子生徒を連れて来て、対面させられ内心で困惑している緋影なのである。
お互い心の中でビビりまくっているのだが、無表情の緋影と、表情筋が強張りすぎて不機嫌そうな表情に見える曜子という絵面からは、彼等の内心など誰も察することは出来ず第三者にはただ殺伐とした雰囲気が漂っているようにしか見えない。
そんな、二人の心中を全く察せない系の幼馴染の歩は、曜子の背に隠れながらチラチラ顔出しては照れ隠しなのか顔を赤面させモジモジとしており、時折、曜子の顔を見てはパチパチと瞬きし何か目配せをしていた。
「…………え、えっ…と……よ、ようちゃ…ん?」
(……なんで、ウチィィ!? ヒトカタとは初対面なんだけど!?)
曜子の背後に小動物のように隠れチラチラ顔を出しては緋影にアピールしていた歩だったが、彼に気づかれないと悟った歩は、どうやら親友の曜子に話を切り出してほしいと目配せをしていたのだ。
それにすら曜子に気がつかれない歩は縋るように彼女に対してうるうるした瞳を向け曜子の名前を呼んで頼ろうとするも、呼ばれた曜子は内心で困惑、黙って歩を睨んで心の念を送るしかできないのであった。
「………………あゆみちゃん……久びりだな……えっと……そちらの方は?」
怖い顔で幼馴染の歩を睨みつける曜子に、何を言われるのかと内心ドキドキしていた緋影だったのだが、しかし、彼女は何も言ってこなかった。そのため、ひとまず自分から、曜子の背後に隠れるようにしている幼馴染の歩に声をかけた緋影なのであった。
(よし、自然に話しかけられたな……やればできじゃないか……オレ)
内心で自画自賛する緋影。気分はドヤ顔のつもりだが、相も変わらず無表情であり、そんな緋影に驚く曜子は、目を見開き、うわぁぁぁー!しゃべったぁぁぁー!?といった表情で緋影を見ているうちに、曜子の心にふっとした疑問が浮かんだ。
(……ひ、ヒトカタの奴……ほんとにあゆのこと、あゆみちゃんって呼んでるのか)
曜子は、なぜか歩との初対面のことが脳裏に浮かんだ。歩に下の名前を尋ねた際に言いたくなさそうに自分の名前を答えた彼女が、何故か急に幼馴染は私のことはあゆみちゃんって呼ぶよと嬉しそうに言っていたのを思い出した。
その時、流石に全く違う名前で呼ぶのはどうかと思った曜子は七川 歩(ナナカワ アユム)のことは、あゆと呼ぶと決めたのという経緯がある。曜子は内心でなんであゆみちゃんってあゆの事を呼んでいるのかと聞きたくなったが、正直、緋影に尋ねる勇気は今の曜子にはないのであった。
曜子は友人の歩が自分のことを紹介してくれるだろうと安心して、そんな事を考えていたのだが、自分の背後に隠れている友人の歩は、依然として無言のままだった。
「…………あ!? え、えっ…と……よ、ようちゃ…ん?」
(……え!? いやいや、あゆから紹介してくれって!!!)
長い沈黙の末に、ハッと自分が喋らないといけないのかと気がついた歩は、恥ずかしさと緊張でモジモジしながら縋るようなうるうるな瞳を再び曜子に向けて、彼女の名前を呼んでおり、それに対して曜子はうるうるな歩の瞳を見つめ返し再び念を送る。
そう曜子は自分から緋影に名乗る勇気はないのである。なぜなら、緋影と彼の右前腕に鎮座している呪いの人形(ドール)が怖いからである。
「…………………………………………」
またまた長い沈黙、気まずい雰囲気に誰も口を開かない。いつの間にかりんねちゃんはあゆみちゃんと緋影に呼ばれた女子生徒をものすごい形相(無表情)で睨みつけていた。
(……え? なんだ? なぜ、黙ってるんだろ……気まずいんだが)
(気まずすぎんだろ……ってか、あの人形(ドール)めちゃこえぇーよッ!!! あゆ!!! この空気どうにかしてくれって!!!)
