第175話 100年後の彼岸~秋分の日・2024

前回の覇者は10秒8。今回の覇者は10秒6。

100メートルを9秒台で走る人類など、いなかった。

彼がパリ五輪で金メダルを獲得して、ちょうど100年。

100年後の今年も、秋は飽きずにやってきました。


ハロルド・エイブラハムズの闘いは、その夏、終わった。

彼は、退屈かもしれぬが希望に満ちた生活へと、戻った。

彼を支えた名コーチであるサム・マサビーニは、

その栄光を見届け美酒を浴び、その数年後鬼籍に入った。


それから、100年後の2024年。

今年も、秋は、飽きずにやってきました。

商売に飽きたか飽きずか辞めた人もたくさんいるが、

秋は、飽きずに必ず、この時期、やってきます。


暑さ寒さも彼岸まで 誤差は問うなよキリがないから

倒置法を利かせた都都逸述べども、多勢に影響、なし。

今年も、お彼岸。墓参りに行く今生の人、かくも多数。

墓参りに行けずとも故人に思いはせる人、さらに多数。


彼をモデルにした映画は、彼の死の3年後の1981年、

アカデミー賞受賞作品の栄誉に輝いた。

その年、極東の島国の片田舎県の県都の郊外に、

あの少年は強制移住させられたという。当時小学6年生。


その年も、確かに彼岸はやってきていた。

だが、あの少年はそのことに気付いていなかったのかもしれない。

少年にとって、ハロルド青年の活躍は半世紀以上前の話だった。

今や、元少年の作家のあの幼少期が半世紀以上前になる日も近い。


かくして、この100年間。

秋の彼岸は、必ずこの時期にやって来た。

そしてこれから100年間。

秋の彼岸は、必ずこの時期にやってくる。


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