初恋はクラスの陰キャじゃないから!

mamoo

第1話 「石田君。」

〇7月1日(水)



「ねえねえ、美穂の好きな人は?」


 どうやら麻衣は宿題に飽きてしまったようだ。ミディアムボブの髪をいじりながら聞いてくる。


 放課後、2人きりの教室。青嵐が校庭の木々を揺らす。


「教えないよ。」


 丸付けをしながら言う。

 もう7月。野球部は暑い中ランニングをしている。


「何でよー!秘密にするからぁ!一生のお願い!」


 こうなったら麻衣は聞かない。じっと私を見つめてくる。


 今更いないと言っても納得しないだろう。しょうがない、適当にぱっと思いついた人を言おう。

 知っている男子…。人気ではなく、ちょうどいい男子…。


「…石田君。」


 石田終。席替えで隣の席になったばかり。身長は私より少し高いぐらいで、細く色白。黒縁眼鏡で少しくせ毛。テストではいつも上位にいる。たぶん堅物。

 一回しか話したことがない、クラスの陰キャだ。


 これこそ最適解!麻衣もちょっかいは出しずらい。マジ天才だわ。


「えー!嘘ー!これは私が恋のキューピットになるしかないじゃん!応援するよ!」


 …まずい。やらかした。とりあえず麻衣を止めないと。


「あ、私、今日委員会の仕事あるんだった!やばいー!先帰ってて!」


 一瞬で教室を出て行ってしまった…。


 段々遠のく足音と耳に、私は頭を抱えるしかなかった。




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