重苦しい雰囲気に耐えれなくなった緋影は再び意を決し今度は、真正面にいる不機嫌そうな(見えるだけ)女子生徒に声をかけることにしたのであった。
「………………あ、えっと……オレは……人形(ヒトカタ)って言うんだが……」
「あ……あぁ……知ってる……あゆから……話はよく聞くし……ウチは轟……轟 曜子(トドロキ ヨウコ)あゆとは……高校で仲良くなって……」
「よ、ようちゃ……それ言っちゃダ…メ!」
(あゆみちゃんが……オレの話を? な、なぜに……中学からは疎遠気味だったんだけど……まさか……わ、悪口ではないよな)
「ちっ…ちが……ひ、緋影く…んの話なん…て……し、しな…い…よ」
「………………そうか」
ゆでダコみたいに顔を真っ赤にさせ、照れ隠しからの歩の発言に、ちょっと傷つく緋影なのである。無表情で無感情そうに見える緋影だが、心はガラスのハートでナイーブなのである。
(な、なんか、この人形(ドール)めっちゃ怒ってね!? や、ヤバすぎるって!! マジやべぇって!!!)
今までおとなしくしていたりんねちゃんは泥棒猫がまた二人増えたとハイライトオフのヤンデレ無表情でジッと対面の美少女二人を睨む続けており、それに対して、めちゃくちゃ内心で怖がりまくり、表情がどんどん険しくなる曜子と、恋する乙女の表情を浮かべており、先程から全くりんねちゃんのヤンデレ的視線に気がつかない歩なのであった。
「そ、その……えっ…と……ひ、緋影く…ん……その……な、なん…で……おにんぎょうさ…ん……なん…て持ってる…の?」
(あゆーーーーーーーーーッ!! 空気よめーーーーーーーーッ!! おまえ、そういうとこが陰キャコミュ症って言われるとこだってッ!! ノンデリ属性まで追加する気かよ!!)
可愛らしく首を傾げてそう曜子の背後から尋ねる歩に対して、遠目から恐怖で震えながら事の成り行きを見守っていた生徒たちが一斉にそれ聞いちゃうんだという感じになる。歩的にはただ、緋影との会話のきっかけにと聞いただけなのだが、曜子としては恐ろしいパンドラの箱を開けてしまったのではという危機感で心臓がバクバクになっていた。
「ん? ああ、りんねちゃんのことか?」
「え!? え? えっ…と、そ、そうなの…か…な?」
(いや、あゆッ! こっちに向いて同意を求められても困るんだよぉぉぉッ!!)
抑揚のない声で呪いの人形(ドール)りんねちゃんに視線を向け返事を返す緋影に戸惑う歩は、真っ青でビビリまくっている曜子の方に顔を向けボソッと尋ねるのである。
「……………………」
(いや、人形(ヒトカタ)何で無言!? や、やっぱ聞いちゃあかんやつなんじゃねっ!!)
またしても、沈黙が訪れ黙り込む緋影が恐ろしくてたまらない曜子。そんな彼女と彼女の背に隠れる歩をジッと無表情に見つめ緋影は抑揚のない声で一言こう言った。
「まぁ……色々合ってな」
どう説明しようかと悩みに悩み、正直にりんねちゃんを家に一人置いてくのが可哀想だったからとは恥ずかしくて言えなかった緋影は、誤魔化すことにしたのだが、その発言に対して、色々と深読みをしてしまう周囲の人々と曜子なのである。
(やっぱ、ヤベェー理由があるんじゃねーかッ!! 早くこの場から逃げたいが……あゆに腕掴まれててにげれねぇぇぇよッ!!)
