第11話 如月と買い物
今日入社したばかりの
実は彼女も『異世界帰り』で、異世界では彼女の冒険者パーティーに俺も同行していたことがある。なので、他に人がいない場所では全く気を使うことなく話すことができる。
そういうことなのである意味、如月と話している時が一番自然体なのかもしれない。
歩道を二人で並んで歩きながら如月いきつけのドラッグストアを目指す。18時過ぎだが今は7月なのでまだまだ外は明るい。
「俺のためにしてくれてるのはありがたいけど、ちょっと強引じゃないか?」
「そう? ちゃんと事前に言ったじゃない」
「別に今日とは言ってなかっただろう」
「今日じゃないとも言ってないわよ」
このやり取りをこれ以上続けても得るものは何も無いと悟った俺は別の話題を振った。
「俺まだ25なんだけど、スキンケアって必要か? それに男だし」
「甘い! そんな心構えじゃおじさんになった時に後悔するわよ! それに偉い人は言いました。『人はみんな若く見られたい』と!」
「その偉い人って誰なんだ?」
「私よ!」
本当にその自信はどこから出てくるのだろうか。でももし勇者がいたとして、自信たっぷりの勇者と自信無さそうで声ちっちゃい勇者のどちらが頼もしいかといえば、自信たっぷりの勇者だろう。
これが如月の個性なんだな。俺には無い部分だ。
ドラッグストアに到着した俺達はスキンケア用品のコーナーへと足を運ぶ。ドラッグストア自体に来ることがあまりないから、完全に如月を頼りにするしかない。
「正直、全然分からないから何でもいいよ」
「ダメよ! アンタのために選びに来たんだから。私に任せておきなさい」
そう言った如月はなんだか楽しそうだ。
「さあ、まずは洗顔料ね。しっかりと毛穴汚れを落とさないといけないから——」
「次は化粧水ね。保湿は特に大切だから時間をかけて——あ、でも髭剃り後のことも考えないといけないわね」
「最後は乳液ね。せっかくの水分が蒸発しないようにしないとね。あ、オールインワンというのもアリかも」
時には俺の肌質についてなどの質問を交えながら、真剣に選んでくれている如月。
本心で俺のためにしてくれているということが伝わってくる。それならば俺も心からのお礼を伝えよう。
「なあ、如月」
「何?」
「俺のためにありがとうな」
俺がそう言うと商品を見ていた如月がこっちを向いた。が、顔が赤くなっている。
「べ、別にアンタのためじゃないんだからね!」
俺に衝撃走る! まさか本当にそんなセリフを聞ける日が来ようとは! でもな如月、ほんの数分前に「アンタのために選びに来た」と言ったことを忘れてるぞ。
「如月、俺は今感動している」
「は、はぁ!? 急に何言ってんの」
「現実にありそうでやっぱり誰も言わねーよということを如月はやってのけたんだ」
「ほんとにワケわかんない。バッカじゃないの!?」
確か如月はマンガやアニメは見ないんだったっけ。ということは素で出てきたセリフということか。すげーな。
「まあとにかくだ。真剣に考えてくれてありがとう、ということだよ」
「そ、そう? ならよかったけど」
自分のために何かをしてくれているというのは嬉しいものだなと改めて実感した。
そして如月が選んでくれた洗顔料・化粧水・乳液を買った俺はある提案をした。
「もしこの後時間があるなら、今日のお礼に何か食べに行かないか?」
「お礼なんてしなくていいわよ。私がやりたくてやったことなんだから」
てっきり周りへの配慮の欠片もない奴かと思ってたけど、案外そっちの方が無理して作った顔なのかもしれない。
別に下心があるわけじゃない。ただ、異世界では見られなかった彼女の新たな一面を見た俺は、もう少し話がしたいと思ったんだ。
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