57

昨日書いた詩をさっき消した

いろいろ頭をひねったが

それ以上手を入れても救えそうになかった

詩はときどき中絶する


せっかく書いても人に見せられない詩もある

そういう詩を私は「隠し子」と呼んでいる

隠し子は座敷牢に置き去りにする

そしていつしか忘れてしまう


私だってすべての子を愛したいのだ

しかしどんな子が生まれるかはわからない

書いてしまった最初の行に

どんな行がつづくかは

私が決めることではない


詩は運命のように

第一行目でもう決まっている

そこで見切りがつけられないのは

私の優柔不断のせいだ


せめて雑念に惑わされぬよう

姿勢を整え 深呼吸する

それですばらしい詩が書けるわけではないが

詩の運命を受け入れる余裕は生まれる


私の運命はいつ決まったのだろう?


そんな風に自分を顧みることはない

「運命」という言葉を使いたがるのは他人ばかり

運命を生きるものはただ現在を生きるだけだ


詩は現在を生きる

私はそれを後から追いかける

どんなに追いかけても追いつけない

そんなかけっこを「詩作」と称し

私は毎日書きつづける

書けなくなる日まで

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る