呪いの人形(ドール)をどうするか緊急職員会議が開かれる。
そして、時が経ち昼休みの職員室、この学校史上、前例のない出来事に室内は重苦しい雰囲気に包まれていた。ちなみに四限目の一年一組の授業は担当の先生が逃亡したとのことで自習となった。
「さて、皆さん……えぇえっ、コホンッ、例の一年生が持ち込んだとされる呪いの人形(ドール)をどうするか……という件ですが………………」
重苦しい雰囲気漂う職員室内での長い長い沈黙の末に教頭先生が重い口を開く、目まぐるしく変わりゆく時代、教師という職を含め長い時間を学校で過ごしてきた男性教諭だったが、呪いの人形(ドール)が登校してくるなどという珍事、怪異は初であった。
しかも、昼休みまでに教師が二人気絶、一人は精神に異常が現れ、一人は浦島太郎と一気に老け込み、そして一人は職務放棄と逃亡し現在行方知れずとなっていた。現状、これだけで異常事態である。正直、誰もこの件には関わりたくないようであり、呪いの人形(ドール)を没収し男子生徒を叱るなど到底不可能な状態であった。
そのため、とりあえず様子見をしようという意見が教師陣の総意であったがそれに対して異を唱えるのはなぜか、緊急職員会議に参加している利賀優々子生徒会長なのであった。
「私は反対です! 学校に人形(ドール)を持ち込むことを事実上許可するなんて言語道断ですよ!」
期待とは裏腹に全く校長先生が役立たずだったことで、緊急職員会議にも参加し異を唱える生徒会長の優々子に対して、教師陣は弱腰姿勢であり、難色を示していた。
「その通りですが、校則には呪いの人形(ドール)を持ち込んではいけないなんて書いていませんしねー」
「学業に不要な物は持ち込まないとありますよね? 呪いの人形(ドール)は学業に不要な物なのではないのですか!?」
「ふ、不要か不要かじゃないかは………………あれだ、教師が決めることであるからして………………呪いの人形(ドール)は……もしかしたら……不要ではない…………のかも知れませんし」
「不要に決まってますよね! 呪いの人形(ドール)が学業に不要じゃないならもう、なんでもありになるますよ!」
もはや、どちらが教師なのかわからない問答を繰り広げる教師陣と優々子なのである。断固、呪いの人形(ドール)を認めない優々子に対して、朝の体育教師が声をあげる。
「そ、そうだな………あの人形(ドール)は……だ、男子生徒の……む、娘らしいじゃないか!! 娘は………………世間一般的に…………ふ、不要ではないだろう!」
(あれって、あの男子生徒の娘なんですか!? じゃ、じゃあ、あの男子生徒も化け物ってことなんじゃ!!!!!)
「……人形(ドール)が娘なワケがないじゃないですか!! それと、ひか……彼は人間ですから! とにかく、早く先生方が一致団結し没収するべきです!!!」
体育教師の発言に対して、新米英語教師の女性が顔面蒼白でビビりまくっていると、キッと優々子は体育教師と新米女性教諭をそれぞれ睨みながら強い口調で反論する。新米女性教師は内心で心が読まれたと生徒会長の優々子に対して恐怖心を抱くのであった。
「利賀生徒会長の主張ももっともだが……一年のえぇっと~?」
「……人形(ヒトカタ)じゃ………………人形 緋影(ヒトカタ ヒカゲ)じゃどぉ」
「そう、その人形(ヒトカタ)という生徒のクラス担任が対応しないといけないのではないですかね?」
「えっとぉ、教頭先生……篠山先生は……今も保健室で気を失っててぇ……悪夢を見てるのかぁ……魘されていますねぇ…………もう、ベッドも空きがない状況でぇ、保健室も困ってるんですよねぇ」
教職員一同がゴクリと唾を飲み込み緊張が走る。ここで異を唱えようなら、次は自分が保健室行きであると悟ったからである。直接的に関係ない二学年と三学年の担当教諭達も、いつもなら他学年の問題については厳しく指摘するのに今回は日和見であった。
優々子としては、なんとしても教師陣に立ち上がってもらい一致団結没収という強硬手段に出てほしいところではあるが、流石の優々子でもこの流れはどうにもならなそうであった。
「あれだ。生徒、生徒なら問題ないじゃないのか? 人形(ヒトカタ)とかいう生徒の娘なら……人形(ドール)も生徒ということで大丈夫だろう」
「た、確かにその通りだ!! うん、いいじゃないか!! 人形(ドール)の生徒が居たって……今は多様性の時代……人形(ドール)も学校に通う権利があるというものだ」
要は持ち物ではなく、生徒として認めてしまえば、注意をしたり没収等と言って男子生徒と関わりを持たなくて済むため、二、三年生を担当する教師陣たちが無責任にそう発言すると、一年担当の教師陣が、特に一組の授業を担当する教師達の表情が恐怖に歪む。
「教頭先生……これは教頭先生が決めることです。普段口を尖らせ、風紀を、校則を守れと仰られていた教頭先生なら、人形(ドール)の学内への持ち込みなど断固反対ですよね!!」
