第48話 報告

 大の字に寝転がって数分、流石にそろそろ動かないとアヤカに叱られるな、とりあえず、3人はどこに居るかだな、合流したら予定通り倒した事を報告しに行くか。


 体を起こして立ち上がり、凝りをほぐしながら周りを見ると、アヤカ達が1ヶ所に集まり何か話している。


「どうかしたの?」


「あっお兄、もう大丈夫なの?」


 3人が見ていたのは……冒険者の死体、それもかなりの力で頭を殴り潰され、脳漿や頭蓋骨の一部が至る所に飛び散り、流れ出た血の中には眼球と、その後ろには視神経と思われる管の様な物が付いていた。

 ここ以外にも見える範囲に2人居るのが分かる。

 僅かな間でも共に行動していた仲間だ、死んで欲しくなかったとか、訳があったとは言え援護が出来なかった事とか、色々と思う所があるだろう。


「後で新しいのを買うから、オレとアヤカとユウカ、3人の毛布を出してもらえる?」


「それは構いませんけど、一体何をするんですか?」


 ナナセは受け取った毛布の1枚を地面に敷き、丁重に冒険者の遺体を乗せて包む。


「すみません。私達見ているだけで何も出来なくて」


 ティナが謝って来るが、出来なくても仕方ないと思う、討伐後の遺体をどうするかなんてすぐに判断出来ないだろうし。


「気にしなさんな。今は戦闘後で気分が高揚してるから何ともないだろうけど、落ち着いた時に思い出すと、心に来るかもしれないから気を付けてな。魔物で死体は慣れていても、人の死体は初めてなんだから」


 離れた所に居る2人も同様に包んでいく。


 後はどうやって3人を連れて帰るかだな、スキルを発動させれば3人くらい余裕で抱えられるけど、落としかねない。

 これ以上傷付ける様な真似はしたくないよな。


「その人で最後ですね」


 声に振り替えると、いつの間にかアヤカ達が居た。

 その後ろを見ると毛布で包んでいた遺体が無い。


「頼める?」


「ええ」


 ストレージ・スペースの中に遺体を入れた後、倒した報告をしに野営地点に戻る、その道中でティナから。


「ナナセさん、あの時ブラッドオーガに棍棒で殴られましたよね? あんな吹き飛ぶくらいの力で攻撃されたのに、どうしてあれくらいの怪我で済んでたんですか?」


「そうですよ、本当に殺されたと思ったんですからね!」


「私も魔法力全部使って連射しようとしてた」


 気になる者、怒る者、即座に撃破を考える者と、三者三様だ。

 まぁ傍から見ると、体ごと吹き飛ばされる一撃を受けたとしか見えないよな、実際半分はその通りでもあるし。


「あれはわざと攻撃を誘ったんだ。そして棍棒が左腕に当たった瞬間、その進行方向に向かって自分で吹き飛んだのさ」


 3人が何でそんな事を?という顔をしてナナセを見る。


「事前の作戦だと、私達がオーガを倒したあと合流して、カズシさんを主軸にして私とアヤカが遠距離でって話でしたよね?」


「だから私、魔法力を温存してオーガを倒す為に色々と考えてた」


「それが難しくなったって言うのと、2人への危険度が当初考えてたよりも遥かに上がったって言うのが理由」


「それって、ナナセさんが戦ってる時に何かがあったって事ですか?」


 おっ、ティナ冴えてるな、良い読みしてる。


「オレが戦ってる時、やたらと大きな音とか聞こえなかった?」


「それは聞こえてました。すごい戦いをしてるなって」


 ユウカとティナはその言葉に同意するように頷く。


「あれってブラッドオーガが、オレに向けて岩の礫を飛ばす為に、周りの岩を攻撃してた音なんだよ」


「ああ、だからナナセさんの服が、そんなボロボロだったんですね」


 あの攻撃でこの服は穴だらけだし、帰ったら新しいのを買わないと着替えに困るかもしれないな。

 それでなくとも、そんなに数持ってないのに。


「事前の作戦では奴が遠距離攻撃をする事を考えてなかった、しかもオレでもかなりのダメージを受ける様な攻撃だ、防御力も生命力も低いユウカやティナが当たれば一溜も無いだろう、アヤカだってただじゃすまない。だからオレは1人で倒しきる方に舵を切った結果が、あの誘いだ」


