【第53話】天族の村からの帰還
私たちは村に案内された方角と逆に向かって走っていた、何かがこの村を襲っているとの事だ。それに先ほどの天族は
もしかしたら、人族が攻めているのだろうか。いや、この場所を攻めるには、私たちの街を通らないと来れないはず、もしやその逆から来ているのか?
私たちは、天族者たちが集まっている場所へと合流する、すると全員が崖の下を見下ろしていた。私たちも近くに寄り、同じく崖の下を見下ろしてみると、そこには人族の軍勢が構えていた。
「コハク、あれはやはり人族ではないでしょうか?」
「うむ、妾にもあれが人族の軍勢に見えるの」
「しかし、どうやってここまで…?コハク、あそこを見てください」
「あそことは、あの光のことか」
あれは私たちにも覚えがある、鉱石の洞窟に向かう際に使っていたあの魔法陣に似ている気がする。もしかして人族もあれを使って、ここまで乗り込んできたのではないだろうか。でも、なぜあんなものがここに、誰にも作れないはずだが。
「あれは最近できたのものだ」
「最近ですか?」
「そうだ、あの光から突如として、人族の軍勢が現れ始めた」
やはり間違いない、あれは洞窟を繋いでたものと同じだろう、では人族の誰かが作り出したと言うのか。誰かがあの魔方陣を利用して、改造したのだろうか。そんな技術を持つ者が、あの人族にいるとは考えられないのだが、目の前で起こっている事はまさにそれを実現したものだった。
「コハクと言ったな、先ほどの対応は済まない。この事情故に、我らはここを離れることができぬのだ」
「あの魔方陣を逆手に、こちらから攻めることはできないんですか?」
「それは何度か試したが、何故か我らがあの光に触れると弾かれて中に入ることもできないのだ。つまりは人族の一方通行と言うわけだ」
そこまでの技術を確立させたものがいるとなれば、かなりの脅威となる。これは天族に限った話ではなく、私たちにとってもまた、状況が悪くなるような話だ。
「申し遅れた、我は天族の王をやっておる。【ガスール】と言う、重ねて先ほどの態度はすまなかった。せっかくここまで来ていただいたのに、人族がこうして攻めてくることが最近は多くなったのでな、許してくれ」
「いやいや、こちらこそ状況を知らずにとは言え、大変申し訳なかった。だが、最高のタイミングと言うべきか、最悪のタイミングと言うべきか、妾たちもここまで来たからには、手を貸そう」
「いや、そのようなわけには」
「むしろその為にここまで来たのだ、そのための戦力も整えておるでな、ナディやれるか?」
私は既に準備をしていた、
「コハク、私はいつでもやれますよ」
「と、言うわけだ。少しだけ妾たちのことを見ていてくれんかな」
そして、私とゴーレムで人族の群に対して狙撃を開始する。放たれる砲弾と私の魔銃・超電磁砲から繰り出される一撃は、凄まじい威力を見せ、人族の群れに見事に命中する、大きな爆発音と土煙を上げながら、人族たちは四方に散って行った。
生き残った者はなんとか立ち上がり、人族が現れた光の中へと消えていった。
「コハク、問題なく終わりましたよ」
「どうじゃ、なかなかの戦力じゃろ」
「もしやとは思っていましたが、彼は戒族の生き残りなのでしょうか?それにあの兵器は一体…」
そうしてコハクと天族の王が話をしていると、その場にいた天族たちが集まってきていた。コハクは皆に対して説明を続ける、ナディは戒族ではないが異世界からの来訪者であると。それに、光の力を持つものが向こうにいる以上、妾たちに残された時間がないと。それに対抗し得る戦力として、ナディが力を貸してくれているので妾たちと手を組んで欲しい、そう伝える。
「コハク殿、それは非常にありがたい申し出で、受けたいのは山々だが、先ほど伝えた通り我らはこの地を離れることができない状況にあって大変申し訳ないが…」
「なら妾たちと一緒に来んか、住み慣れた土地を捨てるのはなかなかに難しい決断だとは思うが」
「いやしかし、我らとってはこの地の方が戦いやすいという事もありましてな」
「この兵器たちが立ち並ぶ街を、このナディが建築したと言っても同じことが言えるかの」
再び天族たちの表情が変わる。ただの移住や移動ではなく、その先に安住の地がある可能性があると、そう伝えたいからだ。
「言ったじゃろ、このナディが街を作っていると、そこならば守りも強固になっておる。それにこの村にいる全員を受け入れるだけの土地はある」
