【第10話】潜入と悲願

私とコハク、ラクーンの3人は隠れ家にいた。

今夜は作戦決行の日だ。

各々が潜入作戦に備え、準備を整える。

隠蓑(ハーミット)を羽織り、武器と巻物を懐にしまう。エネルギー量もライタに、100%まで補充してもらった。

2人も同じく問題ないようだ。


最終の打ち合わせに入る。

私たち3人で潜入、魔王心のありそうな王の私室と、宝物庫を探しながら内部を探索。

発見次第、奪取。その場から逃走。

問題が発生した際は、その場で対応。

ライタとタルトーが、城の周辺にて万が一に備える。


「さぁ、いこうかの…妾の命、預けたぞ」


そう言うと3人は、城を脱出した時の通路を奥へと進んでいく。様々な思いを抱え、城へと向かって進んで行く。

城の厨房へと続く扉を開けると、クベアが扉の前で待っていた。

彼は、今にも泣き出しそうな顔をしている。


「姐御ぉ〜ようやくなんですねぇー!」


「しっ!声がでけえよ!」


「よしよし…よく耐えたの、ありがとう」


泣きそうな顔を堪え、こちらに顔を向ける。


「この前はお互いにバタバタしていましたね」

[ナディさん…どうか…どうか姐御と兄貴の事よろしくお願いします……また無事な姿で会いましょう」


クベアが私の手を握る。

感覚はないが、きっと力強く握っているんだろう。

私は、クベア手にそっと手を添える。


「はい、精一杯お二人の力になります」


「さて、時間もないからの…お主には伝えてあったが、ここにいて欲しい…ここは任せた」


「もちろんです!任せてください!」


「だから、声がでけえって!」


クベアは大きく胸を叩き、胸を張る。

ずっと待ち望んでいたのだろう…たった一種族で。

少ない人数で、見つからないように息を殺し。

今日のこの時を、ずっと待ち続けていたのだ。


「そういえば変わった事は無かったか?」


「ないよ、兄貴!いつも通りだったよ」


「了解」


「さぁ、ここから敵城じゃ。気を抜くでないぞ」


「「 はいっ 」」


私はここから[ |探索/検索(スキャン) ]を全開にする。

腕の見せどころだ。最短ルートで、誰にも見つからないように、目的の場所まで導く。


とりあえず、このフロアには誰もいないようだ。

2人に指示を出しながら、先頭にラクーン、真ん中に私、後ろをコハクが警戒しながら進む。


厨房を出て、階段を登り、1Fのフロアに到着。

ここに、目的の部屋がないか調べていく。

そんなに多くはないが、廊下を数人が歩いていたり、各部屋にも人がいたりいなかったり。

特に変わった特徴のないフロアだった。


「恐らく、ここには何もなさそうじゃな」


上のフロアに続く階段を探し始める。

この城は、各フロアごとに階段の位置が変わるので、フロアを移動するだけでも[ |探索/検索(スキャン) ]を使いながら慎重に進む。


廊下をすれ違うのは、メイド服を着た女性や、燕尾服を着た執事ばかりだった。

隠蓑(ハーミット)のおかげか、こちらに気づかれずに進むことができている。

息を殺し、接触しないように動きを見て、慎重に一歩ずつ確実に歩みを進めて行く。


私たちは順調に2Fフロアまで到着した。

召喚に使われた大広間が、この先に確認。

ここには、人がほとんどいない。

念の為、大広間を調べる事にする。


「ここがお主の召喚された場所か…」


「はい、ここで召喚されました」


「あの時は危なかったよなー」


「おかげさまで、助けて頂きました」


「こちらこそ、今は助けられているよ」


「ふむ、召喚の術式が床に描かれておるの…一部分、欠けておるようじゃが……」


ラザール王が座っていた椅子なども手探りで探して行くが、めぼしいものは何も見つからない。


「何か引っかかったかの?」


「いえ、特には…ここには何もありません」


ひとしきり探し終えると、3人は大広間を出てさらに上のフロアへと向かい始める。

[ |探索/検索(スキャン) ]の範囲も限界まで広げていて、今の私に出来るのは半径1kmほど。

センサーの反響(エコー)と、熱源センサーを使っているので、上下フロアの情報までは届かない。


歩みを進めながら、慎重に警戒と探索が続く。

見えてきた3Fフロア。

感覚がない私でも何故か感じる、空気が変わったと。

2人も同じく感じ取ったらしい、緊張感が走る。


(ここは、なにかありそうっすね)


(お主も感じるか?ナディ、何か引っ掛かるか?)


