夢は私にスポットライトを当ててはくれない。
悪本不真面目(アクモトフマジメ)
第1話
夢の話です。私は今まで多種多様な悪夢を見てきました。
バイオレンス系、精神系、トラウマ系、自分の人間性を疑ってしまうなど様々です。
しかし、今回お話しするのはそういった悪夢ではありません。それは悪夢なのか、なんなのかは皆様の判断に委ねたいと思います。
私は昔から憧れていた探偵になっていた。隣には膨大な金額を要求してくる医者と一緒にいる小さい女の子みたいな助手がいる。舞台はホテル。どうやらホテルでお客が次々と失踪したらしい。ホテルマンの男性が案内する。警部が昨日行方不明になったお客の部屋で待っているとのことだ。警部は小太りな、見た目は子供頭脳は大人なが主人公のよく出てくる警部に少し似ていた。どうやら私は名探偵で数々の難事件を解決してきて、この警部から絶大に信頼されていた。
「君が来たからにはもう解決したも同然だな。」
そうやって警部は笑って私の背中をポンポンと叩く。
「はい、任せてください。」
私も自信をもってそう答えた。警部たちは邪魔になると思って部屋をでていった。私は小さな助手と一緒に行方不明者の部屋を次々と見て回り、何か手がかりを探していた。これがちっとも見つからない。この探し方は、眼鏡をかけたまま寝てしまい、起きた時にどっかいってしまって慌てて探す感じと似ていた。何が言いたいというと名探偵らしからぬ、間抜けな探し方だということ。格好悪い。
「そろそろ犯人を当てる時間です。」
突然警部がそう言ってきた。私はまだ塵一つすら何も見つけてないのにだ。
「え、いやもう少し待って・・・。」
大らかな印象の警部だが、この時はどこか機械っぽくAIな感じがした。
「今、二時間サスペンスでいうところの一時間四十五分のところでです。」
二時間サスペンス!?もう崖の上に行けってか?今の自分は崖っぷちだった。
私は警部に連れられて階段を降りて一階のロビーに着いた。そこには先ほどのホテルマンの男性の他に、従業員やらお客やらが集まっていた。十人くらいはいる。しかもホテルマンの男性以外は初顔で、そんな中犯人を当てるという、まさに当てずっぽをしなければならなかった。腹をくくり私は名探偵らしいことを喋る。
「皆さんお集まり頂きありがとうございます。」
私はなるべくみんなと視線を合わせないようにしているが、みんなは当然私を見る。目線を外しても感じるほどの視線の圧が私を苦しめていた。それでもいっちょ前に続ける。やはり探偵になったからにはあの台詞を言ってみたかった。
「今回の事件の犯人はこの中にいる!!」
これで次回へ続くとなればいいと思った。このままかっこいい名探偵で終わりたかったが、この夢は続く。ちゃんと物語をこのミステリーを終わらせようとする。周りはざわつき更に私を注目する。視線が視線が痛い。
「その犯人は・・・・・・。」
私はそのまま止まってしまい、下を向いてしまった。指先は誰も差してない。汗が止まらなかった。それは山本直樹著作集フラグメンツⅠの「教えておくれよ、佐場君。そもそもあの絵は・・・本当にキミの描いた絵だったのかい?」と言われたくらいに
汗がダラダラと流れ、そのまま逃げだしたい気持ちだった。沈黙が続いた。それを破ったのはホテルマンの男性の笑い声だった。
「クックック!」
するとホテルマンの男性はビョーンと身体が大きく変形して落書きのような化け物になり、そのままデカい口を開けて私をパクっと食べた。暗い、暗いと思ってたら目が覚めた。
「食べられるってオチは酷いな。」
私は自分の夢のオチに文句を言っていた。目が覚めたので動画を一時間くらい観てたのだが、眠気が再びやってきた。今日は専門学校は休みだったので、二度寝をすることにした。そして夢を見た。
