01 むかしの味(池波正太郎)
むかしの味/池波正太郎/新潮文庫、208ページ
池波正太郎の作品のファンには、小説のファンとエッセイのファン、二種類がいるという話があります。
小説の方は鬼平犯科帳や剣客商売、仕掛人・藤枝梅安など、言わずと知れた有名な時代小説が勢揃い。
一方エッセイの方はと言うと、映画や食べ物に関して書かれたものがとても良い雰囲気です。食に関してもそうですが、相当な映画の愛好家でもあったみたいですね。
どちらも違ってどちらも良い。独自の美学に沿って書かれた文章は小説・エッセイ関わらず、味わい深いものです。
「むかしの味」は、作者の所感や思い出、食べ物のことなどを自由に述べたエッセイ。時折、実在のお店を話に引くのが特徴です。
食べ物絡みの表現には定評のある著者ですが、この本でもそれはいかんなく発揮されています。
おいしそうなだけでなくて、添えられたエピソードが面白く、懐かしく味があるのも嬉しい気持ちになります。ほっこりしんみりしたり、笑えてしまったり。
当然のことといえばそうなのですが、本書に載っている店のいくつかはもうなくなっています。書かれてからずいぶんと時間が経っていますからね。
でもたいめいけんや、煉瓦亭、資生堂パーラー、神田まつやなど、今でも有名なお店の名前もあります。きっと当時とはまた雰囲気が変わってはいるのでしょうけど、昔をしのびながら足を向けてみたくなります。
なくなってしまったお店も、作者の思いやありし日の姿はなんとなく伝わってきます。それだけこのエッセイは力のある文章で書かれています。
それと戦前の東京の様子が下町っ子だった著者の視点から見られるのが興味深いです。
今の東京の風景からは想像がつかない風景。
そんな東京を知る作者だからこそ、時代小説で江戸を書く時も生き生きと書くことができたのかもしれません。
写真や挿絵もあり、それも楽しい一冊となっています。
気軽に楽しめる素敵なエッセイです。
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