第3話 欠損と因縁の発端

「ふん、やっぱり機動力ではこっちが上だね。もうついてこれてないよ。危なかった。こんな場所でコスプレして出現した事を考えると意外と街が近いのかも!!」


早く故郷に帰りたいなぁなんて思っていると異音に気づいた。


「うん?バキバキバキ?何かが折れる音と共にドスンって倒れる音…。どこか倒壊でもしたか?」


音は遠くから聞こえて来たが油断はできっ!!!


「っ!!!!」


遅れて来たのは激痛。耳を劈くような悲鳴が口から漏れる。

なんで僕がこんな目に…。UMA殺したバチが当たったのか。

僕が状況を確認すると分かったがどうやら両足をお釈迦にされたらしい。両足が倒木の下敷きにされた。

おいおいおい、外の国の人間ってどんな化け物だよ!!


「あはは。なんなんだよ…。」


両足が下敷きとなり動けない僕を見下すようにあの鎧が現れ持っていた武器を振り下ろし僕を絶命させようとして来た。当然の場から動けないからと言って大人しく死を受け入れるほど僕は馬鹿じゃない。必死に身体を捻り強引に致命傷を避ける。

ただ、当然その場から動けないので無傷とは行かず右腕が切断された。発狂しそうな痛みと途轍もない喪失感の中僕は左手で地面の砂利を掴み投げ付け、指を指しながら呪詛を吐く。


「コスプレ殺人鬼か、UMAが知らないが死んだら確実に呪ってやる。精々その力を誇り続けてれば良いさ。絶対呪い殺してやるから殺されないように頑張るんだな。」


負け惜しみにも死に際の無駄な抵抗にも見えるだろうが状況を理解できぬままコスプレ殺人鬼に殺されるんだからこんなクソみたいな遺言が出てくるのも仕方ないだろう。

…ああ、でも死体が残る分トカゲに潰されるよりはマシか。


それだけ言い残すと血を流し過ぎたのか僕の意識は闇に沈んだ。




ー金髪縦ロール視点ー


山賊に襲われ、馬の操者の死に驚いた馬に引きずられて崖下に落下した。幸いな事に私はギリギリ生き残ったがここは比較的安全な場所とは言え魔物はどこにでも出てくる。護衛も逃げる足も失った私は魔物になす術が無かった。恐らく、そろそろ帰宅して来ない事を不審に思ったお祖父様辺りが捜索隊を出しているだろうが間に合わないだろう。既にコボルトに発見されているし…。

コボルトは比較的賢い魔物でたとえ相手が1人の手負いでも即座には襲わない。仲間を呼び確実な優位を確立してから初めて襲いかかってくる。ゴブリンのような能無しでない事を喜べば良いのか泣けば良いのかよく分からない。5体程集まると初めてその凶刃が振り下ろされようとするがその凶刃が私に届くことはなかった。


「ハイ・エルフ!!?なんでこの森に…。」


エルフは狩猟民族で昔大規模なエルフ狩りがあったせいで絶滅したと考えられている。耳の尖りと髪色から見て間違いなく純血のエルフ。一応エルフの血筋は街中でも見かけるが血が薄まり過ぎて普通の人間と変わりない見た目で専門家が鑑定をしても区別がつかない程だ。それ程までに薄まっている。

そんな事を考えているうちにいつの間にかコボルトは全員逆さ吊りにされ、首を絞められ死んだ。エルフは狩猟民族とは知っていたけど魔法もスキルも使わずに一瞬で片付けるその様は強く美しい。昔の貴族がエルフ狩りを行ったのも納得出来てしまった。

お礼を言おうと呼び止めるが互いに言語が違うのかお互い全く何を言っているのか分かっていなかった。はるか昔に絶滅したと考えらるている種族であるため言語が別物と化すのは納得であるがお礼を伝えられないのはむず痒い。互いに困り果てているとエルフが顔を青ざめながら横に飛んだと同時に目の前で凶刃が振り下ろされる。敵意を確信したのか私の護衛の目の前で土煙を上げ視界を潰し逃げ出した。


「待って!!(マズイ護衛が頭に血が昇ってるのか命の恩人を殺そうとしてる!!)」


私の護衛は私の制止も聞かずに突っ走り消えた。あの一瞬で複数の足跡を作り出したエルフに関心したいところだがあの護衛はマズイ。本当にマズイ。例えエルフであっても逃げ切れない。私の家の中で最強戦力、正直この状況では過剰戦力が過ぎる!!

