第109話 この世のかまゆで

私が養護施設を飛び出して、はや40年近くが経つ。

夏の暑さは、当時の比ではなくなった。

あの頃はまだ、どこか救いのある暑さだったように思われる。

今の暑さは、とてもではないが冷房なしでは耐えられない。


この暑さの中生きていくことは、

この世に居ながらにして地獄を味わうことである。


地獄つくるに窯などいらぬ、猛暑日数日続けばよい。


かくも安易にして安上がりな地獄は、今生で味わえます。

最高気温は既に体温を超え、

日の当たる場所の気温は実質さらに高い。

さすがにこれでは難であるから、エアコンの中へ。


そよ風が吹き、風鈴のひとつもあれば風流を感じられる夏。

そんなものは、どこかの避暑地くらいのもの。


この世のそれなりの場所で生きていくには、

かまゆでから身を隠し、時が過ぎていくのを待つこと。

それが、求められているのです。

さあ、がんばってこの夏を耐えていきましょう。


だけど、昭和末期の養護施設には、

冷房なんてどこにもなかったからな。

今思えば、よくあんなところで耐えられていたものだ。

今時、冷房のない「家」なんかに住ませようものなら、

虐待認定確実だぜ。

部屋の中まで「かまゆで」は、まずいよな。


そこを「寮」なんて名前を付けてごまかすことは、もう無理だね。

そんな名前、養護施設でさえ流行らねえよ。

あ、今は、児童養護施設。ますます、無理やないか。

いわんや、一般社会においてをや。

って、時代なの。

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