仮想怪異 〜時計塔の怪人〜

平中なごん

プロローグ

〈プロローグ〉

 国宝五城の一つである〝松本城〟や、やはり国宝指定を受けている擬洋風建築の小学校〝旧開智学校〟を有する城下町──信州松本。


 他にも松本にはなぜかおもしろい建築物があちこちにちらほらと見られるのだが、その一つが〝時計博物館〟だ。


 松本城の南を流れる女鳥羽川めとばがわにかかる千歳橋せんさいばし。この橋の袂に建つ時計博物館は、近世から現代に至るほぼすべての機械式時計を動いたまま展示するというちょっと珍しい博物館なのだが、その展示内容もさることながら、建物自体も非常に変わっている。


 そのオレンジ色の壁をした建物は、四階建てのビルに匹敵するほどの巨大な振り子時計の形をしているのだ。


 いや、見た目ばかりではない。実際に国内最大級の本物の振り子時計でもある。


 女鳥羽川沿いを散策中、この時計博物館を初めて見た私は、思わず足を止めるとその大時計に見入ってしまった。


 下から見上げると、ゆらゆらとゆっくり揺れる巨大な振り子がなんとも壮大で、時を刻むその動きには荘厳さすら感じる。


 だが、振り子からその上の丸い文字盤、さらにその上のコンクリ造りの柵状になった屋上へと視線を移していった時のこと。


 その屋上に、一つの人影があるのを私は見かけた──。

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