箱③。~ 踏みにじられた純情&招かれた家 ~

崔 梨遙(再)

第1話  踏みにじられた純情。

 多分、小学3年生の時。



 その日は、バレンタインデーだった。級友の柳君が、クラスの足立さんという女子からチョコの入った小箱を渡されそうになった。しかも、昼休み、みんながいる前で。


 ところが、足立さんは、クラスの男子から“キモイ”とか“足立菌”と呼ばれていた存在だった。柳君は焦った。そうでなくても、みんなの前でチョコを渡されたら男子から思いっきり冷やかされるのに、相手が足立さんだったら何と言われるかわからない。柳君の気持ちもよくわかる。


「柳君、これ受け取ってや」

「お前、なんやねん、そんなもん渡してくるなや」

「受け取ってくれへんの?」

「みんなー!柳が足立からチョコもらってるでー!」

「柳も足立菌やー!」

「柳、足立菌! 柳、足立菌!」

「こんなもん、こうしてやる!」


 柳君は、もらったチョコを床に叩きつけて踏みにじった。足立さん、号泣。


「柳、何をするんよ」

「柳、最低-!」


 クラス中の女子が足立さんの味方だ。


「お前等、うるさいねん」


 やかましい教室、僕は踏みにじられた箱を拾った。


「今度は崔が足立菌やー!」

「崔、足立菌! 崔、足立菌!」

「これで、足立菌は僕やから持って帰れるやろ?」


 僕は、踏みにじられた小箱を柳君のランドセルに突っ込んだ。


「崔、足立菌! 崔、足立菌!」

「そうやで、僕が足立菌やで。みんな、捕まえるで-!」

「うわ、来るな! 崔、来るな!」

「ほら、捕まえたで!」

「今度は島や! 島、足立菌! 島、足立菌!……」


 放課後、柳君と下校していると、柳君が言った。


「いやぁ、今日は参ったで。まさか足立からチョコ貰うなんて」

「そのことは、もうええやんか」

「そやな、ほな、また明日」

「うん、また明日」



 柳君は、何故かスキップしながら帰って行った。



 この時、足立さんを庇ったことで好感を持たれたらしく、翌年は僕が足立さんからチョコを貰った。僕は、朝、机の中に入っていた小箱を、誰にも見つからないようにランドセルの中に入れた、相手が誰であろうと、男子から冷やかされるからだ。帰って包装紙を破いて、それが足立さんからだということを知った。考えたが、僕は他に好きな女の子がいたのでホワイトデーでお返しはしなかった。足立さんに対して、少し申し訳無い気分になった。だが、そんな罪悪感もスグに忘れるだろう、僕は、そう思っていた。







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