孤児院
「おい、保護した子供はこの部屋か」
紙コップを持った刑事が取調室の前で警官に聞いた。時間は深夜、刑事はほかの事件も立て込んでいて少しイラついていた。
「はい、あのフランケン孤児院の付近で保護した子です、たぶん孤児院の子だと思いますが...」
警官は少し刑事の圧に押されぎみに答えた。
フランケン孤児院、その地域で有名なボロボロの孤児院だ。
改築を繰り返していつ作られたかも、だれが何人住んでいるかもわからない孤児院だった。
パッチワークのようにいろんなデザインが継ぎ足されている外観に誰がいったかわからないが、フランケン孤児院と名付けた。
「どうせ、電話をかけても直接行ってもだれも出なかったんだろ」
刑事も事前に報告書を見ていて、状況は分かっていた。
「様子はどうだ」
「保護した直後は怯えているのか、何も話してくれませんでしたが、今は落ち着いて『刑事さんを呼んでくれ』と」
「だから、俺を呼んだわけか」
刑事は少し困ったように溜息をついた。
紙コップを警官に渡して取調室に入ると、金髪の子供が大人しく俯いて座っていた。パーカーにジーンズ。いかにも身寄りのない子という雰囲気があった。
「やあ、俺はトーマス。君の名前は?」
「レナード...」
こっちを全く見ない。警戒心が強い少年にトーマスは既視感を感じていた。これは...虐待されていた子供の反応だ。トーマスが同情の目で少年を見た。
「刑事さん...僕の話を聞いてもらえる?」
少年は俯きながら、語り始めた。
孤児院はいまや、自分と幼馴染の女の子テレサ、18歳の孤児院育ちの女性リリー、キレやすい中年の院長と意地悪な年寄り看護師しか住んでいなかった。
リリーは幼いころから柄の悪いボーイフレンドと一緒に夜な夜な街で遊んでました。
院長や老婆からもぞんざいに扱われて、レナードは必然的に幼馴染の少女テレサと共に育ちました。
彼らの友情は固く、共に過ごす日々だけが救いでした。しかし、夜、孤児院に泥棒と思われる何者かが忍び込んできました。
レナードとテレサはいち早く、泥棒に気づいて秘密の隠れ場所に身を潜めました。
「ちょっと待ってくれ。院長と看護師はどうしたんだ、いなかったのか?」
トーマスはゆっくりと言葉を選んでレナードに聞いた。
「殺されたよ、リリーに...リリーが銃で二人を殺すのを見たんだ」
「でも、リリーは孤児院で育ったんだろ?なんで院長たちを殺すんだ」
少年はポケットからダイヤモンドを取り出して、机の上に置いた。
「...このダイヤかなり上等なやつだ。でもなんで君が持っている?」
刑事が立ち上がり、ダイヤを見た後、少年に問いかけた。
「あの院長と看護師は昔泥棒だったんだ。その時の手柄だって彼らが話しているのを秘密の部屋で聞いたんだ」
少年は俯いたまましゃべり始めた。
院長と看護婦は泥棒で、この地域の孤児院に転がりこんだ。そして、表向きは熱心に子供たちを育てる振りをして、院長になるのを待っていた。
そして、院長になって、無駄な増築を子供に手伝わせながら繰り返した。
育った子供たちはそんな環境に嫌になり、成人したらすぐに孤児院を離れるようになった。
増築のお金や孤児院の運営費は国から貰えるから、自分の金が減ることはなかったが、彼らはその金も自分たちのものにしていた。
二人の狙い通り、孤児院は評判が悪くなって、別な場所へ孤児たちが流れていった。
『あの二人がすぐにでもいなくなれば、この孤児院もつぶせる』。院長そう言うのレナードは聞いた。
「ぼくがそれをリリーに相談したんだ…」
レナードは悔しそうにトーマスに言った。
「...だからか、でも君はどうやって逃げれたんだ」
「リリーに見つかりそうになって、テレサを置いて、秘密の通路から逃げたんだ」
レナードは感情を殺すように無機質に答えた。
「おい、家宅捜索だ。今すぐ!」
トーマスはすぐに近くにいた警官に指示した。
「レナード、今は大変な時だが、俺に任せてくれ」
トーマスが言うと、レナードはゆっくりと頷いた。トーマスが取調室からでる瞬間、レナードは顔を上げてトーマスが出るのを見届けた。
数時間後~
「おい!どういうことだ。孤児院が火事って!!」
トーマスが興奮している。
「これじゃあ、中の捜索に数週間はかかるでしょう、広くて複雑でいろんな部屋がありますから・・・」
警察官たちは口々に言っていた。
「糞が!」
トーマスは車のドア思いっきり閉めた。その時、携帯から着信があった。
「トーマスさん、レナード君と一緒に出かけたみたいですが、彼はどうですか?」
医者からの電話だった。
「おい、俺は知らないぞ!」
「でも、『トーマスさんと一緒に行く』って言って出て行ったと聞きましたよ…」
孤児院の火事から数日後、警察は院内で院長と看護師の焼死体を発見した。リリーはすでに死んでおり、彼女の身柄は確保されていなかった。
警察はレナード君の捜索を行ったが、結局彼は見つからなかった。そして、何週間もたって、事件は迷宮入りした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます