りんねちゃんVS不良三人組
呪いの人形(ドール)りんねちゃんは緋影の席の机の前端にちょこんと腰を掛け座り、この世のものとは思えないオーラを放っていた。恐怖に震えながら黒板にただただピエンとなりながら英文を書いている新米の英語教師と、黙々とそれをノートに映す生徒達なのである。
まだ、スーツより学生服のほうがしっくり着こなせそうな新米女性教師は背中に寒い視線を感じ、恐る恐る振り返り視線を感じた方を見ると、呪いの人形(ドール)があざ笑って(無表情)いた。
そして、英語教諭がばたんきゅ~と気を失い倒れ、三限目の授業は10分と経たずに終わりを迎えたのであった。
残りの時間は自習となり、授業の終わりのチャイムが鳴ると同時に緋影はおもむろに席を立つと、呪いの人形(ドール)りんねちゃんを机に座らせたまま教室を出て行くのであった。
そう、彼はトイレへと向かったのである。流石に男子トイレまで人形(ドール)であるりんねちゃんを連れて行くわけにはいかないため、りんねちゃんを一人寂しく教室にお留守番をさせることにした緋影なのである。
その事を察したのか、出来る人形(ドール)であるりんねちゃんは、お手洗いまでついて行ったりしませんわと清楚な呪いの人形(ドール)はおとなしくお留守番することにしたようである。
「よ、よしッ!!! ひ、ヒトカタの野郎人形(ドール)を置いて居なくなったぞッ!! いましかネェェェェェッッッーーーー!!」
「オォ? いいネェ………………やんのかヨォ……かわちゃん!!」
「か、かわちゃん!? な、何する気だよ!? ま、まさか!?」
席を立ち、大声をあげるかわちゃんのもとに集まる不良仲間の大柄の山川は腕を鳴らしやる気に満ち、もう一人の小柄な滝山は何かを察したのか冷や汗ダラダラで焦りまくっていた。
「そのまさかだッ!! あんなふざけた人形(ドール)持ってきやがってッ!! この俺様がビビると思ってるのかッ!! あいつがいない今ならあの人形(ドール)をぶっ壊してやれるッ!! あいつに最大級の復讐ができるってわけだぜッ!!」
やっぱりと頭を抱える小柄な滝山と鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる山川に対してやり気満々のかわちゃんなのである。
「そっちかヨォ!!! いやいや、狙うならヒトカタの野郎じゃねぇーのかヨォ!? ぜってぇにあの人形(ドール)のほうがやべぇーだろっ!!!! かわちゃん!!!!!」
「あぁー、うーん……そ、それは…………まぁ、かわちゃん……昔、本気でヒトカタと喧嘩してボッコボコにされて負けてるから……だから、こんな遠回しな嫌がらせみたいなことしかでき……あ、いや、あははは、なんでもないよ、なんでも」
動揺しまくっている山川に、ばつの悪そうな顔で小声で説明する滝山の声が聞こえていたかわちゃんは、怒り狂った瞳を滝山へと向けると愛想笑いを浮かべ必死で誤魔化す滝山なのであった。
「おいッ!!! 滝山ッ!!! 言っとくがなッ俺様は負けてぇからなッ!!!!! それになッ!!! ヒトカタの野郎を直接ボコるよりッ!!! あいつのお気にの人形(ドール)をぶち壊してやったほうがヒトカタの野郎へのダメージがデケェってだけだッ!!! そしてッ、あのすました顔を歪ませてやんだよおッ!!!!!」
「いやいや、かわちゃん…………ま、マジで、やめとけってぇ!! あ、あれは普通の人形(ドール)じゃねぇってぇ!! 多分だけどヨォ………………あの噂の館から持ってきた人形(ドール)なんじゃねぇーのかヨォ? だとしたらヨォ!! マジモンの呪いの人形(ドール)だぜぇ!! あれは!!!」
「そうだよ……かわちゃん…………や、やめといたほうがよくない……絶対にヒトカタ相手にするよりやばいって!!! 絶対に普通じゃないよ……あの人形(ドール)!!!」
拳を掲げそう荒々と言い放つかわちゃんに対して、どうにか阻止したい不良二人は声を荒げてかわちゃんを説得しようと試みるも効果はない。
「うるせぇッ!! うるせぇッ!! たかが呪いの人形(ドール)の一匹や二匹にビビり散らかしてるんじゃねーぞッ!!」
「いや……あ、あんなの二体も居たら世界の終わりだと思うけど……」