私は昔から憧れていた探偵になっていた。隣には膨大な金額を要求してくる医者と一緒にいる小さい女の子みたいな助手がいる。舞台はホテル。どうやらホテルでお客が次々と失踪したらしい。これは、見たことがある。さっきの夢の始まりと同じではないか。これは不思議だ。まるでゲームのリセットボタンが押したようだ。しかし、今回は同じ結末を迎えることはない。何故なら私はこの事件の犯人を知っているからだ。あのホテルマンの男性だ。あいつが化け物でみんなを食べたんだ。これは楽だった。犯人を当てる時間に奴を名指しすればいいだけなんだから。私はさっきよりも堂々とホテルへと入る。ホテルマンの男性が案内をする。私は彼を見てニヤニヤしながら睨んだ。警部が行方不明者の部屋を捜査していた。
「君が来たからにはもう解決したも同然だな。」
そうやって警部は笑って私の背中をポンポンと叩く。私はニヤニヤが止まらず、調子に乗っていた。
「そうです、私が来たからにはこの事件はもう我が手のひらの上ですよ。」
「お、そいつは頼もしいな、じゃあ後は頼んだよ。」
「はい、任せてください。」
私はコミカルに敬礼をした。そして捜査開始をするかと思えば、私はしなかった。だって何故する必要がある。犯人はアイツなんだから。私は助手と一緒に、ホテルのプールでサングラスをかけてトロピカルなジュースを飲んでくつろいでいた。そしてただ時間が過ぎるのを待っていた。
「先生、捜査しなくていいんですか?」
助手が私に心配そうな顔で聞いてきた。そういえばさっきの夢では一言もしゃべってなかったな。そんな少女の困った顔を堪能した後私は大丈夫大丈夫と高笑いをした。そして、警部がやって来た。
「そろそろ犯人を当て・・・・・・。」
「二時間サスペンスで言うところの一時間四十五分だもんな、崖の上にいないといけない時間ですもんね。」
私はワザと警部の台詞を遮って食い気味にベラベラと喋った。気持ちが高ぶっていた。間違いなく私にスポットライトが当たると確信していたから。有頂天。警部は先ほどの機械的なのとは打って変わって実に人間らしく、戸惑っていた。私は警部の戸惑いを堪能した後、私が警部を連れていく形でロビーへ向かった。
「皆さんお集まり頂きありがとうございます。」
私はしっかり名探偵らしく、先ほどのテンションとは打って変わって落ち着いていた。もちろん内心は笑いが止まらないが、ここはカッコよく決めたかった。
「今回の事件の犯人はこの中にいる!!」
みんなが私を見ている。それはスポットライトのように温かく輝いてるように感じる。気持ちが良かった。これこれ。こういうのでいいんだよ。そして私は堂々と何の疑いもなく犯人を名指ししようとする。
「その犯人は・・・・・・。」
ポタポタと再び私は汗をダラダラと流した。スポットライトが熱かったからではない。またしても下を向き、指先はどこも差していなかった。何故私は止まったのか?それは気がついたからだ。よくよく考えたら、相手化け物だということに!ってことは、犯人と名指ししたところで、どう対処するのだ?私には超能力とかはないっぽい、というか出来る気がしない。そう、サングラスをかけトロピカルなジュースを飲んでプールでくつろいでいた、あの時間に何か武器か倒す方法を見つけないといけなかったのだ!!助手の困り顔や警部の戸惑いを楽しむ余裕など本来はなかったのだ。今まさに私は困り戸惑っている。
「クックック!」
あ、聞いたことある声だ。ホテルマンの男性はビョーンと身体が大きく変形して落書きのような化け物になり、そのままデカい口を開けて私を再びパクっと食べた。暗いくらい口の中でしばらく過ごしていた。そこにはスポットライトなどある訳がない。というか最初っからスポットライトなぞ私に当ててくれなかった。しかし、自分の夢くらいもう少し都合が良くてもいいのではないだろうか。ああ恥ずかしい。穴があったら入りたいとはいうが、本当に恥ずかしいと化け物の口が一番入りたいかもしれない。不思議と視線の届かないこの真っ暗な化け物の口の中は今の私には一番の落ち着く場所かもしれない。
夢は私にスポットライトを当ててはくれない。 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615
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