【第9話】実験と作戦
翌日、私はコハクと共にタルトーの工房にお邪魔していた。
昨日頂いたライタの針を、加工してもらう。
既に、明日に向けて作業を続けていたが、すぐにできる内容だったらしく、その場で作成して貰えた。
「ほぉ、なにやら変わった形状じゃのぉ」
「がははっ!変な注文だが、嫌いじゃない!」
針の形状を整え、同じ素材で持ち手を作る。
元世界でいう“トンファー”に近い形状だ。
剣なども考えたが、元の形をそのまに出来るので、作業も早く済むのでは、と考えた。正解だったようだ。
何本か貰っていたので、余った分は投擲用にクナイのような形状に加工してもらう。
昨晩のうちに、戦闘シュミレーションは作り上げた。
後は、実践して思い通りに動けるかどうかだ。
出来上がった武器を持ち、魔の森へと向かう。
道中、王燐連中に出くわす事は無かった。
昨日の今日で、来ている可能性も考えていた。
森の中を進むと、フォレストウルフが3体いた。
私は、投擲用の針を握り、電気を流し込む。勢いよく流すと音が鳴るので、静かにゆっくりと、限界まで流し込んでいく。
昨晩のうちに、許容量に関しては確認済みだ。
丁度3体並んでいるので、両端の2対を目掛けて勢いよく針を投げ込む。
計算通り命中した、2対の体に深く刺さり込む。
『『ギャワンッ』』
激しい電鳴を上げ2体の体が焼き焦げる。
真ん中の1体も、突然の出来事に驚いてはいるがもう遅い。
2本の針の間を電流が掛け走り捉える。
途端に、その身は電流によって焼き焦がれる。
私は、瞬く間に3体を仕留めた。
使い方としては上々。
「見事な手際じゃなぁ、やりおる」
音が大きかったのか、左から4体、右から2体のフォレストウルフが近づいてくる。
「ふむ、妾が左を担当しようか、右は頼んだ」
そういうとコハクは左の方を向き、細い
「こちらは心配するでない、お主より強い」
そういうと、コハクはフォレストウルフとの間を一気に詰める。木々の間を駆け抜け、喉元めがけその剣を突き刺す。
すぐに抜き、その勢いのまま2体、3体と斬る。
最後の1体が、噛みつこうと飛びかかるが、華麗に頭上を飛び避け、背後からその首を斬り落とした。
綺麗だった、無駄のない動きで4体仕留めた。
私は、目前まで迫っているフォレストウルフに意識を向ける。
奴らは、勢いよくこちらに向かっていた。
トンファーを構え迎え入れる。
お互いに牽制し合っているのか、お互いが見合わすと動かなくなる。
先に動いたのは、フォレストウルフだ。
大きな口を開けながら、飛び込んでくる。
右手のトンファーを回転し、長くなった方で口の中に突き刺す。
刺したと同時に、電流を流し込み、焼き焦がす。
2体目が後ろから迫っていた、回り込んでいた。
勢いをつけて飛び込んできた口に、左手のトンファーを噛み付かせる。
硬さも申し分ないのか、噛み砕けずにいてる。
そのまま左手にも電流を流し、仕留める。
私の武器から口を離し、地面へと倒れ込む。
流した電流が少ない、まだ息があるようだ。
抜いた右手のトンファーで、とどめを刺す。
後ろから手を叩く音が近づいてくるする。
「お見事な手際じゃ、戦闘面でも問題ない」
ガキンッ
突然、コハクが私に斬りかかってくる。
咄嗟の事たが、防ぐ事はできた。
「い、いったい…」
コハクは少し顔を崩しながらこちらを見る。
「ふむ…反応も問題なしじゃな。安心せい、当たりそうなら寸止めにしておったわ…ふふっ」
そう言うと、剣を鞘へと戻す。
「さて、戻るかの〜もう用事はなかろうて?さっき投げた針だけは、回収しておくようにの」
そういうと森の外へと歩いていった。
呆気にとられている私は、森の中で残されていた。
《ザザッ『イイ』 ザザザザ『イイゾ』-》
またノイズが走る。問題なければいいが。
私は牙と突き刺さった針を回収し、後を追いかける。
次の日、私と、ラクーン、コハク、タルトーはライタの家に集まっていた。
魔道具が完成したそうで、準備を整える。
「がははっ!なんとか早くに終えられたわ!」
「爺さん、ありがとうな、これで動けるぜ」
「僕のプレゼントが、タル爺のやる気を底上げしたおかげだね!褒めてくれよ、友よ!」
「やかましい奴らばかりよのぉ、のうナディ」
「いえ、そんな事は」
テーブルの上に、用意された魔道具が広がる。
だが、隠蓑(ハーミット)が2つではなく、3つ用意されていた。
