初めてのダンジョン探索(仮) 2


 嘘っこダンジョン、一階層。


「さて新米冒険者諸君。調子の方はどうだ?」

 

 フェイ先生の質問に。


「ボクは、平気かな」


 パドちゃんはちょっと不安そうではあるけど、まだ普通な感じで答える。


 逆に。


「アタシは、あんまり」


 キリエちゃんは気分が悪そうな感じだった。


「なるほど。ちょっと屈んでくれ」


「はい」

 

 フェイ先生が、キリエちゃんの瞳を覗き込む。

 瞳の色を確かめて、それから手首に触れたり、簡単な質問を繰り返す。


「お前は魔力が聖方面に偏ってんだな」


「……そう聞いてます」


「なら最初はきついかもな。けど、慣れれば他の奴よりずっと長く動けるようになるよ。それが、ここの瘴気からお前を守ってくれるようになるから」


 キリエちゃんはそれで問題ないみたい。


「カクガネは当然平気と。そんで」


 フェイ先生が、最後にあたしを見る。


「シズク、お前はどうだ?」


「あ、の」


 あたしはすぐには答えられなかった。

 

 ダンジョンの内部は閉鎖的なのに、息苦しいとか淀んでいるとかは感じなくて。


「あたし」


「おいおい、調子が悪いなら隠すなって」


「違うんです」


 戸惑う。 


「むしろ、外より調子がいい感じで」


 空気が澄んで感じる。

 いつも、詠唱とかで励起させてようやく感じ取れる自分の血流を、遠く、淡く、けれど確かに感じられる。


 汗が流れる。

 聞いてたのと違う展開に。


「ああ、なるほど。そっちか」


「あの、何ですか、これ?」


「稀に、そういう奴もいるんだ。ダンジョン内の方が調子いい奴。オレが見た中じゃ、そうだな、冒険者百人に一人くらいの割合かな」


 そういう『女神様からの賜りもの』、だそうで。

 

「けど、お前の場合は」


「む?」


 不意にフェイ先生がアニキ君達を抱き上げる。


「多分、コイツが原因だな」


「…………」

「ほう、我らの」

「おかげ?」


「ああ。お前ら、魔界から来たんだろ」


「……ああ、そうだ」


 ライト君が答える。


「魂で繋がってるこいつらが、お前の魔力の循環を助けてるんだろう」


「はえー」


 そういうこともあるんだ、と

 そんな風に思ってると。


「おいおい、呑気な奴だな」


 フェイ先生は困ったように眉間に皺を寄せた。


「シズク、お前、勘違いしてるっぽいから今の内に言っとくぞ」


「はい?」


「こいつらはお前が思ってる以上に希少で、それでいて有用な存在なんだよ」


「そうなんですか」


「知能があって人間に友好的な魔界の魔獣。こんなのはもう奇跡の域だ。ましてや、それを学生が拾うなんてのはな」


 あたしもアニキ君達も。

 言われたことの凄さがよく分からず、目を瞬かせる。


「魔獣ってモンを従えてる奴自体は、結構いる。けど、そう言うのは大抵調教や契約魔術で縛り付けて使役してるだけだ。下手を打てば喰われる」


「…………」

「ボクたちは」

「そんなことしないのである!」


「ああ、そうだな。ミティスからの評価は聞いてるよ。『危険は無しです』『むしろとってもいい子たちですー』だそうだ」


 ミティスさんって言うのは、確か学園の用務員さんの名前だったはず。


「あいつは学園で色んな魔獣や使い魔の世話を一手に引き受けてる結構やばい奴だ。あいつが言うんなら基本的には間違いない。だからオレはこいつらのことは信じるけど、それが例外だってのは覚えておいて欲しい」

 

 降ってわいたそんな思いがけない話に、あたしとアニキ君達は顔を見合わせた。


「ああ、ちょっと話がずれたな。今は一応、試験の真っ最中だった」


 フェイ先生はいけないいけないと、首を振る。


「うん。全員大枠では問題なし。なら進もうか。もうすぐ、二階層に下りる階段だ」



  

『こちらスターフォー、二階層へと到達』


『こちらスターツーお嬢さんフロイラインが階下に降りるのにもう少しかかりそうです』


『マスターワン、了解。スターフォーお嬢さんフロイライン到着次第状況を開始する。それまで、時間を稼いでくれたまえ』


『了解』




 嘘っこダンジョン一階層、階段前。


「よし、お前ら平気だよな?」


 キリエちゃんが結構慣れてきて、パドちゃんもそれなり。

 あたしもカク先輩も平気。

 その様子を見てフェイ先生が言う。


「それじゃ、二階層に進んでみるか」


 あたしたちを含めた全員が頷く。

 引き返すような事態には、とりあえず陥ってはいない。


「全員、深度計は持ってるな?」


「あ、はい」  


「カクガネ、この機会に使い方を教えてやれ」


「分かりました」


 言われて、カク先輩が一歩前に出る。


「各自、深度計を確認してみてくれ」


「これだよな?」


「そうだ」


 キリエちゃんが細い鎖で首にかけていたそれを引き出し。

 同時にあたしは懐から、パドちゃんは普段から腰につけているポーチからそれぞれ魔道具を取り出した。


「こいつはダンジョンにおけるコンパスのようなものだ。地上からの距離を測ってくれる。針を見てみろ」


 示されてみれば。

 針は、ほとんど二の位置に。


「こういうことだ」


 なるほど。

 今は二階層に近いから針の数値はほぼ二なんだ。


「こいつの利点は、自分が進んでいるのか、それとも戻っているのか逐一確認できる点だな。戻りの階段に近づけば数値が下に、昇りの階段に近づけば数値が上に変化していく」


「はえー」


「最低でもパーティーに一つ、出来れば各人に一つは欲しい魔道具だな」


 これも、今は学園から借りてる。

 というか、結構な道具を学園から借りて潜ってる。


 そういう物を実際に使ってみるのも、試験の目的の一つ。


「……こういうのも将来自分たちで揃えなくちゃならないのか」


「楽しみだよね」


「え、あ」


 パドちゃんの表情が小さいながらもわくわくしてるっぽく変化。


 あたしは必要になる経費のことを考えてたんだけど。

 それを見て考えを改める。


「うん。そうだね」

 

 これからの負担のことばっかり考えてるんじゃダメなんだ。

 自分で、一から創っていける楽しみのこと。

 忘れちゃ、ダメ。


(反省)


「さて、そろそろ行くか」


 あたしたちはフェイ先生と共に、階段に足を踏み入れる。

 降りるたびに針の位置は少しずつ変化して。


「ここが」


「ああ、一応こっからが戦闘を含めた試験の本番ってことにはなる」


 最後には、完全に二の位置に固定される。


「二階層」

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