第46話 味方

 如月きさらぎが合流したことにより、俺・日向ひなたさん・如月・結瑠璃ゆるりちゃんという、ハーレム状態になった。ラノベ風にタイトルをつけるなら、『会社の後輩とデートしていただけなのに、なぜかハーレムになった件』といった感じだろうか。


 如月が日向さんの横に座ったことにより、俺から見て対面の左に結瑠璃ちゃん、正面に日向さん、右に如月という位置関係になった。

 どちら側もソファ席なのに、俺一人にテーブルをはさんで女の子三人ということになる。


「四人いたら普通二人ずつに分かれない? 俺、嫌われてるの? それとも俺の考え方がおかしいの?」


「私はアンタの横なんて嫌よ」


「ハッキリ言うんじゃない!」


「なら私は結瑠璃の横にしようかな」


「最初からそう言ってくれれば、俺の心がダメージを負うことなんてなかったのに」


「日向さん、悪いけど向こう側に移動してくれないかな?」


「分かりました! 気にしないでください!」


 というわけで俺の右側に日向さんが来たので、俺から見て正面に結瑠璃ちゃん、その少し右側に如月という位置関係に変わった。


 思い返せば仕事以外で、日向さんと隣同士で座るのは初めてかもしれない。テーブル席の場合は、二人だと対面で座ることが多いからだろう。


 二人で四人がけの席に座る場合、隣同士で座る人達をたまに見かけるが、あれはあれですげーなと思う。もちろん正解なんて無いから、ダメってことではないけど。


「それで今日はなんでこんなことになったの?」


 如月が全員に聞いたので、結瑠璃ちゃんが率先して答える。


「お姉ちゃんがおすすめしてくれたWeb小説の話をしたら、日向さんがご飯に誘ってくれたんだよ」


 如月が結瑠璃ちゃんにおすすめしたWeb小説とは、『嫌われ令嬢は魔王を倒して完璧王子と結婚したい』という、作者が日向さんの作品のことだ。


「そうなんだ。前に昼休み中に私が言った作品のことね。日向さんもあの作品のファンになってくれたの? あ、そういえばあの時、日向さんがお茶を大量にこぼしたんだっけ」


「あの時は恥ずかしいところをお見せしました」


「そんなことないわよ。むしろ日向さん可愛いなって思ったから」


「今の方が恥ずかしいです……」


 日向さんは横に居るから表情が見えづらい。でも表情を見たいから、右を向く。申し訳なさそうに下を向いていてめちゃくちゃ可愛かった。


「日向さんはあの作品のどういうところが好きなんですか?」


「えっ!? えーっと、それはね」


 作者なんだから全部好きに決まってるだろうけど、うっかり作者しか知らない裏設定とか答えたりしないか心配だ。


「あの作品はね、ツラい境遇でも頑張っていれば、見ていてくれる人がいて、周りの人にもそれが伝わって、自分で幸せを掴み取ることができるんじゃないかという、希望を感じさせてくれるところかな」


「分かります! 努力は報われるというか、世の中そうでないといけないんです!」


「そうね、私もそう思うわ」


「みんなでもっと、あの作品のいいところや面白いところを挙げていきましょう!」


 結瑠璃ちゃんのその言葉を皮切りに、『日向さんの作品』をべた褒めする大会がスタートした。無論そこに作者である日向さんも含まれている。


 てっきり日向さんは恥ずかしがって、終始下を向いたままになるのかと思いきや、一つ褒められる度に表情がとろけていた。ファンの生の声というやつだ。

 嬉しそうな日向さんを見ていると、俺も嬉しくなる。


 四人もいれば一つくらいは不満なところも出てきそうなものだが、それを口にした人は一人もいなかった。

 好きなものの話を好きなだけできるので、如月姉妹も本当に楽しそうだ。まさか目の前に居る人が作者だなんて、考えもしないだろう。


「そろそろ出ましょうか」


 如月の言葉を聞いて時計を見ると、二時間が過ぎていた。本当になんで楽しい時間は過ぎるのがあっという間なんだろう。


「ねえねえ、次はどこに行くの? お姉ちゃんも来たことだし、みんなでゲームでもしに行かない?」


 結瑠璃ちゃんが目を輝かせて楽しそうな提案をしてきた。始めから四人で出かける予定ならそれでも良かったが、今日は俺にとっては本当に大事な一日になる。そういう意味では、日向さんと二人きりで過ごせないと意味が無い。


 結瑠璃ちゃんには悪いけど、ここはハッキリと断ろう。問題はどう伝えるのかだ。


「結瑠璃、私達は映画を観に行こうか」


「えー、映画はまた別の日でもいいけど、次に四人で過ごせるこんな楽しい日は、いつになるか分からないんだよ?」


「それなら私がまた機会を作るから、今日は私と楽しもうね!」


「うん! お姉ちゃん大好き!」


 気がつくと俺は如月の助け舟に乗っていた。俺は日向さんと結瑠璃ちゃんに聞こえないように、如月に声をかけた。


「いいのか? 無理してないか?」


「いいのよ。無理なんてしてないし、それに私だって結瑠璃と過ごすの好きなんだから。せっかく日向さんと二人きりだったのに、邪魔して悪かったわね」


「俺も楽しかったし、それは気にしなくていいよ。それと、その……ありがとう」


「私だってね、アンタがどうしたいのか分かるからね。それに前にも言ったじゃない。私はいつでもアンタの味方だからね!」


 そう言葉をかけてくれた如月の心情は察するに余りある。本当に俺のために動いてくれている。


 そんな如月の思いに応えるためにも、今日で答えを出そう。どんな結果になったとしても、後悔することは無い。


 

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