「いや、しかし、そんな場所争いの渦中にいるのではないか」
「実は、あの戒族の国があった場所に建築しておってな、今はまだそこまで攻め込まれておらん」
そうすると彼らは、思い思いの話しを始める。この地を離れたくない、もうずっと攻め込まれるのは正直疲れていた、安住の地があるのであればそちらに向かいたい、など様々な意見が交差する。私は口頭にはなるが、自分の街の状況や防衛について説明を続ける。
一番に驚かれたのはあの風龍が鱗を与え、それを街の防衛に使えと言い残したことだった。どうやら天族の人たちには言い伝えが残っており、その風龍の鱗について思い当たる節があるとの事だった。
「わかりました、皆と一晩だけと話す時間が欲しい」
「もちろんじゃ、その間はここで持たしてもらってもかまわんかの?」
「もちろんでございます、すぐに場所は用意させますので、今しばらくお時間を下さい」
そう話が進んでいると、後ろの方でサクラとシャナンが小さな声で話しているのが聞こえた。
「私たち完全に蚊帳の外だね」
「シャナン、仕方のない事です」
そうして、私たちは空いている家へと案内され、そこで一晩過ごすことになった。その間にも様々な質問があったので、私は天族の者たちと加わり、会議に参加しながら状況について説明を続けていた。
一夜が明け、天族の人たちに呼び出される。返事は残念ながらこの地に留まり続けたいとの事だった、やはり住み慣れた土地の方が守りやすく、来る方向もあの光の場所からだけだと分かっているので、防衛をしやすいとの事だった。
ただし、村の中にはぜひそちらに移住したいと言うものが数名いたので、その人たちを何とかお願いしたいとの申し出を受けた。私たちは特に断る理由もなかったので、ぜひにと受け入れを許可する。
「コハク殿、私たちがここにいる以上あの光の場所から人族は攻め続けることでしょう、これも一つの種族連合の一員としての役目だと思っていただきたい」
「もちろんじゃ、何かあれば参戦するよ。こちらこそよろしく頼む」
「はい、遠くからではありますが、私たちも力になれることがあれば尽力させていただきます」
そして二人は握手を交わし、その場を後にしようとする。帰り際に、コハクが鎖で巻かれ黒い箱に入った魔王心を、ガスールに渡していた。
その箱を受け取ると、涙を流しながら体を震わせ、それを何度も何度も、ありがとうございますと伝えながら受け取っていた。
悔しいが、未だあの箱から魔王心を取り出し、継承する方法が見つかっていないと、そう伝える。ガスールも、私たちの古き文献を当たってみますので、何か判明しましたらお伝えさせていただきますので、よろしくお願いしますとの事だった。
私は連れてきたゴーレムを置いて行くことにした、弾の作り方なども伝え、この村の防衛にあたらせる。遠距離での砲撃は効果的だろう。
そうして、私たちは村に移住をしたいと言う天族たちとともに駆け降り、川の側まで降ろしてもらった。さすがにずっと飛び続けるのは申し訳ないので、ここからは歩いて帰っていくことにする、行きと同じく魔物に遭遇することがないので、変わらず平和な道のりが続いていた。
「コハク、あっという間でしたね」
「うむ、そうじゃの…まぁ種族連合として仲間になってくれると言うことじゃったので、ひとまずは良しとしようかの」
「サクラと私は役に立たなかったけどね」
「そう言うな、力を振るわなかっただけ良かったと思えばいいじゃないか」
「そうですよシャラン、その時が来れば私たちも役に立ちますから」
「そうだね、その時が来たらね」
そうして私たちは無事に街へと戻ってきた。
街に戻ると皆が出迎えてくれていた、特に大きな問題が起こったこともないようなので安心する。
「そうじゃナディ、お主にもこれを渡しておく」
そう言うコハクの手には、あの黒い箱が握られていた。どうやら戒族の魔王心らしい。
「いや、私は戒族では…」
「何故かの、お主に渡しておく必要があるように感じるのじゃ」
「わかり…ました、確かに受け取ります」
私は黒い箱を受け取り、それを握る。
これを解くことが、種族連合の悲願でもある。
私に解くことが出来たのであれば…。
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