潜入は私とラクーンと聞いていたのだが。
「妾も共に向かう、待つだけは性に合わなん」
「いや、それは待てよ姐さん!俺たちだけ…」
「なんじゃ?不服かえ?」
「そういうわけじゃ…姐さんにもしもの事があれば、誰が俺たちをまとめるってんだよ」
「なんじゃ?もしもの事があるような作戦か?なら、戦力は1人でも多い方がよかろうて」
「なら姐さん以外に!」
「ライタには引き続き情報収集をしつつ、何かあった時の遊撃として残しておきたい、タルトーは…ほれ、潜入には不向きじゃろうて」
「がはははっ!確かに!こそこそ隠れるのは無理だ」
「しかし、俺は…」
「大丈夫じゃて、万に一つもありゃせん。そうせぬ為に妾が向かうんじゃ。それに昨日、ナディの戦闘も見ておる、この3人じゃと問題なかろうて」
「…わかりました。何が合っても守り抜きます、姐さんだけは」
「やめんこ、お主の未来の為に命をかけよ、妾の後に連なる者は、こうして残されておる」
「……わかり、ました…」
「のぅ?よろしく頼んだ、ナディよ」
「はい、お任せください」
侵入ルートは、前回逃げるときに使った通路を使うとの事。料理人をしていたクベアには伝えてあるので、出先で鉢合わせになる事はない。
問題は、魔王心の在処だが。
候補がいくつかあるらしい。
城内の階層は地下1階、上には4階まである。
その中にある、“王の私室”、“宝物庫”のどちらかにあると踏んでいるとの事。
私は、城に潜入と同時に[
部屋を見つけ次第、魔王心を奪取。
どんな形で保管、封印されているか不明なので、その場での判断にはなるとの事。
作戦らしい作戦はないが、これ以上の情報が集まらなかったのも事実。
皆、不安が残る中での計画となる。
「皆よ、今日を幾年待ち続けた。妾は父のようになりたいと、その背中を追い、もがいてきた。そんな未熟な妾によくぞ着いてきてくれた。お主らには感謝しかない」
「いえ!俺たちは姐さんがいてくれたからこそ!」
「ナディがこの世界に呼ばれ、ラクーンがそれを救った。偶然かも知れぬが、父が残した必然じゃと思う。妾たちに答えてくれた、ナディの思いもじゃ」
「とんでもない、皆様の為にありたいと思えるからこそ、私はここにいるのです」
「精度の高い情報を集め、魔道具にて皆を助け、妾たちがここにいいる今もなお、敵陣に1人で留まり続けている」
「そんなお主らが、大好きじゃ。ありがとう」
「姉御…」
「お主らの起こしてきた事は、妾が決して無駄にせぬ!今こそ好機じゃ!妾…お主らの未来の為に、この作戦、必ずや成功へと導くことを誓う!」
「がはははっ!俺の作った魔道具だ!心置きなく使い倒せ!」
「妾のこの命、2人に預ける。共に行こうぞ」
「俺が絶対に死なせねぇ!何があっても守り抜いてやる、姐さんはこれからの獣族にとって、俺にとっても必要な存在だから…安心して俺らに預けてください」
「かしこまりました、その命(めい)承ります。私が完璧な隠密行動を約束しましょう」
「皆の者、共に行こうぞ!笑って過ごし、自由に世界を謳歌し、助け合いながら輝かしく生きていける日々の為に!妾たちのの理想郷の為に!!ここからが足がかりとなり、諦め、隠れてしまった他の種族を起き上がらせるのじゃ!!妾達が先駆けて、ずっと研いできた牙を、奴らに向けるのじゃ!!」
「「「 はい!!! 」」
先程までの皆の不安が消し飛ぶかのように、コハクが皆に心の内を語りかけた。
凄いと思った、私には出来なかった事だから。
心を持つという事は、相手に寄り添い、相手の気持ちや思い汲み取り、自分の気持ちと感情を乗せて、話す事なのだろうか。
これが、心に響く言葉なんだろう。
言葉に感情を乗せる事は、今はできない。
目の前の光景が、私には眩しく、足りなかった部分がさらけ出されているかのようで、少し怖く感じた。
所詮はロボット、造られた人工的な知能なのだと。
ただ、この目の前の光景は壊したくない。
私と、この命と呼べる物と替えたとしても。
明日の深夜に作戦が決行される。
それまではそれぞれ、明日に備えて休息する。
私は、何度何度も頭の中でシュミレーションを繰り返す、誰も命を落とさぬよう、完璧な作戦で終えるように、何度も…何度も…。
心のない私に、今できる事はそれだけだ。
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