君だけのパティスリー

まひるの

序章 思い出のクリスマス

まるで綿菓子みたいな雪が絶え間なく降り続け、街中を白く染め上げたある日のこと。

いつもは子供達の笑い声で満たされる公園も、今日ばかりはシーンと静まり返っている中、冷たいベンチに並んで腰を下ろす二人。一人は少女で、もう一人は少年。

共に、毛糸の帽子に手袋とマフラー、分厚い上着を着こんでいて、ふっくらころころとしたフォルムをしている。


「これ、なーちゃんに!」


寒さで鼻を赤く染めた少年が、手袋をはめた手で、赤いリボンのかかった正方形の箱を差し出す。


「……ありがとう」

「あけて見て!」


満面の笑顔に促されるまま、少女はミトン型の手袋を取ると、膝に乗せた箱に手をかけ、そうっとリボンを解いて蓋を開ける。


「メリークリスマス!なーちゃん」


中に入っていたのは、少し歪さはあるものの、真っ白い生クリームと赤い苺で綺麗にデコレーションされたホールケーキだった。


「次のクリスマスには、もっとすごいのあげるね。それで、その次のクリスマスは、もっともっとすごいやつあげるから!」


少女は、これでも充分凄いと言えるホールケーキを呆然と見つめ、少年の弾むような声に返事をすることさえ忘れる。

しばらく経って、ハッとして顔を上げると、嬉しそうな満面の笑みがこちらを見つめていた。

その笑顔からすっと視線を逸らして、お返しを何も準備していなかった事を心の中で悔やむ。

今日が何の日であるかもすっかり忘れて、「ちょっと公園まで来て」という軽い呼び出しに、軽い気持ちで応じてしまった数分前の自分が恨めしい。


「なーちゃん……?」


突然視線を逸らされたことが気になったのか、少年は顔を覗き込むようにして不安げな声で問いかける。

その声に何でもないと答えようと顔を上げかけて、少女はハッとしてポケットに手を触れた。

布の上から伝わってくる確かな感触に、ポケットに手を突っ込むと、中にあったものをグーにした手の平に包んで突き出す。

それがなんであるかは、確認しなくてもわかっている。

手作りのケーキには申し訳ないようなお返しだけれど、どうしても今すぐお返しがしたかったから、今あげられる精一杯を手の平に包んで突き出す。

一瞬きょとんとした少年だが、少しして意図を汲んでくれたようで、そっと両手をお皿のようにして差し出した。

五本指の手袋がはめられた両手の上に、少女は握っていた拳を開いて中のものをそっと落とす。

コロンと手の平に転がったのは、水玉の包装紙に包まれた大きな飴玉。


「わたしの好きな大玉あめ。とくべつに、一つあげる。……メリークリスマス、ふーくん」

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