第22話 如月の反応
ラッキースケベという言葉がある。ラブコメの定番ともいえるだろう。
例えば女の子と二人でいる時に、女の子が転びそうになったのでそれを支えようとして胸を掴んでしまう。あるいは一緒に倒れてしまってたまたま胸を掴んだ体勢になる。風で女の子のスカートがめくれる。などの出来事が挙げられる。
『ラッキーなスケベ』だから『ラッキースケベ』。この言葉を考えた人マジで天才だと思う。
そしてそれは現実にも起こるのか。答えは『起こる』。なぜなら、今まさに俺が体験しているからだ。
前を歩く
バックハグのように支えたはいいが、左手はヘソ辺りを、右手は胸を掴んでいた。
「ごめん! わざとじゃないんだ!」
俺は如月が立ったことを確認するとササッと両手を放した。
これはもう誠心誠意、謝るしかない。何往復ビンタでも素直に受け止めよう。
「私が転ばないように助けようとしてくれたんでしょ? お礼を言うことはあっても怒ることなんてないわ。ありがとう」
驚くほどに如月は冷静だった。おかしな話だが、そんな如月の反応に俺はなんだか拍子抜けしてしまった。
俺が恐る恐る
再び俺と日向さんの前を歩き出した如月だが、さっきとはスピードがまるで違う。俺ですら油断すると追いつけないほどだ。俺は如月の背中に話しかけた。
「如月」
「ひゃいっ!」
今まで聞いたこともないような高い声で如月が返事をして立ち止まった。
「ちょっと歩くスピードが速くないか? 俺はともかく、日向さんがついてこられない」
「ふぇっ!? そっ、そうね。日向さんはどこにいるのか教えてくれる?」
「どこって俺の後ろだけど、振り返ったほうが早いんじゃないか?」
「うっ、うるさいわね! 私が振り返れないこと知ってるでしょ!」
「振り返れないってどんな状況なんだ」
「うぅ、振り返ればいいんでしょ! その代わりこっち見ないでよね!」
「あ、日向さん追いついたから進もうか如月」
俺がそう言うと如月は「バッカじゃないの!?」と捨て台詞を残して走って行った。
海の家に着いた俺達は昼食をとることにした。俺は焼きそばを注文した。屋外で食べる焼きそばは、それだけで美味さがワンランクアップする。
日向さんと如月はかき氷を注文していた。それで腹が満たされるのかは疑問だ。
そういえば如月は魔法で飲み物に入れる程度の氷を出せるんだったな。それでかき氷も作れそうだ。
「なあ、如月」
「なっ、何よ!?」
「許してくれって。わざとじゃなかったんだよ」
さっきの件以来、如月は俺と目を合わせてくれなくなった。
「だから怒ってないってば! こっち見ないでよ」
『怒ってないってば!』という言葉を怒り口調で話す如月。
「先輩! 如月さんは本当に怒ってないですよ。私にはわかります」
俺は男だから女性の気持ちは分からない。日向さんがそう言うのならきっとそうなんだろう。
それにしても「こっち見ないでよ」って、意外にメンタルが負うダメージが大きいんだな。
休憩を終えた俺達はそれから2時間ほど海で過ごした。その頃には如月はいつもの感じに戻っていた。
ナンパされなくて本当に良かった。おそらく、ずっと俺がついていたからだろう。
これから電車に乗って帰るつもりだ。早く車を買いたいが、気軽に買えるものじゃないからこればかりは仕方ない。
駅に着いた俺達はベンチに座って電車を待つ。壁にはいくつかポスターが貼ってある。
その中の一枚に目を向けると、夏祭り花火大会の案内が書かれてあった。
日付は来週。仕事が休みの日だ。夏祭りの思い出といえば、子供の頃に家族で行ったことと、高校生の時に男だけで行ったことくらいしか無い。
夏祭りの思い出なら家族と行ったことだけで十分なんだけど、そこにもう一つ加えたいと思った。
(誘ってみるか……)
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