【第60話】城への侵入

水道管と言うよりは、洞窟のような広さに近かった、後から整備しやすいようにしているのだろう。真ん中わを排水が流れて、その両端を人が歩けるような設備になっていた。少々手狭ではあるが、歩けなくもない空間が目の前には広がっている。


排水道の中は、特に明かりもなく外の月明かりだけが照らしていた。暫く歩いているが、分かれ道などは無いので、道に沿って歩き続ける。


「この先が、城の中へと通じるようになっていれば良いのですが…」


自身がどの位置にいるのかを考えながら歩く、もうそろそろ城の真下に着く頃だろうか、内側の城壁から城までの距離はかなりある、その間は貴族たちの家が立ち並んでいると聞いていたが、その下を今は通過しているところだろう。


とりあえず誰にも出くわさない事が何よりだ。今はまだ、順調に進んでいる気がする。


そうして歩いていると、三つの分かれ道が現れた。

まっすぐ行くか、左右どちらかに歩いていくか。この頃にはもう、外の光は差し込まなくなっており、辺りは真っ暗だった。


私は、元の世界からの顔だけが残っている状態だったので、暗視モードに視界を切り替えて、暗闇でも進むことができている。


「とりあえずは、まっすぐ進んでみましょうか」


右と左はおそらく上の貴族街の周りを、ぐるっと一周している通路にだと思う。先ほどからただの一本道だった、このまままっすぐに行けば城の下に到着するはず。


「だが、こうして人が歩けると言う事はそれなりに出入りもあるはずだ、油断せずに行こう」



私は、分かれ道をまっすぐ突き進むことにする。


するとしばらく歩き続けだが、城の付近には着いた頃だろうか、排水道の道はなくなりそれと別に下へと続く階段が現れた。


「道が変わったと言う事は、ここから先が城の内部でしょうか、一体どこに繋がっているのやら」


戻ることも別の道を探す事できないので、私はその階段を降りていくしかない。静かにゆっくりと階段を降って行く、下からこちらを見つけられたら終わりだろう、そんなことを考えながら、一段一段階段を踏み降りていく。


階段の終わりに近づくと、鉄格子でできた扉が私の目の前にあった。取っ手に手をかけて、引っ張ったり押したりしてみるが、この扉は開く事はなかった。


取手をよく見てみると、大きな鍵がかけられていた。


「この鍵が邪魔ですね」


だが、ピッキングツールを持っているわけではないので、鍵穴をこじ開けることはできない。大きな音を出せば、それだけで城中の兵士に気づかれてしまう、静かにこの鍵をなんとかしないといけない。


私は拳銃を一丁取り出し、鍵穴に向かって銃口を構える。今回の偵察を想定して、私はいくつかの装備を新たに開発しておいた、先ほどの反重力装置もそうだが、もう一つ、サイレンサーだ。


用意しておいてよかった、これなら銃声が響くことなくこの鍵穴を壊すことができるだろう。その鍵に向かって銃弾撃ち込み鍵を壊すことに成功する。


壊した後は少し静かに身をひそめ、誰かに気づかれてないか警戒をする。が、特にざわつく様子も、誰かが来る気配もない、幸いなことに誰にも気づかれなかったようだ、これで問題なく向こう側へと入れる。


私は鍵を外し、鉄格子を開け中へと入る。


奥へと進んでいくと、そこには同じような鉄格子で覆われた部屋が、いくつもあるような場所に出た。


(ここは牢屋か何かでしょうか)


声を出さずに、静かに部屋の一つを覗いてみると、鉄の鎖手錠が置いてあり、藁のベッドが並べられたりしていた。間違いない、ここは牢屋が並ぶ部屋らしい。


私は、牢屋の中にいるかもしれない囚人に、見つからないように慎重に歩いていく。ここで“助けてくれ”などと叫ばれたら、城中の兵士が一気に駆けつけることになる。


それよりもここに牢屋があると言う事は、この奥に牢屋を見張る兵士がいるはずだ、そいつらはどうしてくれようか。


ゆっくりと歩くが囚人は見当たらなければ、気配もない。そのまま進み、部屋の奥まで見てみると扉が見えた、あの扉の奥に牢屋を守る兵士がいるのだろう。


扉に向かって歩いていくと、ひときわ大きな牢屋が目に入った、思わず視線を移すと。


(しまった…)


その大きな牢屋の中には囚人がいた、幸いなことに寝ているらしく、こちらにはまだ気づいていない。


一旦入ってきた道を戻り状況を整理する、この牢屋の部屋には囚人が一人だけいる。おそらくだが、扉の向こうには兵士が立っているだろう。進む道は一つ障害は二つ、さてどうしようか


しばらく考えていると、私の足元に石が転がる。咄嗟に顔を上げると、先程の囚人がいた鉄格子から腕が伸びて、こちらを呼びかけるように腕を振っていた。


(どうやらばれていたようですね。それに声を上げないと言う事は、比較的協力的なのか?)