想像通り、護衛は暴れ回り木々は薙ぎ倒され山が森が開墾されていく。例え地の利がエルフにあろうと地形自体を変えながら進まれるとなす術なんてあるわけが無い。


「お祖父様はなんでアレを外に出したの!?戦争でも起こす気!!?」


痛む全身を神聖魔法で癒し終えると私は急いであの化け物の元に赴く。幸いあの怪物が通った跡は地形が変わるので非常に分かりやすい。私がアレに追いついた時には色々手遅れだったけど…。


「何してるのよ!!」


トドメを刺そうとする脳筋を横から飛び蹴りでどうにか凶刃をずらす。


「敵対するモノに死を与えようとしただけですが何をそんなに慌てているのですかクレア様。」


「貴方がやった事は恩を仇で返しただけなのよ!!?私の神聖魔法じゃ欠損は治せないしただの骨折でも治すのに滅茶苦茶時間掛かるのに何やってくれてるの!!?」


私の目の前には倒木に両足を潰され片腕を切り落とされたモノが横たわっている。


「そうですか?ならこのまま殺しちゃって証拠隠滅するのが得策では?山賊が死んでも誰も困りませんし。」


持っている武器を納めるつもりは無いのは分かってたがここまで酷いと呆れを通り越して怒りすら湧いてくる。


「ふざけてるの?ただの人間ならお父様もお祖父様も見逃すでしょうが相手はエルフなのよ。絶滅した筈のハイ・エルフ。流石に黙ってないわよ!!」


「相手が誰であれ敵対するモノには死をが鉄則の筈では?」


心底不思議そうに私を見つめてくるがこれはツッコミ待ちという事かしら?


「この脳筋!!アレのどこが敵対してたのかしら?」


「言われてみれば直接害した所は見てないですね。」


ハッとしたような表情と何か納得したような仕草を見せたがまだ武器を下ろしていないため仕草だけで油断を誘ういつもの手口である事はお見通し。


「なんでいつも貴方は考え無しなの?貴方が過剰戦力であるが為に監視の意味合いも込めて家に置いてるんでしょうけど、こうも立て続けにトラブルを起こされては扱いを変えなきゃいけないでしょ。ただでさえ貴族と言う面倒臭い地位にいるのに余計な仕事を増やさないでくれるかしら?」


「公家の仕事はほとんど当主がやっているでしょうに…。当主は当主で色々暗躍してるみたいですが国を獲るつもりですか?」


「お父様は何がしたいのか知らないけど、国のトップに立つなんて面倒な事はしないわよ。どちらかと言えばただの厨二病患者よ。」


お父様は表舞台で活躍するより裏で手を回し結果的に表を動かすタイプだ。しかもその理由がそっちの方がかっこいいと思っているからと聞かされた時はどれ程呆れた事か。私の父ではあるが幼稚過ぎて今までの偉大な父の幻想が一瞬で崩れ去った。もしも、私が男でしかも当主を引き継がねばならない立場であったらその場で父を殴り倒していたと今でも思う程にはショックだった。


「あぁ、自分の娘にそんな事を言われてしまって可哀想に…。」


「思っても無い事を口にするもんじゃ無いわよ。取り敢えず止血するから馬車の残骸から馬と荷台を繋いでいた縄持ってきて。今すぐ。」


嫌な事を思い出して本来の目的を忘れそうになったが濃い血の匂いで現実に引き戻される。当然神聖魔法でどうにか生を繋いでいる状態のため私がこの場から離れることは出来ない。


