33 パリ仕込みお料理ノート(石井好子)

 パリ仕込みお料理ノート/石井好子/文春文庫、252ページ



 長年パリで暮らし、海外の人々とも多く交流していたシャンソン歌手、石井好子の料理にまつわるお話。


 このエッセイからは、料理に深い関心を持ち、食べることが好きな石井の人柄が垣間見えます。

 結構さっぱりした人だったのか、文にもそんな雰囲気がよく表れている気がします。


 本文中にはいくつもレシピが載っています。

 そして、必ずしも目新しいものを否定しないところに主婦としての目線も感じます。

 特にこの方の、「なんでもたべてみる」スタイルはとても好ましいと思いました。

 好奇心と挑戦心があり、頭でっかちではなかったのでしょうね。


 後半はシャンソン歌手やマネージメントする側としての視点で語られる、芸能の世界絡みのお話。

 こちらは何ともほろ苦い感じがします。


 人気商売であるがゆえの浮き沈み。

 諸行無常も感じます。

 人と関わることには明るい面もそうでない面もありますね。


 後ほど調べたのですが、加藤登紀子なども所属していた芸能事務所を作り、そして廃業もしています。

 人生の苦味もしっかり味わった方だったのですね。


 まったくの余談なのですが、この方は「クラリネットをこわしちゃった」の日本語版の作詞をしておられるそうです。

 ちょっと思いがけないエピソードでした。



 石井好子のエッセイの中では、巴里の空の下オムレツのにおいは流れる、というエッセイタイトルが特に秀逸だと思います。

 なんだか実際にオムレツのにおいの幻を感じてしまうような、素敵なタイトルです。



 そんなわけでこちらの本。

 難しくもかたくもない、美味しくて少しだけほろ苦さも含んだ一冊でした。

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