6話 「敗北」





「ソフィこの後時間あるかい?

せっかくだからお茶でもしようじゃないか」


「パトロールが終われば空いているわ」


「わかったよ、藤堂君もぜひ一緒にどうだい?」


「でもお邪魔じゃないですか?」


「ソフィの普段の様子を聞きたいんだ

もちろん迷惑であれば仕方ないが…」


「いえ!そういう事ならご一緒させていただきます」


パトロールもほどほどに済ませ、俺達はケンちゃんの店に集まりお茶をすることになった。

俺がトイレから出て席に戻ろうとした際、ケンちゃんに呼び止められた。


「ねぇ幸ちゃん、あのナイスガイな2人は誰なの?

タイプだわぁ、特にあの黒髪の…」


「ソフィの兄貴とその友人で医者のティコさんっていったかな」


「ティコってあのティコ・アンブロワーズ?」


「あぁ、確かそんな名だったよ、知ってるのか?」


「知ってるも何も若き天才と呼ばれている、世界でも5本の指に入る名医よ!」


「そんなにすごい人だったのか」


「いいわねぇ、なんとかお近づきになれないかしら…

ねぇ幸ちゃん?あれ?」


俺はケンちゃんの言葉を無視して席に戻る。


「もう兄さんったら…」


「はははは」「ハハハ」


兄と話すソフィの顔はとても楽しそうで、新たな一面を知れた事に少しだけ優越感のようなものを感じていた。


「でも兄さんもティコさんもこの国に来て、クリスは大丈夫なの?」


「あぁ、クリス君の容態は最近はとても落ち着いているよ」ティコが答える。


「ソフィ、藤堂君にはクリスの事は話しているのかい?」


「えぇ一応…」


「僕たちの弟は病気を患って入院していてね、その主治医がこのティコなんだ

写真見るかい?とても可愛い弟で今年で16歳なんだ」


そう言いながら弟さんの写真を見せてくれた。

病気で寝たきりだとソフィから以前聞いていたが、そのせいなのか歳の割には幼い印象だった。


「ホントだ、お2人に似てとても可愛いですね」


「おいソフィ!藤堂君は今、遠回しに君を可愛いと言ったぞ!よかったじゃないか!」


「だから兄さんっ!余計な詮索しないでって言ってるでしょう!この人とはただの同級生でちょっとした縁があるだけなの!」


「へぇ…その縁とはなんだい?」


「それは、言えないわ…」


「まさかソフィがこの僕に隠し事をするだなんて

藤堂君、君は一体どんな魔法を使ったんだい?」


「本当にただのクラスメイトなんですよ」


「そうよ、それ以上でも以下でもないわ!」


「ではソフィは藤堂君が嫌いなのかな?」


「き、嫌いじゃないわ…」

恥じらいながら言うソフィに幸近は胸の高鳴りを感じた。


「もういいじゃないかハインツ、それ以上やると藤堂くんも困ってしまうよ

それにソフィが恥じらいの余り心臓発作を起こしそうだ」


「悪かったよソフィ、久しぶりに会った君が友人と一緒にいるのを見てつい嬉しくなってしまっただけなんだ」


「兄さんなんてもう知らないわ」


「怒らせてしまったかな…

まぁ僕たちはあと1週間ほどは滞在する事になるだろうから、いつでも連絡するといい」


そして俺たちが店を出た時、ハインツさんに2人には聞こえない声量で声をかけられた。


「藤堂君、ソフィのこと…よろしく頼むよ」


「はい!もちろんです!」


「うん、いい返事だ!君のこと気に入ったよ!

一応連絡先を交換しておこうじゃないか」


こうして2人と別れ、一旦学校に戻っていると。


「あの時兄さんと何を話していたの?」


「連絡先を交換しただけだよ」


「なんであなたが兄さんと…

変なこと言ったらただじゃ済まさないわ」


「言わねぇよ、信用ねぇなぁ」


「あなたはいつも私に隠し事をするじゃない

信用して欲しかったら日頃の行いを改めなさい」




学校でパトロールの報告を済ませると、すっかり辺りは暗くなり俺は今日の晩飯はなんだろうかと考えながら帰路についていると雨に降られてしまった。

小走りで帰っていると後ろから呼び止められた。




「貴様が藤堂幸近か?」


幸近が振り返ると、そこには薄い茶髪にオールバックで髭を生やした50代くらいの男がいた。


「そうだけど何か用っすか?急いでるんですけど」


「貴様に恨みはないが、こちらも仕事でな…」


そう言って殺気を一切出さず幸近にゆっくりと近づき

見えない速さの拳を浴びせる。

が、間一髪で避ける幸近。


(今のはまずい、もし当たっていたら…)