様々なホラー映画を思い浮かべ、あまりに恐ろしすぎる理由を勝手に色々想像し恐怖してしまう曜子は逃げ出そうとしたが、ガッチリ友人の歩に腕をホールドされており、逃げるに逃げれないのであった。
そんな中、曜子の背後に隠れていた歩が何かに気がついたようで疑問顔を浮かべ首を傾げていた。
「あ……あ…れ、そ、そのおにん…ぎょうさ…ん……そんなポーズ…だった…か…な?」
(や、やっぱ動いてるぅぅぅーーーーーーー!! この人形(ドール)ぜっってぇッに呪いの人形(ドール)確定じゃねぇぇーかっ!!!)
いつの間にか、緋影の胸にしがみつき、緋影は私のモノアピールしている呪いの人形(ドール)りんねちゃんなのである。そんな光景を目の前に純粋な疑問顔を浮かべる歩とは対照的に、曜子は恐怖で後退ろうするも、歩からしがみつかれ、背中に張り付かれているため、逃げることもできずに不憫な思いをしているのである。
「そ……その……ひ、緋影く…ん……わ、私に……な、なにかよ…う…………なんてないよ…ね?」
(あゆ……人形(ドール)のことスルーかよ!? お前、マジかぁ………………)
陰キャでいつも小動物のようにおどおどしている友人の歩が、絶対にいつの間にか動いているであろう呪いの人形(ドール)に対して、スルーする姿に目眩がする曜子なのである。
「あ……いや……その……」
「そ、そう…だよ…ね……わ、私に……ようなんて……ないよ…ね」
「いや……ようがないわけでも……なくてな」
「え!? な、なにか…な?」
「あ……いや……その……」
(マジでなんだよ! お前らのそのやり取り……早くウチを解放してくれっ……さっきからこぇーよっ!! 呪いの人形(ドール)がずっとこっち睨んでるんだけど!? ウチどうすれば良いわけ!?)
独特なテンポと雰囲気で二人の世界に入って会話する緋影と歩に対して、怒りの禍々しい呪いオーラを溢れさせ無表情ドールフェイスで曜子の背後を睨み続けるりんねちゃん。それに気がつき甘酸っぱい青春ムードとホラー映画の恐怖シーンを同時に味わっているような複雑珍妙な感覚に陥る可哀想な曜子なのである。
「………あゆみちゃん………制服を……」
「……え?」
「あ、いや………………あゆみちゃん……りんねちゃんと握手するか?」
きょとんと疑問顔を浮かべている幼馴染の歩に、制服を貸してくれとは結局言えず、誤魔化すように言った緋影のこの発言に周囲と曜子はこう思った。
彼女(歩)は死んだと。そんな周囲の雰囲気に全く気づくことなく緋影は話を続ける。
「ドールショップの店員さんいわく、人形(ドール)はおもちか………………じゃなかった……お出迎えしたら自分の娘になるらしいんだ」
(今、ヒトカタの奴……不穏な発言しかけてなかったか!? お前、その人形(ドール)どっから持ってきたんだよ!!! こぇーよ!!!! マジで!!!!)
「そ……そうなん…だ……じゃ…あ、その子は……ひ、緋影く…んの……娘ってこと…なんだ…ね」
「まぁ、そういうことになるな」
ビビりまくる曜子の背からひょこっと前に出てくる歩は、緋影の右前腕に鎮座し、ヤンデレオーラを発しているりんねちゃんの前に立つのである。
「わ、私は七川(ななかわ)って言いま…す……ひ、緋影く…ん……とは幼稚園の……初等部からの……付き合いで…す……よ、よろしく…ね……おにん…ぎょうさ…ん」
歩は緋影の胸にしがみつきながら、ヤンデレオッドアイで睨んできている人形(ドール)のりんねちゃんに頭を下げ挨拶をする。するとりんねちゃんのヤンデレオッドアイが一点に向けられる。
あの利賀 寧々子並みの巨塔がりんねちゃんの前にそびえ立っていたからである。背が低めの歩の暴力的な胸囲に圧倒されるりんねちゃんは次第に怒りのオーラが溢れ出す。巨乳の幼馴染など、最近夫婦になった(なってない)りんねちゃんにとって絶対に許せない存在だったからである。
「な、なん…か、おにん…ぎょうさ…ん……怒って…る?」
(あゆっ!!! ほんと、お前はノンデリだったのか!? く、空気読めって……この呪いの人形(ドール)どっから、どう見てもヒトカタの野郎ことが好きなんだって!!! お前のマウント発言にブチギレてんだよ!!! たぶんだけど!!!!!)
