ある日

白菫

ある日

カールした金髪を一つに束ねたその女性は、店のオレンジ糸のライトを反射して銀色に煌めいているように見える

すらっとしているが、ふっくらとした胸が女性らしい体型を引き立てる

黒のシャツと黒いタイトスカートに身を包んだ彼女の背筋は曲がることもなく、スッと伸び、上品さを際立たせている

スカートのスリットから覗いたほっそりとした脚が、セクシーさを漂わせていた


あどけなさの残る顔立ちのほっそりとした女性は、その白い肌に見合った赤茶色のストレートに伸びた髪を低めに一つにまとめている

丸く愛嬌のある瞳は、目の合った人を釘付けにしそうなほど魅惑的な色をしている

表情に感情がのることの少ない彼女の瞳が時折細くなり温かな笑顔を映す時、ホッとするような心地よさが解き放たれる


スッと真下に伸びた金色に染められた髪を、短く切り揃え、溌剌とした印象の女性が、マスクでも隠せないほどの笑みを作る

彼女の温かな笑顔とは対照的に、一心に作業をする時の瞳は職人のそれと似ている

彼女の姿を見た人の背筋がスッと伸びるのがわかるほどの、キリッと厳しい光を放つその瞳には、少なからず楽しさが宿っているような気がするのは不思議である


小さな顔には大きすぎるほどの丸いメガネを鼻にかけている女性は、その高く可愛らしい声とは裏腹に大人びた雰囲気を纏わせている

前髪を紫色に染め、後ろ髪は肩に届かないくらいで切り揃えられ、彼女が頭を動かすたびに紫色の束が艶のある黒髪と共に揺れる


真っ黒の髪を顎元で切り揃え、ライトに照らされさらに黒く輝いている

真剣な眼差しで作業に取り掛かりながら、作業台を行ったり来たりしている彼女は、目を伏せていることが多い

一度顔を合わせると、おっとりと穏やかに時間が流れるような感覚に襲われる

そしてそのほっそりとした身体からは想像できないほどのパワフルさがみなぎっているように見えるのは魔法にかかったかのように不思議だ


声の大きなその女性は、嬉しそうに食事と甘味を見て「美味しそう」っと少女のようにはしゃいだ。連れの女性も同じ雰囲気で、その客よりも少し早口で話す。「熱いかな」と紅茶の匂いが漂うカップを覗き込みながら、話が飛びに飛ぶ。食事の話から、クリスマスの話へとシフトする。その後、また食事の交換をし、話しながらも口に食べ物を運ぶ彼女たちは友人なのか、親子なのか姉妹なのか不思議な組み合わせだ。若い方の女性が「ママ」と呼んでいる様子から、親子なのだとやっとわかったが、落ち着いた雰囲気の娘と若さを忘れない無邪気な母なのだろう。それでも似ているところは少なからず見受けられ、どちらもとても早口だ。怒涛の会話を続ける二人には、何故か明るい雰囲気が漂い、騒がしいというよりは微笑ましい空気を纏っている。


洒落た帽子に姿勢の良さが上品さを引き立てているその女性は、向かいに座る同世代らしき女性に熱心に語りかけている。穏やかな眼差しで話を聞いている女性は、ジーンズで少しラフな格好をしている。小さいことは気にしないお母さんのような雰囲気を漂わせる彼女もまた、話を聞き終わると自分の意見を熱心に話し始める。上品さを欠かない彼女と家庭を築いて丸くなったような彼女、話は尽きないようだ。


いつもスーツ姿の彼は、パソコンと向き合っている。別段難しそうな表情もせず、どちらかというと少し楽しそうにパソコンを強く叩く。たまに電話をして、席を立ち、店外で話を終わらせ、また戻ってくる。両手の塞がらないリュックサックを隣の席に置き、いかにも体育会系の雰囲気を醸し出している。大きな図体には似合わない少し小さめのカップを左手に置いて、咳払いの音とタイピング音を響かせる。


細身の体に見合ったスーツを身につけて、有線のイヤホンを携帯に繋げている彼。パソコンと携帯の両方を見ているようで、ずっと仕事をしている真面目そうな人だ。小ぶりな顔には似つかない大きなグラスをそばに置いて、ストローもささずにブラックコーヒーを口に運ぶ。男性らしい一面が人相とのギャップを誘っている。


ふんわりとした黒髪を肩までで切り揃えたその女性は、穏やかな雰囲気とは裏腹に豪快にバーガーを頬張る。ホットサンドもテーブルに添えられ、細身の身体には似つかない食べっぷりを披露していた。スマホの画面を一身に見つめながらも、バーガーを口に運ぶことはやめない。幼さと落ち着きを兼ね備え、愛嬌に変えているようだ。黒いワンピースに身を包んだ彼女が、バーガーの最後の一口を頬張る。膝に落ちたパンくずをはらってから、ホットサンドに手を伸ばしている姿は穏やかな女性というよりもお茶目な少女のようだった。


爽やかな笑顔を向ける彼女は、肩までの茶毛の混ざった髪を後ろで一つ結びにしていた。少し高めの溌剌とした声が相手の笑顔を誘う。無駄のない動きでオーダーを受け、沈黙は余談で気まづさが明るさに変わる。小さな気遣いが相手を安心させるだろう。自然と笑みが溢れる相手を見て、微笑む彼女は、輝いて見えた。


白菫

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ある日 白菫 @shirosumire944

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