たった1回で煙草を卒業した話

龍神雲

第1話 たった1回で煙草を卒業した話

 黒歴史をネットに公開したことで多くの人の目に触れられ、それが更なる黒歴史になるリスクになるかもしれない――そう考えると一番の黒歴史は安易に公開できない。

 しかし一番の黒歴史ではなく二番、三番、もしくはそれ以降の黒歴史であれば私もダメージが少ないので三番目の黒歴史を公開しようと思います。


 この話は私が幼稚園に通っていた頃に遡ります。

 幼稚園の頃といえば大人がしていることに興味を持つ年頃で、よく大人の真似をしていました。

 例えば母親が化粧台の前で化粧をしているのに興味を持ち、自分も化粧をしたいと母にせがんでは断られ、母が居ない隙を見計らって口紅を塗ったくって怒られることはざらでした。

 とまれ、母のお化粧よりも興味を持ったのは父の行動でした。

 思えば私は父が大好きっ子でした。

 父は仕事の作業をする一階の作業場でよく煙草を吸ってまして、父が吸っていた煙草に興味を持っていた私は、

「ねぇねぇお父さん、それ美味しいの?」

 と聞いていました。すると父は、

「美味しくはないしこれは食べるものじゃないよ?」と答えました。

 父が毎回そう答えるので、美味しくない物なのに何で毎日口にくわえて吸っているんだろう? そんな疑問でいっぱいでしたが、それでも私の興味は変わらず――

「私も吸いたい!」と言っては「これは子供が吸っちゃダメなやつ」と断られる――そんな攻防を繰り広げておりました。

 煙草を吸わせてはくれなかったのですが、

「煙でドーナツの輪っかを作ってみて」と頼むと父は必ず輪っかを幾つか宙に作ってくれました。


 兎角私は父が吸う煙草の煙を見ているのが好きで、願わくば煙草をくわえて自分で煙を出してみたいと考え、父にずっと張り付いてました。

 そんなある日、チャンスが訪れました。父が作業場で仕事をしながら煙草を吸っていた時に家電が鳴り、父は煙草を一旦灰皿に置いて電話を取りに向かいました。

 煙草の灰皿と電話の距離は約2mほどだったと思います。

 透かさず私は灰皿に向かい、吸いさしの煙草を手に取り、迷わず口にくわえて吸い込みました。

 今でも覚えているのは口の中が火傷する程に熱くなった後、舌に広がる煙の苦さで苦しくなり――

「ゲホッ! ガハッ!? ゴホッ!?」と噎せこみ――

「ンベッェエ!」

 黄色い痰を大量に吐き出して涙したことです。異変に気付いた父は慌てて電話を切り、

「言わんこっちゃない……! 不味かっただろう?」

 父は私の行動に怒らずに苦笑してました。誤飲ではなかったので大事には至らなかったのですがそれ以降、父の煙草に興味を持つことはなく煙草が嫌いになり、煙草を吸うこともこの日が最初で最後になりました。

 ともあれ、幼稚園の時の苦い経験のおかげで煙草がなくても生きていけるのである意味、エコ(?)で良かったなと今では思います(笑)


 余談ですが今現在、父は煙草を全く吸っておりません。煙草を吸わなくなったのは喉付近の皮膚に良性の腫瘤ができて手術したのもありますが――

「煙草は百害あって一利なしって分かったでしょ? もう煙草は卒業しようね?」

 煙草の煙と臭いを煙たがる実の娘(※私)に問答無用でタスポをハサミで切り刻まれ、無理矢理卒業させられたことが切っ掛けでしょうね(酷いねw)


 ちなみに私はアニメや漫画等の架空の話で登場する煙草を吸うキャラクターは好きです。アニメや漫画に限らずドラマや映画や小説で煙草を吸うシーンがあっても何とも思いませんし、むしろ煙草を吸うキャラが好きなので、小説を書く際も煙草を吸うキャラクターを登場させてたりしてます(笑)


 完結

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