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ずっと忘れていたけど
わたしの好きなもののこと
どうしてずっと忘れていたのだろう
わたしは小説が好きで
毎日朝から晩まで読んでいたいくらいなのに
いつしか読まなくなっていた
忙しくてね
そんな風に言い訳して
自分の仕事や役割のことばかりで頭をいっぱいにして
いろんなことを忘れてしまった
生きてるうちはそのことだけ考えていたいことを
このところ1秒だって考えてなかった
わたしはあの人たちの仲間だと思われてるけど
わたしはあの人たちのことを仲間と思ってない
わたしはずっとひとりだし
昔からそうだったし
死ぬまでそうだと思うから
ずっとひとりで小説を読んでいたい
ずっとひとりで遊んでいたい
それなのに
いろんなことがあべこべになってる
毎日毎日忙しくて
不安を紛らそうとするうちに
どうでもいいことばかりで頭がいっぱいになってる
みんないつか死ぬんだから
不安になることなんてない
どんなにうまく逃げおおせたつもりでも
最後には追いつかれ
そして追い抜かれる
頭ではわかってるのに
心が猿みたいに飛び回ってる
忙しいことを言い訳にして
大切なことを全部後回しにしてる
好きってどんな感情だっけ?
だんだん思い出せなくなってきた
好きでもないのにお酒を飲み
新聞を読み
お金のことばかり考えてる
好きなもののことは後回しにしよう
老後になったら毎日小説三昧だ
そんな風に自分に言い聞かせて
でも若いうちにできなかったことが
どうして年老いたらできるようになるのだろう?
今でさえ忘れかけている好きという感情は
年老いたらすっかり消えてしまうのではないだろうか
焦るのをやめて
旅にでも出ようか
暖かいところでも寒いところでもいいよ
ひとりぼっちになって
誰からも相手にされなくなって
自分の名前もいつしか忘れてしまう
動くものは
太陽と雲と川だけ
そのスピードで息をする
そのスピードで死に近づく
でも これは逃避だな
旅に出たって忙しがっているのと変わりない
好きなものから逃げているんだ
好きなものは後の方にとっておこう
そうしているうちに怖くなってくる
せっかく残しておいたのに
いつの間にか好きでなくなってたらどうしよう
それで好きなものと向かい合うのが億劫になって
妙に忙しがったり
逆に仙人のように振る舞ったりするんだ
今日は小説を読むよ
仕事を休んで
家事もしない
コーヒーと菓子パンをたっぷり用意して
朝からぶっ通しで小説を読む
つまらない小説だったらどうしよう
そんなに小説のこと好きでなくなってたらどうしよう
構わない
小説のこと
多分もうそれほど好きではないと思う
そのことは薄々わかってた
好きなことを後回しにしているうちに
世界は好きじゃないことで埋め尽くされていた
砂漠にひとりでいるみたい
そのことをちゃんとわかりたいから
砂漠の真ん中でひとりきりになりたいから
わたしは今日
好きなものと一緒に過ごす
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