二人の間の灰色の怪異

神在虚

短編 二人の間の灰色の怪異

「私はさ、幽霊とかお化けが嫌いなんだよ?。」


友人は笑いながら「知ってる。」と言った。


 私は夜遅くに親友に緊急の用事だと学校呼び出された。夜の学校など行きたくなかったが緊急と言われると不安なことばかりが頭に浮かんでしまい、行かないわけにはいかなくなってしまった。学校につくと「「プール」」と連絡が来た。行ってみると親友はプールサイドに座っていた。


「なんで夜に学校のプールサイドに呼んだの?というかなんで鍵開いてるの?」


「とりあえず、座りなよ、涼しいよ。」


 私は溜息を付きながら裸足になりプールサイドに座った。プールの水は冷たく、蒸し暑い夏の夜にはとても心地よかった。


「ね?気持ちいいでしょ?」


親友はいつも笑顔だった。笑っていない親友を見ることは滅多にないことだった。……だから、このときの私は親友の本心に気づくことができなかった。


「で、なんで、呼んだの?」


「……私さ、そろそろあの世に行こうかなって思うんだ。」


「…………え?何言ってるの?」


それは紛れもなく親友からの自殺の相談だった。


「やめてよ、怖い話しようたって私は……」


冗談だと思い、笑って話を流そうとしたが彼女の目は真剣だった。


「嘘……だよね?」


「…………私はさ、飽きちゃったんだと思う。同じ映画を何回も何回も繰り返すような世界に飽き飽きしたんだと思う。だから、もう、どうでもよくなっちゃった。」


彼女は笑う、いつもどおりの笑顔でコチラを見る。


「そんな、理由で……」


「そんな、理由じゃないよ、私にとってそれが全てだった。だから、心残りが無いように君を呼んだ。何も言わずにいなくなるのは違うかなって思ったから。」


「………っ」


言いたいことはたくさんあるのに言葉が詰まってしまった。なんて言ったら止められるかわからなかった。


「じゃあ、私行くね。」


そう言って立ち上がった彼女の足には重りがついていた。止める間もなく親友はプールに飛び込んだ。


水飛沫が中を舞う。親友の笑顔が頭から離れない。


「「助けなきゃ」」焦りでそれしか考えられなくなり私も親友のあとを追うように夜のプールに飛び込んだ。


………目を開くと真っ白な天井が見えた。


「わたし…なにやって……」


 頭を整理しようとすると笑顔でプールに飛び込む親友の顔がフラッシュバックした。


「そうだ……私、プールに飛び込んで……」


 はっ、として周囲を見渡すとそこは確かにプールだったが学校のプールではなかった。レジャー施設のような場所。しかし、そこは真っ白い壁に囲まれて、陽の光は無く、人工的な明かりがついていた。


「人工的な建物だけど……どうして、こんな場所に……。」


 自分がなぜ、こんな場所にいるのか全く検討がつかない。あれは全て夢?いや、明確に覚えているからそれはない。じゃあ……


「ここは一体どこなの……?」


 それから数分間は放心状態だった。だが、このまま、ここに居ては現状は変えられないと考え、出口を探すことにした。


私の足音が広い空間に響いた。


着ていた服は濡れていて動きづらい。


しかし、この場所は本当にレジャー施設のようで歩けば歩くほど可笑しな形のプールや滑り台がついたプール、深く底の見えなプールなど景色が変化するため、不思議と飽きはしなかった。人が一人も見当たらない点を除けば楽しそうな施設だと思える。


「まぁ、それは無理なんけど……」


独り言を呟いていると遠くから水の流れる音がした。


「ウォータースライダー?」


そこにあったのはどう考えてもある位置のおかしいウォータースライダーだった。


「なんでこんなとこに。」


周りに階段などは見当たらず、下に行くためのウォータースライダーだけがある。しかし、ここは行き止まり、これに乗る以外の道は無かった。


先は曲がりくねっているためか見えない。


恐怖心が拭えないがここ以外に下に降りる場所が見当たらなかった。


「行くしかないよね…」


私は手すりに掴まりながら水の流れるところに恐る恐る腰を降ろした。


「え………?」


次の瞬間後ろから背中を押された。


「いってらっしゃい…」


顔も見えないその人は私にそう言った。


私は水の流れに逆らえずそのまま流された。

静かな室内に私の悲鳴が響き渡った………。


ウォータースライダーを叫びながら滑って数十秒、出口見えた。大きな水飛沫を上げながら私は広いプールに着水した。


水面が波打つ。水から顔を出し息をする。


手で顔を拭っていると。


「……楽しかった?」


急に人の声が聴こえ、心臓が飛び跳ねた。

振り向くといつもの笑顔の親友がいた。

私は親友の声に安心し、涙が溢れてきてしまった。


「なに、泣いてるのさ。もう君はホントに怖がりなんだから。」


恐怖と不安を押し殺してここまで来た分、私の涙は簡単には止まらなかった。


「……なんで、死のうとするの……私、どうしたらいいかわからなくて…」


「……ごめんね。」


いろんな、言葉が浮かんだが何一つまとまることはなかった………


「………で、ここはどこなの?死後の世界とか?」


「う〜ん、私もわかんないや、とりあえず合流したし、水着あるしプールで遊ぶ?」


「………そういえば、なんで、水着着てるの?」


「無料貸出って書いてある場所から借りてきた。人いなかったから無断だけどね。」


「………ここで遊ぶのは肝が据わりすぎじゃないかな。」


「いや、プールだし。」と笑顔で言う親友に今までの恐怖とは別の恐怖を感じる。どこかもわからないプールで遊ぶなんて、いや、着ている水着が濡れているとこを見るともうすでに遊んでいたようだ。私がおかしいの?ともはや自分を疑い始めてしまった。