「……じゃあ、よろしくの握手をしようか……りんねちゃん」
そう抑揚のない声で言い放つ緋影に対して、『あ?』という感じでいつの間にか緋影の方を見ているりんねちゃんの首をクイッと正面に向け、りんねちゃんのお手々を掴み正面に差し出す緋影なのである。
彼にされるがままな呪いの人形(ドール)りんねちゃんは、ゴゴゴゴゴッと怒りの呪いのオーラを放っており、周囲は恐怖で震え上がる。
「えっと……ほ、ほんとに……触っていい…の…か…な? おにん…ぎょうさ…ん……な、なん…か……怒って…な…い?」
流石のノンデリ属性の歩も何かを察したようで、気まずそうに幼馴染の緋影に確認を取ると無表情の緋影は禍々しい怒りの呪いオーラを発しているりんねちゃんの方を見る。
「ん? そんなこと無い思うぞ……りんねちゃんはあゆみちゃんと握手したいと思ってると思うぞ」
(ぜってぇーにその人形(ドール)そんなこと思ってないって!!! むしろ殺気放ってるって!!! こえぇよ!!!)
超絶鈍感男の緋影なのである。りんねちゃんは察した――――――緋影はハーレム狙っているのだと。
『ハーレムなんて許さない』と正妻呪いのオーラ漂わせ、いつの間にか再び真上に顔を向け無表情で緋影を睨んでいるりんねちゃんに気がつき彼女の顔をクイッと正面に向けるとそのまま頭を撫でながら緋影は、りんねちゃんは可愛いだろとアピールする。
そんな緋影の反応にドン引きする曜子を尻目に、歩はじっと差し出されたりんねちゃんのお手々を見つめていた。そして、彼女はそっと自分の右手を差し出す。その瞬間、周囲は一瞬静まり返り、まさか本気で握手するつもりなのかという驚愕と恐怖が入り混じった視線が集中した。
まるで次の展開が信じられないかのように、周囲の生徒達はその成り行きをじっと見守る。
「な、仲良く……して…ね」
めちゃくちゃ恐る恐る無理やり緋影に差し出されたりんねちゃんのお手々をちょんとつまみながらそう引きつった陰キャ笑顔でそう言い放つ歩に対して、りんねちゃんは怒りの笑顔(無表情)で『誰が仲良くするか』と返すのである。
「ね…ぇ? 緋影く…ん……おにん…ぎょうさ…ん……さっきよ…り……もっと怒ってな…い? だ、大丈夫か…な?」
「大丈夫、大丈夫、りんねちゃんもあゆみちゃんと仲良くしたいってさ」
「そっ…かぁ……それなら……よかった…よ」
(いやいや、お前を殺すって言ってる気がするぞ!!! マジであゆ……今日にでも死ぬんじゃね!? ていうか、ヒトカタ……お前も今日その人形(ドール)に呪い殺されるんじゃね!?)
りんねちゃんから手を放した歩は、怯えながら一歩下がり、心配そうにそう言った。無表情で適当な発言をする緋影の言葉に、胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべるちょろい歩なのである。しかし、当のりんねちゃんは緋影の発言に対して『誰も言っていませんが』という不満不服といった表情(無表情)でゴゴゴゴゴッと怒っており、そんなりんねちゃんの姿に、曜子は怯えまくり、思わず後ずさりしてしまうのだった。
そんな、怯える曜子に視線を向ける緋影は彼女の方を見て声をかける。
「あ……えっと……轟さんだっけ………………」
「え……あ……な……なに?」
「…………………………………………………………」
(な、なんだよ!? なんで急に黙んだよ!? こえぇって!!!! マジでぇ!!!!!)
