第186話 彼をして必要十分なるもの

彼らにとって、家庭とは何なのか。

かの作家に言わせれば、こう。


そんなものは小手先の目クラマシに過ぎない。

結婚して子どもが生まれ、その子に託していく幸せ。

そんなものは、姑息な子どもだましでしかない。


あの田舎県の無能職員どもにとって、家制度というものは、

昭和末期でさえ、まだ、使い出のある子どもだましであった。

手に職という言葉と、家庭、家族、子どもに託す。


それは、彼の前に立ちはだかった児童福祉の者らもそうだった。

心配ごかして幼少期からの彼にまとわりついていたあの女性も、

家制度なんてわからないと思いつつ、それをトレースしていた。


それらを彼は、すべてゴミ箱送りにした。

小手先の目クラマシたる子どもだまし。

彼のその言葉は、時空を超えて21世紀の今を揺るがしている。


彼のペンの牙にかかるのは、家制度を信奉する盆暗保守ばかりではない。

そこからあふれた者らを寄せ付けて群れさせて利益をむさぼろうとする、

パヨクと呼ばれる者たちにもその牙は容赦なく向けられている。


彼の前には、群れ合って傷のなめ合いの出来る仲間などいない。

彼の心をいやすと思われる家庭など、あるわけもない。

無論、彼には故郷と呼ばれる郷愁を呼ぶ地など、どこにもありはしない。


あるのはただ、書いて書いて書きまくったその著作物と、

1969年9月12日より、この世にて生きてきた事実。

ただそれだけ。彼にはそれだけで、必要十分なのである。

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