もはや、下っ端教師たちは話にならないと、優々子生徒会長は現在で一番発言力と決定権をもっている教頭先生に対して、強い口調で同意を求めるも、教頭先生の目は泳ぎまくっているのである。
「………………わ、私にその権限はないからして………………こ、校長に確認してみないと…………」
「校長先生なら……呪いの人形(ドール)を一目見るなり出張と言って早々ににげ……い、いえ、どこかに行かれましたが……」
見捨てられたのに健気に校長先生を庇ってあげる新米女性教師なのだが、校長先生が逃げ出したことは先輩教師たち全員既に知っていたのであった。
「………………わ、私は多様性の時代を否定する気は毛頭ないのだが……さ、流石に人形(ドール)を生徒として認めるというのは…………」
「「「「「では、教頭先生がどうにかしてください」」」」」
「よし、人形(ドール)を生徒として認めようではないですか……そうだ。後のことは、一年の担当の教師たちに任せる! 私は早速、この件を人形(ヒトカタ)という生徒に報告しなければならないですからね……では、失礼します!!!」
「きょ、教頭先生!? そ、それは早計ではないですか!? の、呪いの人形(ドール)を生徒として認めるなんてだめに決まってますよ!!! 教頭先生!? 教頭!!!!」
教頭先生は、教師陣の圧に屈し、呪いの人形(ドール)りんねちゃんを生徒として認めると宣言し、職員室から素早く逃げ出すように出ていった。そんな教頭先生に再考を促そうと、優々子は大声を上げ、教頭先生を慌てて追いかけていった。
その様子を見届けた教師陣達は、では、後は一年の担当教師たちでといった感じの雰囲気になり、他学年担当の教師たちはそれぞれの仕事に戻っていく。
「と、とりあえず……気絶している篠山先生の代わりに一組の担任を出来る人を決めないとですが………………鬼瓦先生どうですか?」
「………………そうですね……私が自ら一組の担当をしてあげたいのですが……私はもう四組の担任ですから…………なので、ここは新田先生にお願いしようかと」
「ほぇっ!?」
恐る恐る男子教諭が学年主任の鬼瓦先生に尋ねると、終始笑顔で職員会議に参加していた鬼瓦先生は、自分は大丈夫だろうと呑気にしていた新米英語教師の女性に笑顔でそう提案した。これには新米英語教師の新田先生は寝耳に水と目を丸くして素っ頓狂の声を上げた。
「ちょ、ちょっとまってください!! 私、今年からの新人ですよ!? さ、さすがにいきなり担任は無理ですぅ!!!!」
「大丈夫、大丈夫、新田先生は篠山先生と違って気絶しても……保健室に運ばれ数分で気を取り戻したと言うではないですか……恐怖で気を失っても次の授業には間に合いますからちょうどいいでしょう……それに担任といっても、あくまで副担任ですから……まぁ、篠山先生に担任が無理な場合は新田先生が担任ということで問題ないのではないのですか」
涙目ピエンとなり、めちゃくちゃ焦りまくり嫌がる新田先生に近づき肩を叩いて満面な笑顔でそう言い放つ鬼瓦先生に一年担当教師一同は頷き即同意し緊急職員会議は終了となった。
「そ、そそ、そんな理由で!? ちょ、ちょっと待ってください!!!」
散っといった感じで散っていく一年担当の先輩教師たちにピエンとなりながら声をあげる新田先生だったが、誰も聞く耳を持たないのであった。新米新田先生はこうして、一年一組の副担任(ほぼ担任)に就任するのであった。
結局、教頭先生は生徒会長の優々子の意見を完全に無視し、人形 緋影(ヒトカタ ヒカゲ)を生徒指導室に放送で呼び出すと、本当に呪いの人形(ドール)を生徒として認めると発言したそうであり、そのことで生徒会室の生徒会長の席に座り頭を抱える優々子なのである。
「ふん……何が恐怖の呪いの人形(ドール)だ……教師が揃いも揃ってビビって情けない……会長……私が行きますよ……校則違反を見逃しては我々生徒会の名に泥を塗るというもの……ビシッと言って、その呪いの人形(ドール)とやらを取り上げてきますよ!!!」
「……さすがは副会長……では、副会長……お願いできますか?」
メガネをくいっと胸を張ってそう言い放つ生徒会副会長を一瞥し、めちゃくちゃ作り笑いを浮かべながら、お願いする優々子に対して張り切りまくって生徒会室を出ていく副会長にため息がでる優々子なのである。
(まぁ、期待せずに待ちますか……副会長にどうにかできるとも思えませんしね……しかし、ここまで先生方が臆病風に吹かれるということは……やはりあの人形(ドール)危険ですね。どんな手段を用いても、私の緋影からなんとしても引き離さないと……)
そして、優々子は会長席に置かれているノートパソコンに電源を入れると、何やら怪しげな作業を始めるのであった。
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