第97話 唾棄された家庭論
かの青年には、そんなものは通用しなかった。
まやかしの家庭論
ごまかしの家庭論
子どもだましの家庭論
出来損ないの家庭論
安普請の家庭論
家制度の劣化した家庭論
ゴミのような家庭論
理想ごかしの家庭論
家に帰れば家族に迎えてもらえられる温かさ
そこには妻がいて、子がいて・・・
彼女の、彼の笑顔に癒されて・・・
そこで一緒に、おいしいご飯を食べて・・・
彼はその素晴らしさを説こうとした。
だが、無駄だった。
現実を考えなさいとか何とか、
わかった口を弾除けにした保母にわめかせても、一切通用しなかった。
それはすでに、あの処世に長けた同僚によって実証済。
それに大体、彼の唱える言葉自体が、
現実的でない、夢にさえならぬ理想論の典型だったのだから。
よしんばかの青年が将来的に結婚して子女が出生したとしても、
それはその時のこと。
そんなものは、あとからついてくるものに過ぎない。
かの青年には、少なくともその時点ではそんなもの必要なかったのである。
必要なのは、プロとして生きていくための能力育成。
それを指導できる能力など覚束ない彼としては、
気休めにもならぬ絵空事を述べるしかなかったのであろう。
それで自分に振り向いて欲しいとばかりに、
まるで、もてない小学生が女子にちょっかいかけるかのように。
それ自体が子どもだましに過ぎないことに、
彼は、気づけていなかったのだろうか?
彼の住む家に実現したことであるからと言って、
それが他の地で、他人に、同じように実現するとは限らない。
あの青年は元入所児童。だが、しょせんは他人。
プロとして生きるべく大学に学ぶあの青年には、
そんな寝言に耳を貸してやるヒマなどあるわけもない。
酒も飲まずに理想に酔ってテメエの感想感情を並べ立てた、
元児童指導員の彼。
気安い上にぼろい商売だったなと、後に彼は総括された。
彼は、人知れず涙を流すしかなかったという。
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