そんな会話を繰り広げていた不良三人組は、突如として不気味な視線とともに寒気を感じ時間が停止する。そして、再び時が動き出し恐る恐るとその視線の方を向くと、呪いの人形(ドール)が顔を向けてこちらを見ていたのである。先程まで正面を向いて座っていたはずの呪いの人形(ドール)は不良三人組の方を向いて無表情に見つめていた。
「あ、あの人形(ドール)……こ、こっちを見てるよ!! さ、さっきまでしょ、正面を向いていたはずなのにぃぃぃぃ!!」
「か、かわちゃん……マジでよぉッ、やべぇぇってッ!!」
腰を抜かし、恐怖に慌てふためく二人とは対象的に、寒気を感じ冷や汗が流れるが、拳を鳴らし自身を奮い立たせ好戦的な態度を取るかわちゃんに呪いの人形(ドール)は鴨が葱を背負ってやってきたとばかりに不良のかわちゃんを眺めていた。
緋影が戻ってくるまでの玩具を見つけたと喜んでいる様子の無表情のりんねちゃんは、先程の落とし前をつけてもらおうと不良風に習っている様子。
「…………あ、あんなモンで俺様を脅しにかかろうとしやがるとはッ!! ひ、ヒトカタッ!! ゆるせねぇぜッ!!!! 絶対に後悔させてやるッ!!!!!」
挑発的な無表情でこちらをジッと見ている呪いの人形(ドール)に対して、不良魂とばかりに勇気を出し緋影の席へと向かって行くかわちゃんを必死に引き留めようとする不良二人なのである。
「や、止めとけってぇ!!! マジヤバイってぇ!!! 鬼瓦の授業の時見ただろぉぉぉ!!! あの人形(ドール)瞬間移動してたぞぉ!!!! マジモンの呪いの人形(ドール)だってぇ!!!! マジで呪われたら死ぬぜぇ!!! かわちゃん!!!!!」
「そうだよ!!! 止めといたほうがいいよ!!! かわちゃん!!!」
いざ出陣と呪いの人形(ドール)に負け戦を挑みに行こうとするマヌケな総大将を必死で止めようとするが如く左右の腕にそれぞれがしがみつく不良二人を無理やり振りほどき、ずんずんと勇ましく呪いの人形(ドール)に立ち向かっていくかわちゃんに教室に残っていた僅かな生徒達は期待の眼差しを向けた。
そんな、かわちゃんに対していつの間にか対峙するように机の右端に腰を掛け余裕綽々な呪いの人形(ドール)りんねちゃんにやっぱ、この人形(ドール)いつの間にか動いてる!!!となる不良二人に対して、挑発と受け取ったかわちゃんが恐怖に引きつる顔を浮かべるも、やる気満々と近づいていく。
「あの不気味なヒトカタに比べればこんな人形(ドール)なんぼのもんだってんだッ!!!!」
「いや、かわちゃん……それは、それで……後で怒ったヒトカタにボコられるの確定なんじゃない?」
「てか、かわちゃん……どんだけヒトカタの野郎にビビってんだヨォ!? そ、そんなにヒトカタの野郎はヤベェのかヨォ!!!! あの人形(ドール)よりやべぇのかヨォ!?」
彼らの会話のせいで、教室内に僅か数名と残っていた生徒達の中で誤解がドンドン加速し、やっぱりあの男子生徒はヤバイ奴なのだという認識が広まっていくのであった。
タイマンだぁッ!とヤンキー夜露死苦と仁王立ちで呪いの人形(ドール)の前に威風堂々と立つかわちゃんに対して、雑魚が意気がってるぅ♪とメスガキならぬメス人形(ドール)の挑発的無表情で迎え撃つりんねちゃん。
「おらぁッ!!!! 覚悟しろやぁッ!!!! このクソドールがぁッ!!!!!」
闇のオーラ漂わせている呪いの人形(ドール)に勇気を出して拳を振りかぶるかわちゃんの顔面に突如として窓の外からテニスボールが飛んできた。
「ぼぉあぁぁぁぁぁっっっッ!!!!!」
「「かわちゃぁぁぁーーーーんッ!!!!」」
世界がスローモーションになり、テニスボールが顔面に激突、顔面が陥没するかわちゃんは悲鳴をあげながらゆっくりと後ろに吹き飛び、その様子を見ていた不良二人が心配そうな叫び声をあげている。
面白いように吹き飛び教室の入口まで飛んて、ベシャッと地面に倒れ伏したかわちゃんに心配そうに駆け寄る不良の二人組みを真っ赤な瞳と深紅の瞳でジッと眺めている呪いの人形(ドール)は不気味に微笑んでいるように見えるが、もちろん、無表情である。
