第45話 女子高生と会社員たち

 如月きさらぎ姉妹そろって、『日向ひなたさんの作品』推しということが分かった。


結瑠璃ゆるりさん……。お腹空いてない!? もしよかったら、一緒にお昼ごはん食べに行かないかな?」


「デート中なのにいいんですかー!? 行きましょう!」


 デート中だと思ってるなら、遠慮してほしいんだけどな。結瑠璃ちゃんらしいといえばそうなんだけど。


 三人でショッピングモール内にあるレストランへと足を運び、席に着いた。

 俺から見て対面の左に結瑠璃ちゃん、右に日向さんという位置関係だ。


「そういえば今日はお姉ちゃんいないね」


「お姉ちゃんは後から来ますよ」


「如月さんと結瑠璃さんって、よく一緒に出かけるの?」


「うーん、時々って感じですね」


「いいなぁ、今度は私も一緒に行っていい?」


「もちろんです! 女子会しましょう!」


「それなら俺も参加してい——」


「却下です!」


「最後まで言わせてくれよ」


「女子会なのでごめんなさい」


 結論:『俺は女子じゃない』


 なんてこった、結瑠璃ちゃんに論破されてしまった。というかこの流れ、前にも如月とあったな。


「日向さんって、お姉ちゃんのことどう思ってるんですか?」


「如月さんはね、可愛いくて、優しくて、自分の言いたいことをハッキリ言う芯の強さを持っていて、だからといって人の気持ちを無視するようなことは決してしないし、私にとっても頼れるお姉ちゃんって感じかな!」


「わぁー! 日向さん、好き!」


 結瑠璃ちゃんが日向さんと腕を組んだ。日向さんも、まんざらではなさそうだ。

 結瑠璃ちゃんはお姉ちゃんを好きな人、全員を好きなんじゃないだろうか。


「私、ちょっと飲み物とって来ます!」


 結瑠璃ちゃんが席を立った。日向さんと話すなら今しかない。


「日向さん、ごめん。せっかく二人で来ているのに、あまり話せてないね」


「いえ、先輩が謝ることなんてないです! 私から言い出したことですから。それに、私は賑やかなのも好きですよ。結瑠璃さんも明るくていい子だと思います」


 日向さんは真っ直ぐに俺を見て言葉を続ける。

 

「それに今日がダメなら、また来週に会いましょう。来週もダメなら、その次の週に会えばいいんです。平日でもいいです。時間がなければ作ります」


 それは俺のためにそうしてくれるということ。日向さんからは時々こんなふうに、強い意思を感じることがある。


「俺も今日がダメならまた来週に誘うし、来週がダメなら、その次の週に誘う。俺だって時間ならいくらでも作る」


 俺も日向さんを見つめて精一杯の言葉をかけた。


……ダメだ、カッコ悪い。日向さんの言葉を借りたようになってしまっている。もう少し気の利いたことが言えたなら。


「お待たせしましたー」


 そこへ結瑠璃ちゃんが帰って来た。タイミングがいいのか悪いのか。これでまた賑やかなテーブルになるのだろう。一番に口を開いたのは結瑠璃ちゃんだった。


「そういえば最近メッセージくれませんよね? これでも私、けっこう楽しみにしてるんですよ?」


 また余計なことを! この子はどうしていつもこうなのか。悪意は無いことだけは分かるんだけど。俺は日向さんの顔色をうかがった。特に変化は無く、にこやかだ。


「俺は基本的には用件がある時にしか、メッセージを送ったりしないんだよ」


「そうなんですか? 私はお姉ちゃんとよくやり取りしますよ。あ、日向さん私と連絡先の交換をしませんか?」


「もちろんいいよ!」


「日向さんはメッセージのやり取りをよくするんですか?」


「んー、私もあまりしないかな。でも、つい送りたくなっちゃうことはあるよ」


「それって、彼氏さんにってことですよね! いいなぁー、彼氏ってどうすればできるんだろー」


「私はまだ彼氏いないよ! それに結瑠璃さんは明るくて可愛いから、きっかけさえあれば、すぐに彼氏できると思うよ!」


「そうですか? ありがとうございます! あ、それとですね、『結瑠璃さん』っていうのは恥ずかしいから、別の呼び方でお願いします」


「うん、それなら『結瑠璃ちゃん』って呼ぶね!」


「はい! 如月 結瑠璃、高校三年生です!」


「高校三年生は言わなくていいって!」


 そんなしょうもないことを言いつつも、さっきから俺はある事を考えている。

 それはさっきの日向さんの発言についてだ。日向さんはさっき、「私は彼氏いないよ!」と言った。


 ということは、彼氏ができる予定があるということにならないだろうか? そしてその彼氏とは俺のことだと。

 もしかすると日向さんは今日、俺が告白をしてくると考えているのではないか?


 だとすれば、告白が成功する可能性は高いかもしれない。何よりもデートに来てくれる時点で、脈があると思いたい。


 大学生の頃までは、脈なしばかりだったっけ。脈がないのによく生きてたな俺。


「珍しい組み合わせになったものね」


 突如として聞こえてきた声がある。如月お姉ちゃんの登場だ。


「結瑠璃から連絡があって来てみれば、まさかこんな組み合わせが実現するなんて」


「お姉ちゃん! 待ってたよ!」


「如月さん、お疲れ様です!」


「如月お姉ちゃん! 待ってたよ!」


「ふざけるなら今すぐ女子会にしてアンタだけ帰らせるわよ!」


「俺は帰らん!」



 

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