なにやら、無表情で黙る緋影にビビりまくる曜子に、なぜか嫉妬の視線を向ける歩と、『お前も泥棒猫なのか?』とヤンデレな視線を向ける呪いの人形(ドール)りんねちゃんなのであった。
(…………流石にあゆみちゃんにはりんねちゃんと握手させて……この子にはさせないのも……悪いよな)
また、迷惑極まりないことを考えていた緋影だのだが、これは彼なりの思いやりなのである。
「……………………えっと、轟さん」
「あ……あぁ……な、何?」
「轟さんもりんねちゃんとあくしゅ……」
「お断りさせていただきます!!!!!!!!」
お手本のような、角度90度の綺麗なお辞儀を披露しながらそう言い放つ曜子の姿を見て、ついに格付けが終了したとビビりまくる周囲の生徒達なのであった。あの轟が見知らぬ男子生徒と呪いの人形(ドール)の舎弟になったのだと勘違いする生徒もいた。
「そ……そうか」
曜子の反応に、緋影はりんねちゃんを触らせなくて良かったような、ちょっと残念なような複雑な心情を抱く。彼は相も変わらず無表情で、その様子に曜子は内心ビビりまくっていた。そんな曜子の反応を見て、呪いの人形(ドール)りんねちゃんは立場を弁えていると感心した様であり、そして、歩はようちゃんも握手すればいいのにと、少し残念そうな表情を浮かべていた。
「あ……ところであゆみちゃんに………………そのだな………………制服……」
「え!? な、な…に?」
「…………………………………………」
しかし、結局のところ、りんねちゃんの制服を作るためには女子の制服が必要で、頼める相手など皆無のぼっちな緋影。幼馴染の歩なら、必死に頼めば貸してくれるかもしれない。再度お願いしようと口を開く緋影だが、その次の言葉を待ちわびる歩の目はワクワク、ソワソワと期待に輝いていた。そのためか、緋影は黙り込んでしまう。
「……せ、制服………………似合ってるな」
「ほわぁっ!? ひ、ひ、緋影く…ん…が…かわ、かわ…わた…わた…私のこ…と……かわ…いっ…て……」
結局、制服を貸して欲しいとは言えなかった緋影は、幼馴染の制服姿を今さら褒めることで誤魔化そうとした。しかし、その言葉を聞いた歩は顔を真っ赤にし、恥ずかしさで固まると、数秒後には戦略的撤退を決意、決行、真っ赤な顔を両手で覆い隠してどこかへ走り去ってしまった。
「え!? お、おい……あゆ……う、ウチを置いてくなって!!!!」
「……え? あ……え?」
曜子はすぐに逃げ出した友人の歩を追いかけていき、一人取り残された緋影は無表情で立ち尽くし、呆然としていた。
(…………ま、まぁ、久しぶりにあゆみちゃんと話せて良かった……よな? これも、りんねちゃんのおかげ……なのか?)
