第17話 みんなで如月を歓迎しよう
俺と
突然のモテ期到来に俺は驚いている。こんなことは今まで一度も無かった。恋愛経験が全く無いわけじゃないが、経験豊富でもない。
だって会社の同僚の女の子二人とカフェに行っただけで、モテ期到来だと思ってしまうほどだ。
その翌日、俺が出社すると日向さんと如月がすでに出勤しており、二人で楽しそうに話していた。
「二人ともおはよう」
「おはようございます!」
「おはよ」
「二人とも何の話をしていたの?」
「如月さんとの二人女子会をいつ開くかって話をしてました」
「そういえばこの前の昼休みで如月が言ってたっけ。社交辞令じゃなかったんだな」
「当たり前でしょ。その気も無いのに誘うなんて日向さんに失礼じゃない」
「俺も参加してい——」
「却下」
「せめて最後まで言わせろよ」
コイツは俺への礼節というものを知らんのか。
「女子会だって言ってんでしょ」
結論:『俺は女子じゃない』
なんてこった、如月に論破されてしまった。これは完全にぐうの音も出ない。
「仕方ないな、今回は二人で楽しんでおいで」
「どの立場で言ってんのよ」
そんな俺と如月の無駄なやり取りを黙って眺めていた日向さんが口を開いた。
「先輩と如月さんっていつも楽しそうですよね」
「そんなことはないよ」
「そんなことはないわよ」
俺と如月がハモるようにほぼ同じセリフを口にした。
「それに息ピッタリでもあるなんて。やっぱり知り合ってからの期間が長いからなんでしょうか?」
日向さんは『俺と如月が異世界で同じ冒険者パーティーだったこと』を知っている。
そして如月には『俺と如月が昔からの知り合いだということを日向さんに説明している』と話してある。
「ただのくされ縁だ」
「ただのくされ縁よ」
また如月とハモってしまった。ちなみに俺は歌が上手くない。
「ほら、またです」
そう言って少し口を尖らせる日向さん。確かに如月と話すのも楽しいんだけど、日向さんと話すこととは楽しさの種類が違うというか日向さんは特別というか、自分でも上手くは説明できない。
始業時間になりパソコンを起動すると主任が俺達のチーム全員に向けて話し始めた。ちなみに主任はイケメンだ。
「今週の金曜日にこのフロア全員で如月さんの歓迎会をするから、参加できる人は明日までに俺に言ってくれ」
そんなの当然参加するに決まっている。俺はその日のうちに主任に参加しますと伝えたのだった。
そして歓迎会の時がやってきた。居酒屋だけど、掘りごたつ式の広い座敷で個室になっており他の客の声はほぼ届かない。
参加者は二十人ほど。全員参加というわけではない。同じフロアだけど、一緒に仕事をする機会が無くて顔しか知らないという人もいる。
少し早めに到着した俺だけど、すでに何人かが座っていた。が、見事に顔しか知らない人しかいない。これは気まずい。
俺は「お疲れ様です」とだけ言って、まだ周りに誰もいない下座の左隣に座った。俺のあいさつはキッチリと返ってきた。
そこへ日向さんがやって来て「お疲れ様です」と言ってから、迷った様子もなく下座に座った。俺の右隣ということになる。
「先輩、早いですね」
「万が一遅れて注目を浴びたくないからね。それ以前に遅刻はダメだけど」
すると今度は本日の主役である如月が姿を見せた。如月も「お疲れ様です」と全員へ向けてあいさつをしてから、迷う様子もなく俺の左隣へと座った。
(あれ? 今から仕事だっけ?)
いつもと変わらない両隣にそんな錯覚を起こしそうだ。
やがて全員が揃うと、主任が簡単なあいさつをしてから如月を紹介した。
如月がしたスピーチはビジネスマナーのお手本ともいえるものだった。
如月は決して非常識ではないのだ。言葉遣いも
乾杯が終わるとあとは自由時間だ。あと1時間もすれば移動する人が出始めて、席など関係なくなるだろう。でも俺はこの席を死守するぞ。
「先輩、ビールって美味しいですか?」
ウーロン茶が入ったグラスを手に日向さんが俺に問いかける。
「うん、美味いよ。なんかこの苦味が落ち着くんだよ。それに泡がたまらないね」
「そうなんですか。私お酒飲めないから、ちょっぴりうらやましいです」
そういえば日向さんの歓迎会でも日向さんはずっとウーロン茶を飲んでいたっけ。
「大丈夫よ日向さん、コイツでも飲めるんだから。日向さんもきっとお酒の良さが分かるからね」
「なんだ如月、もう酔ってるのか」
「アンタどこ見て言ってんの。私もウーロン茶飲んでるでしょ。私は後からお酒を飲むの」
俺は如月が酒を飲んだところを見たことが無い。超酒癖悪そう。
1時間ほど経っただろうか。思った通り席を移動し始める人が増えてきたな。もうかなり酔ってる人もいそうだ。
「あのー、すみません、日向さんですよね?」
そう言って日向さんに話しかけてきた人物がいた。若い男だ。
(えーっと、誰?)
困ったぞ。同じフロアなのに顔しか知らない人だ。
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