3話 「ラビットテイル」



翌日、皆で集まり持ち寄った案を出し合った。

だが、これという案が出ず残すはセリーヌ隊長の案だけとなり発表される。



「私の考えてきた案は『ラビットテイル』だ」



「直訳すると『ウサギの尻尾』ですよね?どういう意味なのですか?」ソフィが尋ねる。



「私の故郷に伝わる昔話の題なのだが、あるところにウサギと狼がいた

2匹はとても仲が良く、ある日協力してバターを作ろうという話になった

出来たバターをすぐに食べるのはもったいないから

冬の保存食とする為に森の木の下に埋め、この森には冬が来るまで近づかないようにしようと約束をするのだが、ウサギはその約束を破って1人で全部食べてしまうんだ


結局それが狼にバレてしまい、

ウサギは怒られて慌ててその場を逃げ出す

その時に人間の仕掛けた罠に引っ掛かり、

自力では抜け出せなくなってしまった


ウサギは狼に助けを求めるが、騙された狼はいい気がしない

だが狼はもう2度としないと誓うウサギの言葉を信じて助けてやるんだ

その罠に引っかかった際にウサギの尻尾は千切れ、それ以降ウサギの尻尾は短くなってしまった…という話なんだ」


「この話は嘘をつかれたのにそれを許し助ける狼の優しさと、嘘をつき罪を犯したウサギの業が私達の目指すものに近しいと感じるんだ」


「罪を犯した者はそれを償わなければならない

だがその罪を許し、もう一度立ち上がることを応援する者が傍に居てやる事が大切なのではないか…とな」


「そしてこのラビットテイルは植物の名にもなっている

その植物の属名が『ラグラス』で、その花言葉は『感謝』だ

私たちにピッタリではないかと思ってな」



「………」俺たちは隊長の説明に聞き入ってしまっていた。



「なんだかわたし達の案が幼稚に感じるほど筋が通っているわね」クリスタが悔しがる。


「それにすっごくかわいいよぉ」サーシャも乗り気だ。


「こんな名を思いつくとは流石は隊長殿だな!」


「俺もその案に賛成だ!」



こうして俺達学内選抜隊の名称は

『ラビットテイル』に決定したのだった。


それを校長に報告に行くと、

「ほう、なるほど君たちらしい良い名だ…」

と公認してくれ、翌日より活動が開始する事となった。


当面の間の活動は放課後、交代で2名ずつ選抜し近隣のパトロールに出ることだった。


そんな日々を続けていたある日、俺とクリスタがパトロールの当番になった。

本来なら本日のお相手は山形だったのだが、なんでもクリスタは明日都合が悪いらしく交代して貰ったのだそうだ。



「今日も平和だなぁ…」


「ちょっとあんた!そんな気を抜いていたら凶悪犯を取り逃すかもしれないじゃない、真面目にやりなさいよ」


クリスタがそう言った瞬間、近くから叫び声が聞こえた。


「ひったくりよー!誰か助けてー!」


声のする方を見ると女性が倒れながら助けを求めていた。

するとその女性が持っていたであろう鞄だけが宙に浮きながらこちらの方へ向かって来た。


「クリスタ気をつけろ!おそらく透明化のラグラスだ!」


「分かってるわ!」


クリスタはその鞄の進路を塞ぎこう叫ぶ。


「異能警察よ!止まりなさい!」


その警告も虚しくその犯人の見えない攻撃により、

クリスタは突き飛ばされてしまう。

その突き飛ばされた方向が良くなく、クリスタは道路の溝のドブに落ちてしまった。


「くそ!止まれ!」


幸近の声にも耳を貸さず逃走を続ける犯人に向けて

姿は見えないが、鞄を持つその手の位置だけは分かった為

強硬手段に出る。


「藤堂一刀流居合無刀『虚』!」


幸近に倒された犯人の透明化は解け、一件落着かと思われたが、クリスタの悲鳴が轟く。


「イヤァァアーーー!!」


なんとその犯人の男の透明化は自身の服までは効力が及ばないらしく、全裸だったのだ。

うつ伏せに倒されながらもがく全裸の男の霰もない姿がクリスタの位置から丸見えだった。


クリスタはその犯人が連行されてからも、しばらくその場で縮こまり泣いていた。


「クリスタ、俺も悪かったよ…

そろそろ機嫌なおしてくれよ…」


「あんたよくそんな事言えるわね…

あんなもの見せられて、汚されて…わたしもう生きていけない!」


「そんな大袈裟な…」


「大袈裟じゃないわよ!

せっかく今日は誕生日だったのに…

この後ご飯とか行くの楽しみにしてたのに…」


「お前今日誕生日だったのか?」


「そうよ…でももうどこにも行けない…」


考えるよりも先に口が動いていた。


「クリスタ付き合ってくれ!」


「え?ちょ、ちょっとあんた、そういうのは順序とかタイミングとか、あ、あるでしょ…」

顔を赤らめ動揺するクリスタ。


「あ、いや悪い、言い方が悪かった…

この後ついて来てほしい場所がある」


辺りはすっかり暗くなり星も見えるようになってきた頃、

俺は泥だらけのクリスタを連れて歩いていた。


「ちょっとどこに連れて行くつもりよ」


「いいから、もう少しなんだ」


人気のない薄暗い丘を登って行くと、少し開けた場所にでる。


「着いたぞ」


「こんなとこ連れてきて何をしようって……」


クリスタは吐き出した言葉を詰まらせた。

そこはこの街を一望できる展望台で、キラキラと光る街の灯りと星の瞬く夜空が悠然と広がっていた。


「綺麗…」クリスタは幼少の頃を思い出しながらそう呟いた。


「どうだすごいだろ?これが俺の魔法だ」


「この街にこんな場所があったのね…」


「急だったからプレゼントは用意できないが、この魔法の景色を贈りたいと思ったんだ

来年はきっとそれなりの物を用意するよ」


「ねぇ、あんたの誕生日はいつなの?」


「1月10日だ」


「じゃあその頃には雪が降って、きっともっと綺麗に見えるわね…」


「冬にはあまり来た事はないがそうだろうな」


「決めたわ」


「どうしたんだ?」


「この景色を私たちのバターにするの!」


「この前の隊長の昔話か?」


「そうよ、あんたの誕生日きっとまたここに来ましょう

それまでこの魔法はわたしの中で大切にしまっておくわ」


「約束を破ってもお前は助けてはくれなそうだな」


「当たり前よ、もし約束破ったら尻尾だけじゃ済まさないから」


「クリスタ、誕生日おめでとう」


クリスタは泣いていた先ほどまでの表情とは異なり、

今まで見た事のない笑みを浮かべこう返した。



「ありがとう、幸近」




第2部 3話 「ラビットテイル」 完



登場人物紹介



名前:マルコ・ベル

髪型:黒のミディアム

瞳の色:黒

身長:178cm

体重:72kg

誕生日:8月4日

年齢:19歳

血液型:B型

好きな食べ物:グラタン、ハム

嫌いな食べ物:ミミガー、馬肉

ラグラス:以心伝心(テレパシー)

特定の相手と心の通話でやり取りが出来る

同時通話は10名ほどが限界

会話する条件は対象の顔と名前を知っていること

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