「はいはい。クレア様は人使いが荒くて嫌ですね。これなら殺すだけで良い戦場が恋しいです。」


「やり過ぎて戦争も紛争も出禁にされたのは貴方の責任でしょ。それよりも早く動け!」


私は護衛の尻を蹴り上げるが当然この化け物にはダメージならない。この護衛の鍛え過ぎた筋肉は名匠が作った剣を振るう達人ですら剣が負けるのだから当然だけど。必要ないのに鎧を着てるのはファッションらしく呆れるしない。まぁ、そんなに筋肉があれば布も鉄も変わらないのかもしれない。


「公家の令嬢としてその口調は直した方がいいと思いますよ?」


「誰のせいだと思ってるの?貴方が居るといつもトラブルを起こすから口調に気を回すほどの余裕は無いわよ。無駄口叩かずに働け!この穀潰し!!」


「平和な場所では兵士が穀潰しになるのは当然でしょうに…。」


「血に飢えた獣に何言っても無駄でしょうしもう疲れたわ。どうにか命を繋いでいる状態なのだから早くしてくれるかしら?」


屁理屈を捏ねくり回す奴に付き合う事は諦め、再び指示を飛ばし催促する。


「はいはい。」


「多分暫くは家で面倒を見る事になると思うから客人用の部屋には近づかないでね?」


「そこまで馬鹿ではありませんよ。ただ、恨みなど剣を一振りするだけで消えてしまう儚いモノですが…。」


「はぁー、もう色々と疲れた。教国は何やってるのかしら。いくら我が国と仲が悪いとは言え聞き齧りの知識だけでどうにか形にしているだの奴が一番マシな神聖魔法使いって現状は良くないでしょうに。多少の人員派遣してくれないと面倒なんだけど。」


教国との不仲は今に始まった事では無いけど、こういう事が起きるたびに国の啀み合いに巻き込まれる一市民の事どう思っているのか知りたい。魔法薬だって材料に限度があるし、作る人によって効果は区々。常用するにも数を揃えるにしてもリスクもコストも馬鹿にならない。


「一番マシと言うより国内で唯一使えるだけでは?」


「まだ居たの!?早く取ってこいよ!!神聖魔法は魔力効率が悪過ぎるから長く掛け続けられる程の余裕は無いのよ!!?」


「全くクレア様は何を言っているのやら私の手に持ってるモノが見えないんですかねぇ。」


その手には確かに縄が握られていたがその後ろに目をやると馬の死骸ごと引っ張ってきたことが分かる。


「何呆れてるのよ!!って、馬の死骸ごと持ってくるって貴方馬鹿なんじゃ無いの?」


「えー、切るのが面倒だったから引っ張ってきちゃっただけですよ。何をそんなに怒ってるんですか。これは婚期を逃すのも納得ですな。」


「まだ私は19よ!?寝言は寝てから言え!!」


そもそも貴族の結婚ってのは自由恋愛では無く政略結婚であり、政略しなければならない相手がいない場合保留されるしか無く私が結婚出来ずにいるのはどっかの厨二病な親バカが優秀過ぎるのと裏で手回ししてるからであり断じて私が悪いわけじゃ無い。


「しかし、世界的に見ても18過ぎても結婚していない令嬢は行き遅れでしかないでしょうに…。平民ですら20になる前に結婚するのが当たり前なんですよ?聖女でも目指しているんですか?」


「もういい!!断頭台に送ってやるわ!!」


「何度か送られましたがギロチンも何も効きませんよ。刃が砕けて無駄に設備を壊すだけです。色々な処刑方を試されたようですが私の筋肉に勝てる器具が今の所無いみたいですからねー。殺せるようになると良いですね。」


