秋完成冬に至りし自由の森 ~昭和の晩秋を撃て!

第215話 静けさを挟んだ熱狂と激情

どのチームとどのチームかは置くとして、

毎年この時期は、日本シリーズが行われる。

あの年彼は、その日本シリーズを昼からじっくり見ることができた。

土曜日は、岡山大学の学生会館で。

日曜日と平日は、メディアコムという場所のテレビで。

あ、そうか、水曜日は学生会館で観たっけな。

水曜と土曜は、鉄道研究会の例会があったからな。


彼は、定時制高校にいったん行くことになった。

そして現にいっていたのだが、次の道をすでに用意していた。

ただただ喚くだけの担当保母など、歯牙にもかけていなかった。

テメエがあんたの指導者よと言いたげなその職員の態度。

彼とは8歳の年齢差があった。

女っ気など何一つ感じさせず、小太りで背も低く、

ただそこにいるだけの、何より無能な20代前半の女。

彼女の言動について、彼は、思い出したくもないという。

後に彼女らを統括していた男性職員らは誰も、

彼女のことについて、彼の前で触れることさえできなかった。

彼女の名前が、その話の中に出たためしもない。

余程、出せないくらいの後ろめたさがあったに違いない。


ふと思い出した。

あの理想泥酔者の言動。

彼は、彼の怒りを正面から受けるのを恐れていたに違いない。

彼女の名前だけは、一度も触れなかった。

彼の罵声が飛ぶことくらい、予見できていたのであろうな。

どんなに静かに穏やかに話そうが、オブラードに包まれていようが、

無論、あらん限りの激情をもってどやしつけてこようが、

どのみち、その回答内容は一つに決まっていたのだから。


三下り半をつける前の、嵐の前の静けさ。

その静けさの向こうには、熱狂があった。

1985年日本シリーズのあの時期の、静けさを挟んだ熱狂と激情。

その答えは、38年後にマグマの如く溢れ始めた。


彼の戦後処理は、二つの大戦の狭間で静かに進められてきた。

その総括は、もうすぐ終わる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る