 けどあんな事はもう二度とやらない、あれは一瞬でも恐怖したり、タイミングを間違えばそのまま殺される諸刃の剣だ。

 もしあれを平気でやる様な人間が居れば、それは、狂気に片足突っ込んでる奴だけだ、普通の人間なら一生に1回有るか無いかだ。


「その後ナナセさんがブラッドオーガの背後から攻撃した後、ブラッドオーガが動かなくなりましたよね? あれは一体」


 頸椎を損傷させて脳からの信号を伝わらない様に、って言ってもティナには何のことか分からないよな。

 こっちの世界で医学どうこうなんて、そこまで発展してなさそうだし………ティナには申し訳ないけど。


「あれに関してはオレにも全く分からない、何か原因があるのかもしれないけど、それを調べる余裕もなかったからね」


「そうなんですか」


(流石のお兄も説明は出来ないよね)


(言った瞬間に「どうしてそんな事を知ってるの?」って話になるもの)


「とりあえず今はフィリップさんの所に急ごう、もしかしたら別の行動を取る算段をしてるかもしれない」


 フィリップの事を出しに話を中断させ一向は野営地に急ぐ。


 ―――――――――


 野営地に到着したナナセ達の目に入ったのは。

 怪我や疲労により満身創痍で倒れている者、膝や頭を抱えて震える者、治療が間に合わずに死んだ仲間を見て泣いている者。

 他にも様々な理由から塞ぎ込んでいる冒険者ばかりで、討伐初期の気力に満ちた冒険者の姿はどこにもない。


(かなりひどい状態だな)


(無理も無いですよ、私達が見かけた3人以外にも、命を落としている冒険者は多いでしょうから)


(作戦の為とは言え、私達が見殺しにしちゃったんだよね)


(仕方ないって言うと無責任に聞こえるけど、今回みたいな場合は仕方ないよ)


 その冒険者達を刺激しない様にして、オレ達は野営地の奥に向かうと、数人の冒険者と話し合うフィリップさんが見えた。

 向こうもこちらに気付いたのか駆け寄って来る。


「お前達、無事だったか!」


「なんとかですけどね」


「今Bランク冒険者達を率いてブラッドオーガに挑む所だったんだ、お前達もまだ戦えるな?」


 やっぱり仕留め切れてないと思われてたのか、まぁ実際、正面からぶつかればオレは負けてたし、速さ以外は軒並み奴の方がステータスは上だったからな。

 騙し討ちと体の構造を少し知っていたから勝てたようなものだ。

 オレはそっとアヤカに目配せをすると、理解してくれたのか頷いてくれる。


「これを見て下さい」


 その一言と同時にフィリップの前に何かが転がる。


「ん? 何か転がって……………こいつは、ブラッドオーガの首!? お前達本当に倒したのか!」


「終始押されっぱなしの戦いでしたけど、奇跡的に。あと近くで亡くなってた冒険者3人の遺体も連れ帰ってきました」


 先程と同じ様にアヤカがストレージ・スペースから遺体を出して見せる。


「そうか! そうか!! これで被害は食い止められるし、この冒険者達も街に連れて帰ってやる事が出来る! ありがとう!」


「その首を持って冒険者達に知らせて下さい。その方が信憑性が有るでしょうから」


「ああ、わかった! お前達も疲れてるだろ、野営の片付けはこっちでやっておくから、俺の乗って来た馬車が少し先にあるから、そこで休んでてくれ、あんま人前には出たくないんだろう?」


「話が早くて助かります」


 そう言うとフィリップは首を持って冒険者達に討伐終了を伝えに行く。

 ナナセ達も流石に疲れたのか、フィリップの言ってた馬車に乗り少し休む事にした。


 アヤカ達は眠ったか、無理もない、極度の緊張に加えて勝てるかどうか怪しい戦い、肉体的にも精神的にも相当疲れただろう、

 さっきはオレが休ませて貰ったし、今度はオレが戻って来た冒険者にちょっかい出されない様に守らないとな。

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