「ここはたくさんのプールがあるし、遊ばなきゃ、損でしょ!!」


親友に手を引かれそのまま更衣室へ、水着に着替えさせられ、そこから広いプールで二人で遊んだ。


「ホントに広いよね、ここ。」


「そうだよね、沢山プールあって飽きないや!ほら、次のプール行こ!」


それからそのプールで長い時間遊んだ。


親友と遊ぶのはやはり楽しかった。私はこれを失いたくなかった。唯一自分を理解してくれる友人を失いたくなかった。


親友と遊んでいるうちにこの場所に対する不安感や恐怖などが薄れて私も笑顔になっていた。今の時間がいつまでも続けばいいと……だけど、それは突如目の前に遭われた。


「なに…あれ、灰色の……」


巨大な人の形をした灰色のなにかが現れてから親友は私の手を取りそ・れ・から逃げるように走り出した。


「あれはダメ、はやく逃げなきゃ。」


親友にそう言われ、あれがなにかもわからないまま私も走った。


灰色の化け物がいた場所から長い間走って相当離れた。


私は呼吸を整えながら「あれはなんなの?」と親友に訊いた。


「………私にもわからないけどあれはだめな気が…」


「あるそめんょでさてんはきだづめりはのやじくばこふっぶちをへび」


「隠れてッ!」


遠くから灰色の化け物の声が聴こえ、トイレの個室に隠れた。


「それいぶつゆとじいばてをはめだんめざもぶどにれゔなぐくでなりる」


化け物の声が聴こえる、私は恐怖に鳥肌が立ち、身体が小刻みに震えていた。そんな、私に親友は「大丈夫だよ。」と声をかけてくれる。


数分待つと灰色の化け物の声は聞こえなくなった。


安心したのも束の間「……ガチャッ」と誰かがトイレに入ってきた。


「ガチャ」


そいつは次々とトイレの個室のドアを開けている。


あまりの恐怖に泣きそうになる。そんな、私に親友が言った。


「私が惹き付けるからここで待ってて。」


「……だめ、見つかったら……」


私は震える手で親友の腕を握った。

もう、どこにも行ってほしくなかった。


「大丈夫、すぐにもどってくるから。」


親友はこんな状況でもいつもと変わらない笑顔を見せた。そんな、笑顔に親友の腕を掴んでいた手の力が抜けてしまった。


「じゃあ、行ってくる。」


そう言って親友は化け物のいる外へ飛び出した。


「こっちだ!化け物!」


「かるえばせぜかじのゅじりょろを」


親友の声と化け物の恐ろしい叫びが室内に響く。


私は恐怖に目を瞑り、しゃがみ込んだ。



……親友が飛び出してからどれくらい経っただろうか。

私は静まり返った個室で息を潜めていた。


「バタン!」


ドアが勢いよく締まる音がした。


誰かが入ってきた。私は親友が戻ってきたと願いながら次に個室の扉が開いた時の想像をした。しかし、どんなに想像しても親友が戻ってくる姿を想像できなかった。あんな、化け物に追われて助かるなんて無理だと私は諦めていた。


「ガチャ……」 


私・の・居・た・個・室・の・扉・が・ゆ・っ・く・り・と・開・い・た・。・








「大丈夫??」


扉が開いた先には私に手を差し伸べる親友の姿があった。


「ば、化け物は?」


「なんか、逃げ回ってたら消えちゃった。」


「ホント?」


「ホントだよ、ほら出てきて大丈夫だよ。」


差し伸べられた手に私は掴まった。


次の瞬間………

私は親友に抱き締められていた。


「ごめんね、一人にして。でも、もう大丈夫だから。もう一人にしない。」


私は親友の言葉のおかげで恐怖が和らいででいくのを感じた。そして、また、泣いた。何回泣くんだろ私……


 それから、私達は二人で出口を探した。どれだけ長くなろうと私は親友といれば大丈夫だと思った。


親友はいつも笑顔、そんな笑顔が好きで私はその手を握る。


「ねぇ、☓☓。」


「ん?どうしたの?」


「ずっと一緒にいようね。」


私がそう言うと親友はとびっきりの笑顔で応えた。


「うん!ずっと、いっしょだよ!」


















☓☓日の午前5時頃、☓☓高校のプールで女子学生一人の遺体が発見されました。


関係者によりますと、☓☓日の朝5時頃、☓☓高校の野外プールに人が浮かんでいると通報がありました。


遺体として発見された女子学生は溺死したとみられており、警察は…………。
















彼女はおかしな子だった、みんなから避けられていて、いつも、何も無い場所に向かって楽しそうに話しかけていた。


まるでそこになにか居るみたいに……。












彼女は見えないなにかを親友だと言ってた……………












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