「ほぅ、これを避けるのか…

レッドの馬鹿を倒したというのは本当らしい」


「お前がジャッカルか…」


「そう呼ばれているな、残念だが私の姿を見たという事は貴様の命はこれまでだ」


「そう言われて、はいそうですかと受け入れてたまるか」


「思い通りにいかないのが人生だ」


そう言ってジャッカルは踏み込んで裏拳を浴びせる。

それを屈んで避け、幸近も反撃に出る。


「藤堂一刀流居合無刀『虚』」


幸近の放った剛の手刀はジャッカルの体に届いたが、ジャッカルはその場から一切動かない。

逆に幸近が蹲り、手刀をもう一方の手で押さえ呻く。


「うぁあああ…

てめぇ、その服の下に鉄板でも仕込んでんのか…」


幸近の問いには答えず最小限の動作から蹴りを繰り出す。

その蹴りが幸近の腹部に当たり、先程の動作からは考えられない威力で吹き飛ばされる。


「がはっっ!」

(あの軽い蹴りでこの威力かよ…)


なんとか立ち上がり、無刀の型を構える。

その姿をみたジャッカルは尚もゆっくりと進む。


「藤堂一刀流居合無刀『空』」


幸近は柔の手刀でジャッカルの腕を掴む事に成功したが、掴んだ腕はピクリとも動かなかった。


「何っ!」


掴まれた手を振り払うことも一連の流れかのような美しい動作からジャッカルは拳を放った。


「豪拳(ごうけん)」


幸近の頬にその拳が当たると、ずっと先にあったはずの廃屋まで吹き飛ばされ、その意識は朦朧としていた。


(早く逃げないと…本当に死ぬ…)




「大丈夫か、少年」


「た、隊長…なんでここに…

逃げてください、ジャッカルが…」


その時どこからか現れ声をかけてきた赤髪の女性に返事をしたところで、幸近は気を失った。

そしてジャッカルがその場まで歩いてくると彼女の存在に気付く。


「貴様は…マライア・フィラデルフィアか」


「あぁ、まさかこんな所でお前に会えるとは思っていなかったよジャッカル」


「貴様の能力はよく理解している

天候も含め、今闘うのは得策とは言えんな」


「おや、お前の正体を見た私を生かしておいて良いのか?」


「仕事は確実にこなす、日を改めるだけに過ぎない」


「そうか、では一応私も仕事をしなくてはな」


そう言うと大きな氷柱が無数に彼女の後ろに現れ、

それが一斉にジャッカルに向けて飛ばされた。

次々と放たれる大きな氷柱が地面にぶつかり続けることで辺りは水蒸気に包まれ、その霧がなくなる頃にはジャッカルの姿は消えていた。


「逃げられたか…」



幸近が病院で目を覚ますと、その病室にはラビットテイルの面々や弟妹達の姿があった。


「あれ?隊長が2人?」


「藤堂、紹介する

私の姉でグレイシスト7の…」


「マライア・フィラデルフィアだ

妹が学校で世話になっているようだな」


「いえ、お世話になっているのはこちらの方です

では俺を助けてくれたのはあなたなんですね…

ありがとうございます、死ぬかと思いました」


「君はあのジャッカルに狙われ生還した唯一の人間だ

少し話を聞かせてもらっても良いだろうか?」




そして対ジャッカルに向けて事情聴取が始まるのだった。





第2部 6話 「敗北」 完





登場人物紹介




名前:クリストフ・ヨハネス

髪型:金髪ミディアム

瞳の色:赤

身長:154cm

体重:46kg

誕生日:6月21日

年齢:15歳

血液型:O型

好きな食べ物:ホットケーキ

嫌いな食べ物:にんじん、ピーマン

ラグラス:夢統制(ドリームコントロール)

寝ている間に好きな夢を見る事ができる

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