第18話「進化薬」





幸近が扉を開けるとそこにカレルの姿はなかった。


(どこだ?能力を使っているのか…)


カレルの能力を知る幸近は細心の注意をはらっていた。

すると首元に違和感があり、すぐにその場を離れた。


「すごい反応速度だね、まさか避けられるとは」

そう言って姿を見せたカレルの手には注射器が握られていた。



「俺は注射が大の苦手でね

その感触はたとえあんたの姿が見えてなかろうが

関係なく体が拒否反応を示すんだよ」



「僕の能力は僕が話しかけたり、その人に触ると解けてしまうから、一撃入魂であり一撃必殺じゃないと駄目なんだけどなぁ…」



「お前の目的はなんだ?子供たちに何をした!」



「では少し話しをしようか

君は大事な人を亡くした経験はあるかい?」



「母を亡くした」



「それはさぞ悲しかっただろうね…

実は僕には本当の娘がいてね、

だが娘は不治の病にかかってしまった」


そう言いいながらカレルはペンダントに入った自分の娘の写真を見せる。

それはとても愛らしい少女の姿であった。


「でも僕は諦めきれなくてね

娘を埋葬せず、冷凍保存して何か方法はないか模索したんだよ


そして僕は始まりの少女の能力に目をつけたんだ


彼女はどうやって人を治療していたのか?


それを研究することで1つの答えが生まれた


彼女は人を治療していたのではなく、人を進化させていたのだよ


傷や病が治るのはその副産物でしかなかったのだ


だから僕は墓を掘り起こして、始まりの少女に直接進化を与えられた人間達のDNAを調べ、そのメカニズムを知る事ができた


そしてそれを薬品として形作るのに必要だったのが、強力な先天異能力者のDNAだったのだよ


あの子達は本当に僕の役に立ってくれたよ


僕が父親のように見えていたおかげで僕の言うことならなんだって聞いてくれるし、どんな薬品を投与する事にもなんの疑問も抱かないんだ


そしてこれがその『進化薬』さ


これを娘に投与して進化させ生き返らせる


やっと僕の悲願が成就する時が来たんだよ」


そう言ってカレルは何かのスイッチを押した。



「子供達が暴走した原因はなんだ?」



「あの子達はもう用済みだからね

僕の研究過程で発見した進化薬の失敗作を投与した…

ラグラスを一時的に凶暴化させ、

死ぬまで暴走を続けるようになる薬品さ

少しでも時間稼ぎになると思ってね」


「その薬品の抗体はないのか?」


「ないね、投与されたものは皆少ない時間だが超人的な力を手にして、その後等しく死んだよ」


「一緒に学校で遊んでいる時楽しそうだったのも演技だったって言うのか?」


「あれはあの子達のラグラスを最大限引き出すための訓練のようなもので、それ以上でもそれ以下でもないよ」


「もう分かった、お前に同情の余地はない…」


「君の同情など1ミリも求めていないさ」


「俺がお前を刑務所へ送り込む!」


「やってみるといい、僕は仕上げに入るとするよ」


そう言うとカレルは幸近から姿を眩まし、奥の部屋へと進む。

ひとりでに扉が開いた為、幸近は能力を使われた事を理解し後を追いかける。



するとそこには何もない空間が広がっており、その中心にある1つの大きなカプセルが一際存在感を放っていた。

するとそのカプセルがガタガタと動き出しそれを突き破って人型の、だが人ではない何かが現れたのだった。


その人ではない何かは大きくうめき声を上げた。


「幸近君!見たまえ!

僕は今まで誰も成し遂げた事のない死者の蘇生に

成功したのだよ!」


カレルが喜びのあまり幸近に話しかけ姿を見せる。


「それは…お前の娘なのか…?」


「なんだい?この子の見た目の事を不思議に思っているのかい?

あの子達と同じように、人は見た目ではないだろう幸近君!」


「そうだ、人は見た目じゃない“心"だ!その子に心はあるのか!」


「そんなものは大して重要ではない

人が別次元の存在に進化することに比べればね」


カレルの娘だった何かは幸近へと襲いかかる。

幸近は刀を取り出し、居合の構えをとる。


「藤堂一刀流居合『虎風』」


峰打ちでの居合切りに対し、苦しむ様子すらなくすぐに振り返り腕を振り回して幸近を吹き飛ばした。


「ぐはっ…」


(峰打ちじゃダメージは与えられないか…)


「いいぞサナ!素晴らしい攻撃力だ!」


カレルはそれを『サナ』と呼んだ。

そしてサナは倒れた幸近の首を掴み持ち上げた。


(ぐっ…なんて力だ…)


「そうだ!そのまま首をへし折ってしまえ!」


その時天井が崩れ、空から翼を生やしたサーシャが降りてきて、サナに飛び蹴りを放った。


「とおりゃー!!」


サナは倒れ幸近は解放された。


「サーシャ、助かった」


「藤堂くん、あれがおじさんの娘なの?」


「あぁ、そうらしい…」


「あの子は生き物じゃないよ」


「どういう事だ?」


「あたしの能力は生き物かそうでないかが本能的に分かるんだ、あれは色んなラグラスが合わさって暴走しているだけの意志を持たない存在…すごく苦しんでる…」


「何を言うんだ君は!

自分の意志で動いているのは生きている証明だろう!」


「違うよおじさん、これはラグラスの暴走で体が勝手に動いてしまっているだけ、ただの反射だよ」


「貴様に何が分かる!サナこいつらを殺せぇ!」

カレルが取り乱し叫ぶ。


「藤堂くん、はやくあの子を楽にさせてあげよう?」


「分かった、サーシャ協力してくれ!」


「もちろん!」



第1部 18話 「進化薬」 完



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る