6. 悪魔様のための教会
◇
コンサート終了後。
「いやぁ〜。マジで凄かったな。うんうん、凄かったわ」
皆で観客席を離れる最中、パフォーマンス技術の高さに誰もが高評価である。
「美藍様、先程から「凄かった」としか言ってませんが……」
「仕方ねーだろ。凄かったもんは凄かったんだから。大体、芸術皆無な奴に感想なんか求めてもしょーがないだろ」
荊樹の指摘に潔い返事をする美藍。だが、コンサートの余韻が残っているのか表情が高揚していた。隣にいる花太郎も気持ちを昂らせてソワソワしている。
「はぁ……!! 弓弦提さんのバイオリンの演奏凄く迫力があったなぁ……!!」
「うん。凄かった」
花子も表情を微動だにさせないが、内心胸の高鳴りが止まらなかった。それを見かねた獄が花子に目線を向けた。
「気に入って頂けましたかァ?」
「うん」
「それは良かったです」
「あれ」
「どうかしましたかァ?」
花子は肩にさげたポシェットの中身を探る。ガサゴソと漁るもすぐに、動かない表情筋を更に凍らせた。
「忘れ物した」
「忘れ物、ですかァ?」
「ハンカチ」
藤の花が散りばめられたシルクのハンカチ。六年四組教室での事件で、以前使っていた物はダメになってしまったが、獄が新しく調達してくれた物だ。
花子がぽつりぽつりとそう呟く。獄は「成る程、そうでしたかァ」と腑に落ちた。
「ずっと大切にしてくれてたんですねェ」
「お母さんがくれたの」
花子は胸に手を当て、服に皺を作る。
それは花子の実の母親 木枯
木枯八音の件が起きて以来、花子たちは菫子とは一度も会っていない。しかし、菫子は八音に殺害されたものの死体が発見されていないのは事実。
生きているかも死んでいるかも分からない。ただ、花子は
「わたし、探してくる」
「あ、花子くん?!」
獄の呼ぶ声を無視し、花子は再び観客席の方へと駆け出した。
◇
会場内は大勢の人で溢れかえっていたが、今はがらんと物抜け殻になっている。見渡しやすくよりだだっ広く感じる。人口密度が急激に下がったのか、花子の両腕に僅かに鳥肌が浮き上がっている。
自分が着席していた位置に辿り着くと、案の定、例のハンカチは床に落ちていた。
「良かった」
花子はほっと胸を撫で下ろし、ハンカチを鞄の中に仕舞う。きっと美藍と花太郎は今頃、花子が突然いなくなったことに慌てているかもしれない。
戻ったら謝らないと。花子はそう心の中で言い聞かせ、席から離れようとした。
花子はほっと胸を撫で下ろし、ハンカチを鞄の中に仕舞う。きっと美藍と花太郎は今頃、花子が突然いなくなったことに慌てているかもしれない。
戻ったら謝らないと。花子はそう心の中で言い聞かせ、席から離れようとした。
ポーン。
突然、ピアノの音が響き渡る。花子はピクリと反応し音が鳴る方に目を向ける。それは、ステージ上に設置されたグランドピアノからだった。ピアノの傍で一人の少年が弾いている。
バイオリニストである弓弦提であった。
「ふんふ〜ん」
鼻歌交じりに一音一音奏でる彼に花子は瞬きさせた。
「あの人……」
ジャーン!!
突然ピアノから不協和音が響き始め、ビクッと肩を震わせる。顔を上げると提が驚きながこちらを見つめている。
花子の真紅の瞳に彼の姿が映る。
そして、ぱちり。
彼と目が合った。
「あれ? もうコンサートは終わった筈……」
提は上擦った声になり首を傾げる。花子はグランドピアノ付近まで向かう。提は椅子から花子を見下ろし、不思議そうに眺めた。
鼻筋の通った顔立ちがドアップで映る。年齢も花太郎とそこまで変わらない筈だが、提の方が圧倒的に大人びた印象だ。
「弾いてみる?」
花子がじっとピアノを見つめていると、提が恐る恐る尋ねた。突拍子なことに花子は大きな目を瞬かせた。
「いいの?」
「うん。ほら、スタッフさん達には内緒だからね」
花子はステージ上に上がり、彼の所まで向かう。
「何か弾けるの?」
「分からない」
そもそも、音楽など小学校の授業の一環でしか触れない花子には難しい質問だった。ただ、 人より興味関心が薄い花子が、唯一通知表で「5」を飾り続け成績を落とした事がない科目であるくらいだ。
ふと、花子の頭の中で閃き、記憶を思い出しながら右手で鍵盤を辿る。拙くもぎこちないメロディーが会場中に響く。
一通り引き終えると、傍で盛大な拍手が鳴る。
「……その曲、君も弾けるの?!」
提が目を輝かせながら花子に詰め寄る。
「なんとなく」
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