第20話 入学編最終話 「幸せの代償」



あの壮絶な戦いから1週間が経過した。


朝7時、いつもと同じく妹に起こされた。


「幸近兄さん、朝だよ?起きないと学校遅刻するよ」


いつものやかましい声とは打って変わって、静かに優しく起こしてくれる妹の姿がそこにはあった。


「おはようテン…あと5分だけ…」


「ちゃんと起こさないと私が夏鈴に怒られちゃうんだから!ねぇ起きて幸近兄さん!」


なんとか目覚めて1階に降りると、けたたましく走り回る2人の子供の姿があった。


「あ!幸兄起きたんだ!キャッチボールしよーぜ!」


「違うのですタケマル!幸兄様はわたしとお絵描きするのです〜」


「2人ともおはよう、俺は学校だからどっちも出来んぞ」


「えー!幸兄のケチ!」


「タケマル!わがままはダメなのです!」



「お前らも来週から学校なんだから、準備しっかりしとけよ?勉強ついていけなくなるぞ」


「「はーい」」


何故この3人が俺の家にいるのかと言うと、

俺の家は道場があるくらいなので、そこそこ広いのだ。


そこにほぼ夏鈴と2人暮らしな訳で、生活費も親父が毎月かなりの額を振り込んでくれている。


子供3人くらいなら養える余裕があったから、

俺はこの子たちを引き取ることにしたのだ。


そんなこんなで俺たちはいきなり5人兄弟となる運びになった。


もちろん夏鈴も快諾してくれて、家族が増えたことを喜んでくれていた。


「あ!お兄ちゃんおはよ!ご飯先食べてて!」


「いただきまーす」


俺は子供達にうちで生活する為の条件として学校に行くことを提示した。


最初は少し嫌そうにしていたが、みんなが離れ離れになるくらいなら頑張ると言ってくれた。


テンは夏鈴と同級生の中学3年生、そしてタケマルは中学1年生、たまもは小学5年生として来週から学校へ通う。


戸籍上は兄弟ということにはなっていないが、学校など様々な手続きに関してはケンちゃんが協力してくれた。


そしてコイツらの苗字は未だに金土なのである。

あの決戦の後カレルは死体としてサナと共に発見された。何者かに殺害され進化薬は奪われていたという事だった。

この子達に残酷な真実を伝えることは出来ず、カレルがこの子達にした事は伏せてある。

テンだけは薄々気付いている様子だったのだが…。


そして俺がラグラスを使用して、この子達に求めた代償(労働)は

『自由にそして精一杯自分の人生を歩むこと』だった。

『真の平等(エガリテ)』とはよく言ったもので、

救われるべき人間には、等しく救いの手が差し伸べられるべきなのだ。

なかなか粋な事をする能力だと、我ながら感心していた。



「あ、幸近兄さんまた卵焼き残してる

夏鈴に怒られるわよ」


「テン…お願い!」幸近はテンに手を合わせる。


「もう本当にしょうがない兄さんなんだから…」


そう言ってテンは俺の卵焼きを食べてくれた。


「なぁテン、ここに来て幸せか?」


「何よいきなり…

私はタケマルとたまもとずっと一緒にいられればそれだけで幸せ…

そして夏鈴も私のことを姉妹だと言ってくれる

今まで家族に恵まれなかったけど、本当の家族ってこんな感じかなって思えるようになってきたと思う…」


「そうか、それなら良かった!」


「それに…頼りになる兄さんもいるし…」

顔を赤らめて小声で言う。


「あ!やば!遅刻する」


「え!ちょっと兄さんっ!」


「ごめんテン!後片付けよろしく!じゃあ行ってきまーす!」


「もう!兄さんったら…」そう呟いた後テンは笑った。





「おはようソフィ!」


「おはよう、なんだか上機嫌ね

また新しい女でも見つけたのかしら」


「なんだよその言い方、でもあながち間違ってなくて、かわいい妹に毎朝起こされて俺の1日は朝から活力に満ちているんだ!」


「やっぱりあなたとは距離を置こうかしら…」




「あ!あんた今日日直でしょ!

何呑気に遅刻ギリギリに登校してくれちゃってんの!

先生に怒られるのわたしなんだからね!」


「なぁクリスタ、せっかくのいい気分が

お前のキンキン声で台無しだよまったく…」


「はぁ?あんたいい加減にしなさいよ?

そんなんだからあんたはいつまでたっても…」





「お!幸近!今日はいい天気だな!

こんな日は昼休み一緒に稽古などいかがだろう?」


「いいぜ!実は試したい新技があったんだよ!」


「なに!それは興味深いな!」





「藤堂くん、昨日のアニメみた?

ヒロインの変身シーンがすっごく可愛いかったんだよぉ」


「昨日は子供たちの世話で忙しくて見れてないな」


「じゃああたし録画してあるから今日あたしの家きなよー?

作画がねー?もうホントに神なの!」





「やぁ幸近!今日の実技演習、僕と組まないかい?」


「よぉキリア、今日こそは負けないぜ」


「今日は最大威力で行かせてもらうね?」


「あぁ、臨むところだ!」




5月の初めのこと、こうして俺の日常は一旦は平穏を取り戻した。

だが、俺の学生生活はこれからもまだまだ続いていくんだ。





―デニグレ本部―



「若、進化薬の実験、つつがなく進行しております」


「そうか…なるべく早く複製出来るように頼むよ」


「かしこまりました」


「藤堂くん、君とまた会える日を楽しみにしているよ」



薄暗い部屋でスーツの男は不気味な笑みを浮かべた。




第1部入学編 最終話 「幸せの代償」 完





進化の後遺症 第1部を最後までご愛読下さりありがとうございます。

只今第2部を執筆中となっておりますので、また引き続き読んで下さると大変嬉しく思います。

またご意見やご感想などありましたら遠慮なく書いていだければ作者の励みになります。

どんなご意見でも真摯に受け止めます。

これからも皆様に面白いと思っていただける作品作りに注力していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。



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