第17話「俺はあんたを許さない」





向かって右のドーム担当のソフィは入口を能力で破壊し、中に入る事に成功した。


そこには壁に向かって突撃を続けるたまもの姿があった。


彼女もまた正気を失っており、いつもの姿からは似ても似つかない様子だった。


「何て酷いことを…」

そう呟くとソフィはたまもに向かい声をかける。


「すぐに助けてあげるから…もう少し待っててね」


たまもはその声を聞き唸り声をあげてソフィに向かってきた。

その際たまもの姿は大きな狐の姿に変わり、途中で数を増やし10体以上の群れとなり襲いかかってきたのだ。


ソフィは『重力強化(グラビティアッシュ)』(重力を強化して敵の動きを止める技)で無力化をはかるが、たまものスピードが上回り頭突きを正面から食らってしまう。


「ぐっ…」


腕でカードした為なんとか倒れず持ち堪えることが出来たがすぐに追撃が来る。

咄嗟に自身にかかる重力を軽減し、跳び上がることで空中へ避けた。


だがその判断は正しくなかった。

身動きが取れない空中で、ソフィに次の攻撃を避ける術はなく体当たりを受け飛ばされた。


倒れ込んだソフィはすぐに起き上がる事は出来ず転がったまま、再度『重力強化』を発動させた。

今度は動きを止める事に成功し、分身体が消えていった。


「うぅぅうああああ」


たまもはそう叫ぶと自力で効果範囲から抜け出し、もう一度数を増やしソフィを取り囲むように円状に広がった。


すると狐たちは口を開き、口から炎を一斉に吐き出した。

その攻撃で熱と煙を吸い込み気管をやられながらも打開策を考えたソフィは一箇所に向けて攻撃を放つ。


「重力崩壊(グラビティコア)!」

(重力を圧縮したエネルギー弾を放つ技)


狐の分身を破壊してできた逃げ道に向かって走る。

円から出る事に成功すると今度はさっきよりも高威力で広範囲の『重力強化』を放つ。


「ぎぃぁああ」たまもが苦しむ声をあげ分身が消える。


ソフィはそこに追撃の『重力崩壊』を放つと、

うめき声をあげながら変身が解けたたまもが横たわった。


「ごめんね、痛かったわよね…」


そう呟いたソフィが近づくと、たまもは四つん這いになって起き上がり動物のように威嚇する。


(もうこれ以上傷つけたくないのに…)


またも分身して襲いかかるたまもに対し蹴りで対応したが、それは分身体で手応えはなく背後からきた狐の姿の本体に肩を噛みつかれてしまった。


「痛っ」


食いちぎる勢いで強く噛み付かれたが、ソフィは両手で上顎と下顎を掴みなんとか引き剥がす事に成功した。


「はぁはぁ…」


体力の限界も近く息が荒くなるソフィに追い討ちの体当たりをぶつけるたまも。

それを受けてソフィは倒れ、起き上がれずにいた。


最期の一撃と言わんばかりに5メートルはあろうかと思われる大きさの狐へと変身をしたたまもは、その前足を振り下ろしてソフィを踏み潰そうとしたのだった。


ソフィは最後の力を振り絞り、腕を前に向け最大威力で攻撃を放つ。


「重力崩壊(グラビティコア)!!」


そのエネルギーが凝縮された球体の攻撃がたまもに当たると、そのまま建物の壁ごと破壊し、たまもは外へと押し出され変身は解け気を失った。


外に出てたまもを抱きしめながら無事を確認して皆に報告する。


「こちらソフィ、たまもを確保したわ」






ソフィがたまもと戦闘中の頃、

サーシャもドームにたどり着いた。


覚悟はしていたが優しいサーシャは、テンの荒れ狂う姿を見て涙を流してしまった。


サーシャはこの3人の子供たちが、どこか自分と似た境遇という事で他人とは思えない気持ちで今まで接してきたのだ。


その分感じる怒りは人一倍大きかった。


サーシャは吸血鬼の姿となり、覚悟を決める。


「ブラッドバット!」(血でできた蝙蝠で攻撃する技)


サーシャが攻撃を放つがあの時と同じでテンはそれを食って無効化する。


するとテンは強化した足腰で一瞬で距離を詰め、サーシャを殴り飛ばした。

地面に叩きつけられたサーシャに追い討ちを仕掛けるテンだったがサーシャも防御技で対抗する。


「ブラッドシールド!」(血で作られた盾)


それでもテンは攻撃を続け、血の盾にヒビが入りだした所でサーシャは血で翼を作り空へと飛んで逃れた。


そして空中から地上のテンに向けて勢いよく近づき、

強化した拳でテンを殴り飛ばす。


数十メートル飛ばされたテンだったが、倒れる事なく踏みとどまりすぐにサーシャの元へ走りだし、腕を巨大化させ殴り返した。


「ぶはっ」


その凄まじい威力にサーシャは壁に叩きつけられ、大量の血を吐き出す。

尚も向かってくるテンにサーシャは自身の影を伸ばしテンの足を掴み動きを止めた。


「ブラッドハンマー!」(血で作られた大きなハンマー)


大きなハンマーがテンの頭上に打ち落とされ、テンは膝をつきしばし動きが止まる。

だがすぐにサーシャの方を睨みつけて叫びを上げる。


サーシャはすかさず血で作られた鎧を腕に纏いパンチを繰り出す。

それを受けたテンは吹き飛ばされ苦しみながら悶えた。


「うぅああ…」


また涙を流しそうになり目を瞑った一瞬の隙にテンはサーシャに飛び蹴りを放つ。


その後はテンにマウントをとられる状態となり、集中攻撃をサーシャは敢えて受け続けた。


殴り続けるテンであったがその目からは涙が溢れていた。


「テンちゃん…」


テンが殴る。


「辛いよね…」


また殴る。


「苦しいよね…」


殴る、殴る。


「今助けてあげるからね…」


そう言って影を伸ばしテンを影が包みこみテンは身動きが取れなくなる。


そしてサーシャはテンの首元に噛み付いた。


血を吸うのではなく、吸血鬼の血を送り込み一時的にショックを与え気を失わせ、さらに吸血鬼の血の作用で目に見える傷を治療したのだった。



「こちらサーシャ、テンちゃん確保したよ!」




そして2人が闘っている時を同じくして幸近とケンちゃんは最上階へ辿り着いていた。


「ここからは別行動ね、あたしは管制室に向かうから幸ちゃんもくれぐれも気をつけるのよ!」


「分かってる、ありがとうケンちゃん」





研究室の扉を開ける前に幸近は1人こう呟いた。


「カレル!!俺はあんたを許さない」





第1部 17話 「俺はあんたを許さない」 完




技名紹介サーシャ編



サーシャは血や影を操り様々な物を作ることが出来る。

持ち前のアニメの知識を参考に技を考えている。


『ブラッドバット』

血で作られた無数の蝙蝠を相手に向けて飛ばす技。

相手と距離を取りたい時や牽制技として使用している。


『ブラッドシールド』

血で作られた盾

強度は防弾ガラス以上を誇り、銃弾をも防ぐ事が可能。


『ブラッドハンマー』

血で作られた10メートルほどの大きなハンマー

サーシャのお気に入りアニメである「魔女っ子シーちゃん」に登場する主人公シーちゃんの必殺技「シーちゃんハンマー」から抜粋。



『影縛り』

影を自在に操り相手の動きを止める技

離れている敵も無効化することができ、汎用性が高い。



『吸血鬼の血』

目に見える軽度の外傷を、自身の血を分けることで癒すことが出来る。

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