隻腕少年は故郷を目指し直走る

夜椛

一章 誘われた先

第1話 誘われた先の世界

目が覚めたら知らない天井だった。いや、天井すらない。自室のベッドで寝たら青天井、知らない場所で野晒し山か森の中。


「一体何が…。」


ディーネと一緒に部屋で寝てた僕は当然こんな場所で寝た覚えはないし、来た覚えも無い。現状把握をしたい所だけど、こんな服装で森の中なんかに居たら蜂やら虫やらに刺されて大変な事になる。ここが何国かは知らないが人里に早く行って状況確認をするのが先決だと思う。うん、知らぬ土地で何も知らぬまま死ぬなんてごめんだ。毒虫に刺されて死亡なんて洒落にならない。それに蛇や熊が出てきてもおかしく無いし、武器を持たない狩人なんて美味しくいただかれちゃう。


「えーと、こう言う時は降るんじゃ無くて登って登山道を探した方が良いって話だよね。正直寝巻きで外に出るなんて自然舐めてるとしか言いようがないけど、この状態で放置されてたんだから仕方ないよね。…唯一の懸念点は登山道なんて見たことないからどんなのか分かんない所かな。」


僕は周りを警戒しながら気配を殺し足音をなるべく立てないようにして斜面になっている方向に歩を進める。


「裸足でこれは自然舐め過ぎでしょ。一応目印に落ちてた石で適当に木を傷つけてはいるけど迷う気しかない。ここが森でも山でも同じ方向に進んでれば確実に抜けられる筈。富士の樹海みたいな場所じゃ無ければの話だけど。」


お肉の仕入れ間に合いそうも無いなーなんてどうでも良い事を思いながら進み続けるが中々ここを抜け出せない。一体どうしたものか。


「足痛いよぉ。裸足で地面はキツい。」


数時間も素足で何があるか分からない場所を歩き続けると分かるかもしれないが、足の裏が徐々に擦れてって血が滲み出す。それでどんな雑菌がいるかも分からない土の上を歩くのはただの苦行だし、もしかしたら感染症で先に死ぬかも知れない。


「でも、靴の作り方なんて知らないし、僕は靴屋の息子じゃないんだよ!!狩人の息子だよ!!原材料を取れても加工は専門外だよ!!」


こんな所で死にたく無いんだけど。死にたくなきゃ泣き言言ってないで早く足動かせって話なんだけど、痛いものは痛い。


「!!!?」


歩き続けると何かの気配を感じ、木の影に隠れながら辺りを見回る。第三者視点から見れば僕の行動は完全に不審者であるがもしこの気配の主が野生動物であった場合武器を持ってない僕は問答無用でご飯にされちゃうので、警戒を怠る事はできない。


「蜉ゥ縺代※」


少し探すと気配の主は見つかったのだが何言ってるか分からないし、どうやら何かに襲われているご様子。木片の残骸と馬の死体がある事から上から落ちたか?


「うーん、助ける義理も力もないからどうしようもないかなー。それに金髪縦ロールは僕好きじゃないしなー。」


冷たいと思うかも知れないが奴は自然を舐めただから死ぬ。そんなの自業自得だし、こんな状況で無駄死になんて割に合わない。それにここからだと何に襲われてるのか分からないし、相手が熊なら獲物を横取りなんてしようものなら僕まで標的になるし、死にたくないもん。それに見るからにお嬢様だし、コスプレして森に入るとか頭おかしい子と関わりたくない。本の世界じゃあるまいし、あんな格好で自然に挑むのは自殺行為なのが分からないのか?


「(へ?何あの生き物。二足歩行の狐?犬?狼?気持ち悪…。あんな生き物に襲われたらひとたまりもないよな。うん、生き残るには武器が居るよ。襲われている方は銃とか持ってなさそうだし確実に死ぬな。うん。)」


一応、近くにいる野生動物の把握のため少し角度を変えて何かに襲われてる人の近くを観察するとそんな変な生き物が襲われるのが分かった。


「(いや、ちょっと待て!!なんで地球にあんな生き物が生息してるんだよ。UMAか?UMA。くっ、UMAの肉の味はちょっと気になる。痛いコスプレヤーを襲う別のコスプレヤーかも知れないけど明らかに骨格から違うしUMAだよきっと。お肉美味しいのかなぁー?)」


冷静に考えてみるとあのUMAがどれだけの脅威かわからないし、何より味がわからない。

狼の肉なら食べた事あるが筋肉質で不味かった。でも、あのUMAは明らかに油が乗っている。もしかしたら美味しいお肉って可能性もある。ここは適当に罠作って狩ってみるに限る。



好奇心は猫を殺すとはよく言ったものである。僕はこの好奇心に駆られて余計な事をしてしまった。それ故に一生続くであろう後悔を背負うこととなったのである。

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