色々あって疎遠気味になっていた幼馴染の七川 歩(ナナカワ アユム)と久しぶりに会話することができ、そのきっかけになったりんねちゃんに心の中で感謝し少し嬉しい気持ちになった緋影は、相も変わらず無表情であった。
そんな彼の心の中を見透かしたかのように、りんねちゃんは無表情のまま、しかしその目にはどこか不穏な光を宿して、緋影をじっと見上げて睨み続ける。『ハーレムも浮気も絶対許さない』とでも言いたげなその視線は、まさにヤンデレ呪いの人形(ドール)なのであった。
だが、緋影はりんねちゃんのヤンデレ視線にも、ヤンデレ呪いのオーラにも全く気がつくことなく自分の教室に向かって歩き出すのであった。
そして、中庭まで逃げてきた歩はというと息を整え、慌てて自分の後を追いかけてきた親友の曜子の方を嬉しそうに振り向くのである。
「ね…ぇ! よ、ようちゃ…ん! 緋影く…ん……制服似合って…るっ…て! やっ…たぁ♪」
「そうか……それは良かったな………………ウチは生きた心地しなかったぞ……マジで……」
「……え? なん…で?」
嬉しそうな笑顔を浮かべて浮かれる友人の歩に対して、曜子はこいつマジかぁという顔になり、今更ながらに疲れがどっと訪れ、やつれた表情でそう言い返す。そんな曜子に首を傾げて疑問顔の歩なのである。
「いやいや、あゆ……お前、あの人形(ドール)怖くなかったのかよ!?」
曜子は歩をまじまじと見つめながら、その疑問を口にする。緊張した面持ちで、人形のことが頭から離れない。だが、歩は意外にもあっさりとした反応を見せた。
「おにん…ぎょうさ…ん? ちょっと、怖かった…か…な」
「ちょっと!? いやいや、あれはぜっってぇに呪いの人形(ドール)だって!! マジで怖かったぞ!!」
曜子は勢いを増して言葉を重ねるも、友人の歩の反応はあまりにも鈍いのである。
「そ、そうか…な……そこま…で……悪意は……感じなかったけ…ど」
「いやいや! あれは悪意マシマシだって!!! 今にでも呪い殺してやるって感じだったぞ!!!」
曜子は自分の恐怖感を必死に言葉にするが、歩はただ疑問を浮かべるばかりなのである。
「そうか…なぁ……」
「あゆ……お前……マジかぁー」
もはや、この友人は恋愛で脳を焼かれてしまって恐怖心をなくしてしまったのだろうと、呆れ頭を抱える曜子を尻目に、歩は距離を詰め目を輝かせながら提案を口にした。
「ね…ぇ……ま、また緋影く…ん……とおにん…ぎょうさ…んに会いに行こう…よ…………あ……でも……利賀さ…ん……が……」
「いや、ウチはもう絶対に行かないから…………ん? なんで、ここで利賀生徒会長の名前が出てくるんだ?」
曜子の問いかけに、歩の表情が曇る。彼女はなぜか言いにくそうに顔を伏せ、何か言いたいことがあるのに言葉が出てこない様子だった。その沈黙が、曜子の中にさらなる疑問を生み出す。
「そ、それ…は……」
言いたくなさそうな歩の態度で曜子は、利賀生徒会長と何かあったのだろうと察した。聞かなくても歩の表情からは二人の間に何かが隠されていることが伝わってきたのである。
そんな友人の歩の様子に疑問に感じるも、今までの出来事を思い出し、友人の歩に言いたいことがある曜子は真剣な眼差しを向け、歩の両肩をガシッと掴みこう言い放つ。
「まぁ、それはそれとして、あゆ……ウチからひとつだけ言っておくことがある」
「え!? な、な…に!?」
「あゆ………お前は………新しい恋でも見つけたほうが良いと思うぞ」
「えぇ!? な、なんでぇぇ!? ようちゃ…ん、応援…してくれ…る…って、言ってたの…に…なん…で?」
曜子の言葉に、歩は驚愕の表情を浮かべた。彼女の期待を裏切るような発言に、動揺が隠せない歩に曜子は構わず続ける。
「気が変わったんだよ……あれはやめといたほうが良いってッ……マジでッ」
「ふぇぇ、なんでぇぇ、ようちゃ…ん!!」
この瞬間、轟 曜子(トドロキ ヨウコ)は心の中で固く誓った。もう二度と、人形 緋影(ヒトカタ ヒカゲ)とは関わらないと彼女の心の中に強い決意が芽生えた。しかし、その誓いが守られることは決してなかったのであった。
なぜなら、運命というものは、時に人の意志を無視して進むものであるからだ。この先、実は人の良い曜子が友人の歩に振り回される人生を歩むということは運命として決定づけられているからであった。
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