進化の後遺症 ~異能警察学校編~

野谷 海

第1部入学編

第1話 「入学」

第1部 0話 「始まりの少女」


世界に変化が起きたのは、現在から100年ほど前のこと。


ある1人の少女が、奇跡の力を持って生まれたのが始まりとされている。


その少女は人の傷や病気を触れただけで、たちどころに治してしまうというのだ。


その話を聞きつけた者は皆こぞって少女の元へ訪れ、自分や家族、恋人を治してほしいと懇願した。


それに対して特に対価を求めなかった少女が『聖女』と崇められるようになるまで、それほど時間はかからなかった。


彼女に治療された人間は健康そのものだったが、徐々に変化が見られるようになった。


ある者は腕力が超人的に向上し、またある者は空を飛べるようになるなど、常軌を逸した能力が発現するようになる。

人々はこの異能力を総称して『ラグラス』と呼んだ。


『ラグラス』を手に入れた者の中には、犯罪に手を染める者が増加し、能力者が子を作るとその子供にも生まれつき何かしらの能力が発現するケースも見られた。


世界は混乱の渦に巻かれ白羽の矢がたったのが、元凶である始まりの少女である。


今まで彼女を『聖女』と呼んでいた者たちは、今度は『悪魔』と呼び罵ったのだ。


手のひらを返した人民は、この悪魔を滅ぼさんとする組織を結成し、始まりの少女を手にかけてしまった。


大きな時代のうねりを受けて、これに対抗するため政府はある組織を設立した。


それは『ラグラス』を持つ人間が犯罪行為に手を染めた際に取り締まる警察機関『異能特殊警察』であった。



第1部 1話 「入学」



「お兄ちゃん早く起きないと入校式遅刻しちゃうよー!」


朝7時、いつもと同じく妹に起こされた。


今日は異能警察学校の入校式だ。


俺は高校を卒業後、兼ねてから希望してきた進路へと進むことができる期待感に胸を膨らませ過ぎて、今日はあまり眠れなかった。


「おはようぉ」

欠伸をしながら妹に挨拶をする。


「ご飯できてるから先に食べててー」


「あぁ、いただきます」


朝食を食べながらテレビを観ていると妹が口を開く。


「かりん今日部活で遅くなるから、夕飯適当に済ませちゃって」


「分かった」


「かりんの手作りご飯が食べられなくて残念だねお兄ちゃん」


「あぁ、とても残念だから今日は仕方なく兼ねてから気になっていた駅前のラーメン屋にでもいってくるよ」


「えぇー、ずるい!かりんも連れてけ!」


「また今度な」


「もうご飯作ってあげないからねー!」


「じゃあそろそろいくよ、ご馳走様」


「いってらっしゃい、気を付けてねー」


まだ少し眠いが、外は快晴で良い入校式日和だ。

通学路にはところどころに桜も咲いていて、とても清々しい気持ちだ。


今日から通う学校が見えてくる位置には桜並木が広がっていて、そこには綺麗な長い金色の髪をした少女が俯きながら歩いている後ろ姿があった。


桜とその少女のコントラストに目を奪われていると、その少女は真っ直ぐ桜の木に向かっていき、声を掛けようとしたのも束の間、木に額を"ゴチンッ"とぶつけてしまった。


少女はその衝撃で尻餅をついてしまったため、慌てて駆け寄って

「大丈夫ですか?」と声を掛けた。


「イタタタ…」

痛がっているが、見たところどうやら怪我はしていないようだ。


「災難でしたね」

そう言って彼女の顔を見ると、後ろ姿からの期待を裏切るどころか、それを越えてくる紛いもない美少女だった。


「すみません、ボーッとしてて…もう大丈夫です」


「では気をつけて」


「ありがとうございました」


俺は入校式前早々の美少女との出会いに今日はとてもいい日になると確信し、意気揚々と歩を進めた。


入校式の会場に入ると、間もなく式が始まり校長が挨拶を始めた。

「入校生の諸君、入校おめでとう

私は学校長のエマ・サリヴァンだ

この学校で学ぶ2年間が君達の異能警察になる未来への礎となることを期待している

君たちが異能特殊警察になろうと決意した動機は様々あると思うが存分に能力向上に励んでくれ」


そう言って挨拶を終えると、入校生代表挨拶に移る。


「では入校生代表、ソフィ・ヨハネス前へ」


「はい」


そう言って立ち上がったのは先ほど頭をぶつけていた金髪美少女だった。


周りがざわつく。

「あの子超かわいくない?」

「オレ超タイプだわ」

「あれで学年主席だなんてスペック高すぎでしょ」


司会の先生が「静粛に」と言うまでしばらく入校生たちはざわついていた。


皆の反応に賛同して思わず「うん、うん」と頷いてしまっていた。





入校式が無事終わり、クラスに集まって担任の先生の挨拶が始まった。


「私が君たちの担任の村上 智(むらかみ さとし)だ、

警察内での階級は警部に当たる」


「ちなみに私は無能力者だが、この中の殆どがラグラスを持つ能力者だと思う」


「皆も知っていると思うが、ラグラスと呼ばれるものには生まれつきのものと、その人間の成長過程で心の根底に抱えている感情が起因し、後天的に授かるものの2種類ある


前者と後者を見分ける方法は簡単だ

異能を使用する前から、または異能を使用した際に使用者の身体に何らかの変化が見られるのが前者、それ以外が後者だ


(これを『先天異能』と『後天異能』と呼ぶ)


そして後天異能の場合、稀に異能が発現したことの後遺症に悩まされる者が存在する


その後遺症は本人の異能と深く関係することが多い

これは治るケースと、後遺症に悩まされ続けるケースがあるため、その症状が出た者はすぐに報告をすること」



「では次は皆に自己紹介をしてもらおうか、

名前と特技、そしてラグラスの能力名を教えてくれ」


「まずはヨハネス、頼む」


美少女が自己紹介を始めた。

「私はソフィ・ヨハネスです

特技は特にありません、

ラグラスは重力操作(グラビティ)といって

重力を操り相手を無力化したり、重力を圧縮したエネルギー弾を放つことができます」


それを聞いた面々は、

「そんなのチートじゃん」「さすが学年主席」「羨ましい」などとクラスが湧いた。


その後もクラスメイトの自己紹介が進み俺の番がやってきた。


「はじめまして、俺は藤堂 幸近(とうどう ゆきちか)、

特技は剣術で特に居合術です、

ラグラスは無く無能力ですが、よろしくお願いします」


ヨハネスさんが偶然にも隣の席だったので、座る間際に

「今朝はどうも」と声をかけると、目は合わなかったが

「こちらこそ」と返ってきた。


明日、俺の運命が大きく変わる日になるとは露知らず、

この日は呑気に駅前でラーメンを食べて帰ったのだった。



第1部 1話 「入学」 完



登場人物紹介


名前:ソフィ・ヨハネス

髪型:金髪ロングのストレートヘア

瞳の色:青

身長:162cm

体重:48kg

誕生日:11月17日

年齢:18歳

血液型:O型

好きな食べ物:ラクレット、鶏肉

嫌いな食べ物:生姜、ドライフルーツ

ラグラス:重力操作(グラビティ)

重力を操る能力

技名:重力崩壊(グラビティコア)

重力を圧縮したエネルギー弾を放出する

技名:重力強化(グラビティアッシュ)

指定した場所の重力を強めて相手を押し潰す

自分にかかる重力を低め少しの間宙に浮くことも可能












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