その腕は、私を呼ぶようにずっと動き続けていた。ここは行くしかないだろう、うまく交渉ができれば穏便にやり過ごせるかもしれない、私はその囚人の方へ向かって歩いて行く。


そこには一人の女性が座っていた、見た目は二十代位だろうか、明るい赤茶色のロングヘアに、丸いガラス玉のような瞳。格好はボロボロの布の服を着せられ、少し痩せ細った彼女が私を呼んでいたのだ。




(ふふ来てくれたね」


(この状況では行くしかありませんからね)


(あんたもしかしてあの排水道を通ってきたのかい?)


(分かっているのでしょう?それに、私の姿を見ても驚かないと言う事は、あなたは人族ではないのですか?)


私たちは声を落とし、静かに会話を続ける。


(私はれっきとした1人族だよ。あんたを見て驚かなかったのは、私にとって千載一遇のチャンスだと思ったからね)


やはりここから逃がしてくれ、と言う話なんなんだろうか。ただ、この少女が人族なれば、手元にあるサイレンサー付きの拳銃で表の兵士にばれることなく、殺した方がいいだろう。


そう考え、私は拳銃に手をやる


(おや、私に何かするってなら、今から叫び声をあげるよ)


(その前に殺れますよ)


(あんた人族に敵対する勢力の何か、なんだろう?魔王心の解放について、探りに来たんじゃないのかい?)


(なっ!?)


思いもよらなかった言葉に、つい身体が固まってしまった。こんなに早く目的の一つ、魔王心の解放について、手がかりを得られる事が出来るとは。


ただし、それが逃がす為の交換条件なんだろう。


(分かりました、これは取引です)


(話が早くて助かるよ、頭の回転も良いようだね)


私はそれに返答することなく、手に構えていた拳銃を鍵に向かって発砲する。銃弾が鍵に当たる音が反響し、外でざわついた声が聞こえた、やはり兵士が立っていたようだ。


私は反重力を展開し、体を天井まで浮かび上がらせる。これで入ってきた兵士には気づかれずに、奇襲を仕掛けることが出来る。


声を聞く限りどうやら二人だけらしい、会話の内容を聞くと、“どうせまたの女が騒いでるだけ”、“ほっとけほっとけ”としか聞こえてこない、この部屋に入ってくる気配はなさそうだ。


私は反重力を解除しつつ、ゆっくりと降り立つ。


(ははっ、あんたすごいね)


(お話は後です、ここから脱出する術を考えましょう)


そうだね、さっきの浮かぶやつもう一回できるかい?)


(わかりました。)


(話が早くて助かるよ、ほんとに)


(私は再び、天井に身を潜める)


それから彼女は扉をノックした、兵士もさすがに扉をノックされたのには驚いたようで、慌ただしく扉を開けて入ってきた。


「おい、貴様また牢屋から抜け出したのか!!」


「おとなしく牢屋にに戻れ!!」


「いつものちょっとしたお遊びじゃん、退屈なんだよ…ここには何にもないしさ」


「うるさいうるさいうるさい、さっさと戻れ」


そして彼女は二人に取り押さえられ、牢屋の中へと連れ戻される。兵士がちょうど真下に来た隙に、私は背後に飛び降り、鎧と兜の隙間を狙って、二刀の刀で首を切断する。


斬られた兵士は倒れ込み、抱えながら静かに下ろす。


それを見ていた彼女は、牢屋の中から音のない拍手をし驚いた顔をしていた。


「さて、話を聞きましょうか」


「ゆっくり話してる時間はないよ?ここの兵士は3時間後に交代といったところだね〜」


やられた、訪れた交代の兵士が城中に伝える事になるだろう、そうなればこの城から出る事はおろか、国から出るのも怪しくなる。


「私の目的は二つです、先ほどあなたが言った魔王心を解放する手掛かりと、人族の動向についてです」


「ふーんっ、なら、私についてきな」


一体どういうつもりだ、何が目的だ。話している時間はないので、とりあえずは従うしか無い。兵士を呼ばれても面倒だし、このまま逃げるわけにもいかない。


そうして、言われるがままにこの部屋を出る。どうやら、ここは城の地下らしく部屋を出てまた階段を登ると、城のの背面が目の前に現れた。


「さっきの浮くやつ、私を抱えていける?」


「可能ですが、浮くだけなので自由に移動はできませんよ?」


「十分よ」


また後をついていき、城のそばまで近寄る。どうやらこのまま浮かんで、城の頂上にある部屋に入りたいとの事だった。


詳しく話している時間はないと、そう言われながら私は彼女を抱えて浮かび上がる。念の為、辺りを警戒しているが、この辺りに兵士の姿はない。


そうして、城の頂上の部屋へと到着した。降り立った場所はベランダで、ガラス窓から中の様子を覗き込む。中には誰もいなさそうだ。


すると、彼女がガラスを静かに割り鍵を開ける。


「ささっ、入るよ」


「分かりました」


そうして、部屋の中へと無事に侵入する。

かなり豪華な部屋の作りだ、一体誰の部屋だ?


「ようこそ、私の…いや、王女の部屋へ」


「えっ、王女??」

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