第54話 いかに詭弁を弄そうと。

詭弁? 弄せるものなら弄してみろ。


日本国憲法には、居住・移転の自由が規定されている。

さあ、彼の幼少期はどうだったであろうか。

詭弁? 弄せるものなら弄してみろ。


いくら未成年者、それも幼少とは言え、彼にその恩恵はないも同然だった。

いかに詭弁を弄そうと。


彼は6歳になって間もなく、児童相談所という場所に送られた。

随分窮屈な場所だという印象を、今も持っている。

彼はその地の生活を、今、うっすらと思い出した。

あんなものは、人間の住む場所ではない。

その地に送った挙句に養護施設に措置したのは、岡山県である。

いかに詭弁を弄そうと。


養護施設に、彼は18歳の大学に入る年までいた。

そこは彼にとって、住んで都となるような場所などでは到底なかった。

いかに詭弁を弄そうと。


彼は大学卒業後も、岡山という地にとどまった。

しかしそのことは、彼をして心の病を悪化させることとなった。

いかに詭弁を弄そうと。


そして彼はある時、自著を出した。

この県からは出ると、そこで期限を区切って公言した。

彼は述べた。

これは、押し付けられたものである。よって、排除せねばならぬ。

いかに詭弁を弄そうと。


その後一度岡山県から出た彼は、6年後、戻る羽目になった。

心の病は、6年間のうちに癒されていた。

しかし、彼は岡山県を故郷などと感じたことは一度もない。

いかに詭弁を弄そうと。


彼には、帰る故郷などどこにもないのである。

いかに詭弁を弄そうと。


詭弁? 弄せるものなら弄してみろ。

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