護衛は余裕綽々な態度で殺せるモノなら殺してみて欲しいものですっとまで言い切った。


「ムキィー!!とっとと死ね!!絶対処刑してやる!!」


「ハハハ、無駄ですよ。そんな事してる余裕無いのでは?ハイ・エルフを死なせるのは損失なのでしょ?」


「誰のせいだと思ってるのかしら!?あー、殺せずともその皮膚に針が刺されば口を縫い付けられたのに!!貴方こそそんなに筋肉鍛えて何を目指してるんですか?」


「世界一美しく強い筋肉ですが?」


そう言いながら鎧を着たままポージングするその姿は実に腹立たしい。


「仮にも魔法の国で目指すモノじゃないでしょ。教国にでも行った方がまだ受け入れられるわよ?」


処刑ができないのであれば島流しにして仕舞えば良い。あの国は良い噂は何一つ聞かないし罰として斡旋して押し付けておくのも良いかもしれない。戦争や紛争に出禁になっているから教国が他国を攻め落とすにしても使えないし、丁度いい荷物になってくれるだろう。


「嫌ですよ。異界より色んな化け物を召喚していると噂される国なんて…。私は一般市民なんですよ。巻き込まれたらひとたまりも無い…。」


「それはツッコミ待ちって事で良いのかしら?それはそうとそろそろこの倒木どうにかしてくれないかしら?」


内心舌打ちとため息を同時にしながら次の指示を出す。


「治療は終わったのですか?」


「急に圧力が無くなっても大丈夫なように処置は今終わりましたよ!!だから早くその無駄な筋肉を使ってこの巨木をどうにかしろ!!」


「はいはい。と言うかまた木が太くなりましたかね?」


そう言いながら護衛は倒木を丸めた紙でも持つかの様に軽々と片手で持ち上げその辺に放り投げた。


「魔物の巣窟にならなきゃ良いけど、ここも時間の問題ね。まぁ、少なくとも私が生きてる間は問題なさそうだけど、最近急激に魔力濃度が上がってるのは無視できない問題ね。原因は大体分かってるけど。」


魔力濃度が上がれば魔力に依存している存在程影響を受ける。魔物はより狡猾で強く凶悪に、植物はより強靭で巨大になっていく。


「まぁ、教国は良い噂は聞きませんからね。宗教を盾に戦争を起こす蛮族であり、勝手に治療して法外な金銭を請求する押し売り詐欺師でもありますし。」


「まぁ、そろそろ邪教認定が降りそうなのと、神からも見放されそうだし滅びるのも時間の問題かしら?」


「この世界を管理する神様は享楽主義ではあるものの戦争は享楽に入らないみたいですからね。」


「なんでそんな事言い切れるのよ。」


「まず私の加護が消えたのと、前に教国の要所を落とした時に見つけた資料が根拠です。神はいるんでしょうが基本的に傍観者に過ぎず、余程のことが無ければ神託すら卸さないみたいですよ?」


「なんでそう言う重要な事を今言うのよ!!」


護衛に怒号を飛ばし、切り落とされた腕を氷付けにし、怪我人を魔法で持ち上げる。


「早く帰るわよ!」


「…所でどっちに進めば良いのでしょうか?」


「はぁ!?来た道も覚えてないの!?こっちは崖から落ちて本来のルートから外れてるから道分かってないのになんで助けに来た貴方まで道分かってないの!?」


「まぁ、邪魔な気を薙ぎ倒しながら一方向に進めば迷う事なく道に出ますよ。…多分。」


「地図を見なさい!!持ってきてるでしょ!」


因みに私の従者が持ってきていた地図は馬車の残骸の中で無事な保証はないが最悪馬車の残骸を漁って地図を探すことになる。


「えーっと、上から持っていく様に言われたから持っている筈です。どこやったかな。」


「コレで持ってきてなかったら流石に報告だからね?」


「やだなぁ。雇用主の説教は長いんですよ。しかも発言の一つ一つが痛い厨二病だし聞いてるこっちが恥ずかしい。」


その後護衛がどうなったかは言うまでも無いが一応時間はかかったが家に戻る事は出来たとは言っておこう。それと何故かこの日とある森の3割程が開墾されたと言う。

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