「くッ、クソがッ!!!! な、舐めやがってッ!!!! もう、ぜってぇーッ、許さねぇッかならなッッ!!!!」
鼻血を制服の裾で拭き取り、握り拳を振りかざし勢いよく呪いの人形(ドール)めがけて再度特攻するかわちゃんに、余裕の無表情なりんねちゃんである。
そして、かわちゃんは、野球ボール、バレーボール、バスケットボール、トドメのサッカーボールと呪いの人形(ドール)に殴りかかろうとしては顔面に様々なボールが激突しては入口まで吹き飛ぶを繰り返した。
「お、おいッ!! そこの陰キャ野郎!!!! ヒトカタの席の窓を閉めろッ!!!!!」
「え!? な、なんでぼ、僕が…………」
「いいからッ!!! 閉めろッッ!!!!!」
案外、慣れれば陽キャが騒がない教室は居心地がいいかもしれないと思い始めていたクラスカースト最下位のぼっち陰キャ君に無理難題をぶつけるかわちゃんに、早々に教室に残っていたことを後悔し、陽キャで不良の命令には逆らえないと、恐る恐る呪いの人形(ドール)が座る席の窓に近づいてなんとか閉めることに成功した陰キャ君は脱兎の如く、急いでその場を離れるのであった。
「これでッお得意のボール攻撃は出来ねぇだろッ!!!! 覚悟しろやッぶっ壊してやるよッッ!!!!!」
再び突撃するかわちゃんの後頭部にラグビーボールのとんがった部分が突き刺さり、前のめりに地面へと激突し、顔面と後頭部にクリティカルヒットダメージを受ける。そんな彼に対してりんねちゃんはざーこざぁこざこぉー♪とメスガキ笑い(無表情)で爆笑(無音)しているように見えた。
「このくそがぁッッ!!!!!」
後頭部に突き刺さったラグビーボールを手に取り、呪いの人形(ドール)に投げつけるかわちゃんなのだが、何故かラグビーボールは急カーブ反転しかわちゃんの顔面めがけて飛んでいきぶつかるのであった。
「も、もう止めとけってぇ!!! かわちゃん!!!! 死ぬぜぇマジでぇ!!!」
「……うッ、うっせぇッ!!! ここでッ止めるわけにはなぁッ!!! 行かねんだよッ!!!! おいッ!!! 山川ッ!!! 後ろの窓抑えとけッ!!! あと、陰キャテメェは前の窓だッ!!!!」
もはや、止まるんじゃねぇぞ……。状態で、死亡フラグ立てまくりのかわちゃんは顔面に突き刺さったラグビーボールを地面に投げ捨て大声で山川と陰キャ男子に命令し、それをなんとか実行する二人を確認し、顔面ピキピキピーマンとなって呪いの人形(ドール)に向き合うとかわちゃんは拳を鳴らす。
「これでッ!!! テメェも終わりだなッ!!!! クソ手間取らせやがってッ!!!! 死にさらせッッ!!!!!」
そして、再度、机の上で余裕綽々と鎮座する呪いの人形(ドール)に襲いかかると突如として、掃除道具入れのロッカーの扉が開き箒が倒れると同時にかわちゃんに向かって飛んでいく。
「おほぉぉぉぉぉぉぉっっおぉぉぉっっっ!!!!!」
そして、掃除で使う箒の先端がかわちゃんのおしりにナイスシュートと突き刺さる。男として出してはいけない声と表情を浮かべ、宣言通り男として死を晒したかわちゃんに周囲はドン引きしており、りんねちゃんもどこかドン引きした無表情なのである。
「………………あ……あぁ、う、うん……こ、この箒はす、捨てようか」
「………………あ、ああ、それが良いとおもうぜぇ!!!」
かわちゃんのおしりから抜け落ちた箒を汚物が見るような目で見ながらも、滝山はなんとか拾い上げ、ゴミ箱へシュートしその行為に対して激しく同意する山川と僅かにいるクラスメイト達なのであった。
「………………てめぇらッ!!!!!!」
男の尊厳を踏みにじられ本気でブチギレ周りを威圧しまくるかわちゃんに周囲は視線を逸らす。おしりを抑え立ち上がり、何故かかわちゃんを無表情で指さしている呪いの人形(ドール)はどうやら大爆笑しているようにも見え、怒り狂うかわちゃんなのである。
「このドールがぁぁぁぁッッッ!!!!!!!」
「何やってるんだ? かわちゃん?」
そのままの勢いでかわちゃんは呪いの人形(ドール)に襲いかかろうとするも、トイレから戻ってきた緋影の冷たい視線と声で、拳を振り上げたままピタッと固まり冷や汗ダラダラになる。りんねちゃんは計算通りと悪役顔の無表情を一瞬浮かべ、こいつがいじめるとばかりにピエンと被害者面の無表情で近づいてくる緋影にいつの間にか抱っこを所望するポーズを取っていた。