(いえ、今のところは。とりあえず、人影もしばらくは反応がないので、廊下を進みましょう)


3人は変わらず縦に並びながら、進んでいく。

一部屋一部屋に[ |探索/検索(スキャン) ]を通しながら、見落としがないよう確実に潰して行く。

ここでもない…ここにもない…ここにはない…

すると、前方に今までと違う部屋を見つける。

部屋の前には2人ほどの人影が確認できた。

動く気配はない、ずっと立ち続けているようだ。


(恐らく、宝物庫か、王の私室じゃろうな)


(可能性は高いっすね


(ですが、すみません。何故か中までは把握でず、実際に中に入って確認するしかありません)


おかしい、扉1枚ぐらいなら見通せるはず。

中に何かがありそうだ、ただ、あの扉を開けた中には、危険なものが眠っている可能性が。

判断ができない以上、決断しかねる。


(何を今更、ここまで来ておるのじゃ、後には引けん以上…進むしかなかろうて)


(後ろは任してください、俺が扉を開けます)


(素早く門番は殺して構わん、妾とナディで左右をやる。ラクーンは扉を頼むぞ)


そう言うと、2人は呼吸を整える。

コハクが鞘からレイピアを抜き、私もトンファーを取り出し準備をする。


「…ふうーっ……行くぞ、3、2……1っ」


3人は、勢いよく扉と門番をめがけ駆け出す。

私とコハクが先導し、ラクーンが後をつける。

周囲の人影は確認終えている、問題ない。


ここには5人しかいない。


『なっ!? なにも…』


声を上げさせる前にコハクが喉元を掻き斬る。

そのまま、レイピアを心臓へと突き立てる。

もう片方の門番へ、トンファーの先端を心臓に刺し込み、口を手で押さえ息の根を止める。

それぞれ倒れそうになった門番の体を、音が出ないように抱きかかえる。

ラクーンが扉を開けようとするが、鍵がかかっていた。


予想していたかのように、杖を取り出し唱え。


《 ソイル 》


土が形成され、形を作る前に鍵穴へと入れる。

形が定まったことを確認し、鍵の形を形成。

そのまま、鍵をこじあけ、扉を開く。

ラクーンが扉を開けながら3人は中へと入る。


中に入り、動かなくなった門番を隅にやる。

部屋の中は灯りがともっていた。

かなり大きい部屋の中には、ガラスケースに入った剣や盾、鎧などが保管されていた。

奥には、宝石の類も確認する事ができた。

この部屋に入ってからも[ |探索/検索(スキャン) ]は正常に作動せず、何も分からない。


「ナディよどうじゃ?」


「ダメです、すみません…」


「しかたないの、手分けして探そうか」


3人はそれぞれ分かれて、中にあるものを探す。

目ぼしい物は見つからない、魔王心に近い物も見当たらない。ずっと[ |探索/検索(スキャン) ]を使っているが、モヤがかかったように正常に作動していない。


「姐さん!姐さん!」


奥の方でラクーンが声を上げていた。

コハクが声の方へ向かって歩いて行った。

私は、周囲を探し終えたら向かう事にする。


部屋の中を探し終えたので、ラクーンの元へ向かおうとする。 突然、扉の方で音がした気がした。


(ん?何でしょう…門番が生きていたとか?)


気になり扉のそばまで近づいて行く。

すると、門番ではなく門の向こうから話し声が聞こえてきた。


(しまった…[ |探索/検索(スキャン) ]が正常に作動していないので、外の状況を把握できていなかった)


(これは、私のミスだ…まずい)


私は、近くにあった剣と槍で扉の取手を固定させる。

外にバレないように静かに差し込む。

これで見つかっても多少の時間は稼げるだろう、急いで2人の元へ向かう。


どうやら、奥にもう一部屋あったようだ。

姿がないので、2人を探すように奥へと進む。


2人の後ろ姿を見つけた。

部屋に入ったばかりなのか、立ちすくむ。


「お、おぉ…ナディか…」


「お主もきたか…ようやくじゃ…」





どうやら見つけたらしい…魔王心を。





部屋の真ん中に6つの台座が設置されている。

それぞれの台座に、正方形の黒い箱が置かれていた。

黒い箱が置かれているだけだが、2人には感じるらしい。

その箱の一つから…先代の獣族の王に授かっていた…魔王心を。


「初めて感じたような、どこか懐かしいような…恐ろしいような、頼もしいような…不思議な存在感を発しておるの」


確かに、この部屋に入ってから[ |探索/検索(スキャン) ]が全く機能しなくなった。

魔王心が原因で、何らかの影響が出ていたのだろう。


すると、コハクが導かれるように、一つの箱へと向かって歩き始める。

その前に立つと、震えながら黒い箱を手に。

両手で包めるぐらいの大きさだった。

コハクは涙が溢れていた、そのまま震えながら強く握りしめ。


「おかえり、お父様…」


とだけ呟いた。


この時間を、邪魔したくはなかった。

しかし、時間は残されていない。

何故ならこの作戦が、終わりになるかも。


「コハク!ラクーン!外に人が来ていました、早く回収してここを離れる準備をしましょう!」


コハクは我にかえる。涙を拭い、手に持った黒い箱を大事そうにして、懐にしまう。

ラクーンは、残りの箱を袋に入れ抱え持つ。


「持ち出せるようなもので良かったっすね」


「あぁ…ようやく見つけたのじゃ…」


「さぁ、お喋りをしてる時間はありません、出口は一つです!恐らく、門番がいない異変に気づかれているでしょう。どうしますか?」


「ないなら作ればいいのじゃ…のぉ?」


「やるっすか、俺の得意技っすね」


そういうと2人は準備を始める。

目的のものは奪取した、あとは逃げるだけだ。

この、敵城の一室から。

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