緋影は、そんなりんねちゃんを抱っこし、今だに拳を振り上げたまま固まるかわちゃんの方を向き無表情で彼を見る。
「いッ、いやッ……そ、そいつがッ!!!!」
緋影に抱っこされながらあっかんべーと目元に人差し指を当てながら無表情ドールフェイスで不良のかわちゃんを挑発する呪いの人形(ドール)りんねちゃんを指差し慌てまくるかわちゃんに対して緋影は首を傾げる。
「ん? りんねちゃんがどうかしたのか?」
腕の中でおとなしく抱っこされているりんねちゃんを見る緋影、もちろん、あっかんべーなどしていないりんねちゃんは緋影の腕の中でお淑やかにしているのであった。
(ああ、なるほど……人形(ドール)が珍しくて触りたかったのか………………しかし、りんねちゃんをあまり他の人に触らせたくはないんだよな…………どうするか…………)
りんねちゃんを指差し動揺しまくっているかわちゃんに対して、何を勘違いしたのか緋影はそんなことを考え、数秒の沈黙後、動揺するかわちゃんに質問する。
「…………かわちゃん……そんなにりんねちゃんに触りたかったのか?」
「えッ!? あ、ぁぁああぁッッッッッッ」
緋影のあまりにも斜め上の意外すぎる発言に恐怖で喉が詰まり、声がかすれて上ずったかわちゃんに対して、緋影の鋭い視線と、りんねちゃんのえ!?という動揺の無表情がかわちゃんを捉える。
「……………………まぁ………………オレの数少ない知人のかわちゃんの頼みだしな………………りんねちゃんと…………握手ぐらいなら…………いいぞ」
(そんなこと俺様は頼んでねぇぞッ!!!!!)
上ずった声を肯定と受け取った緋影は、悩みに悩んだ結果、そう言って抱きかかえているりんねちゃんのお手々を持ちかわちゃんの方に差し出すのである。その行為がめちゃくちゃ不服で不満そう(無表情)なりんねちゃんなのである。
殺気とともに差し出されるりんねちゃんの可愛らしい右のお手々をジッと冷や汗ダラダラの恐怖顔で見つめるかわちゃん。
賢い呪いの人形(ドール)であるりんねちゃんは理解したのである。これが、はい仲直りしましょうで強制的に握手をさせられる学校イベントなのかと、確かにこのイベントはクソだと認識したりんねちゃんは絶対に握手などしたくないのである。
先程までとは打って変わって、呪いの人形(ドール)りんねちゃんからは殺気のこもった本気の呪いのオーラが溢れ出しており、教室内はどす黒い雰囲気に包まれ異界と化し、残っていた生徒達は恐怖で震え上がっていた。
対峙するかわちゃんは全てを理解したのである。先程は弄ばれていただけでものすごく手加減されていたことに――――――自分は捕食者側だと思っていたが、実は被食者側の人間だと理解させられたのだ。今までのとは比べ物にならないくらい恐怖の圧が襲いかかってくる。
触ったら殺す、触ったら殺す、触ったら殺す、触ったら殺す。そう脳内で聞こえるはずのない呪いの人形(ドール)の声が聞こえ壊れたラジオのようにループしている気がし吐き気と寒気に襲われる。
そして、不良のかわちゃんはあまりの恐怖に絶えきれずついに泡を吹いて倒れたのであった。
「かわちゃーーーーーん!!」
「ひ、ひとかたッ!! も、もうかわちゃんを許してやってくれぇ!! 後生だからよぉッ!! 頼むッ!!!!!!」
ホラーよろしくと白目を向いて直立不動で倒れたかわちゃんに心配で駆け寄る不良二人が本気で緋影に頭を下げ土下座し許しを請う姿に首を傾げる緋影と、握手しなくて良かったと本気で安堵している無表情りんねちゃんなのである。
「……? よくわからんが……とりあえず、かわちゃんを保健室に連れて行ったほうが良いんじゃないか?」
無表情で抑揚のない声でそう緋影が言い放ったことで、不良二人は慌ててかわちゃんを保健室に連れて行くのであった。そして、クラスメイトはこの一連の事件の結果、このクラスのカーストトップが誰かをはっきりと認識したのであった。
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