孤高の剣士と摩天楼~孤高ゆえに敗れた人類最高の剣士は、最高の仲間と共に再び塔の頂を目指す!~
9bumi
第1話 転生
ある世界に、武神が魔界そのものを封じ込めたとされる巨大な塔があった。
塔はその雲を突き抜けるほどの高さを持つことから摩天楼と呼ばれ、かつて魔界との戦争に関する記憶が色濃く残る人々から忌み嫌われていたことから、人が寄り付くことはなかった。
そんな摩天楼が世界に出現してから100年ほどが経った頃、初めて一人の男がその塔に足を踏み入れた。
男の名前はエペ。
齢15にして剣一つで単身摩天楼に挑んだ彼は、20年の歳月をかけ、100層あるうちの70階層まで到達するに至った。しかし――
「くそっ――ぼほぉぁ……っ」
次の階層へと移動するために倒す必要があるフロアボスを前に、男は血を吐きながら、幾多の傷を刻んだ屈強な肉体を膝から崩れ落ちさせる。
今まで常に命の危険と隣り合わせで戦いながら、男はここまでやって来た。
その中で培ってきた戦闘技術は、何人であっても劣らないと自負していた。
なのに、どうだ。
今まで培ってきたすべてが、この敵の前では何一つ通用しない。
(よもやこれほどとは……)
身の丈二メートルは裕にある
そして、金属が擦れる音を立てながら鎧が右手に持った剣を振り上げる。
(これほどの強敵に敗れるなら、本望だ)
瞳を閉じ、男はもうじき訪れる人生の終焉を覚悟した。その時だった――
――もったいない。これほどまでに武を極めていながら
まるで意識を介して直接伝えられるかのような不思議な声とともに、時が止まったような感覚を男は覚える。
(誰だ!)
口ではなく、意識に届いて来る声に答えるように、男は心の中で叫ぶ。
――我はこの塔を創造せし、武神なり
(武神……だと?)
武神――それは、100年と少し前まで異界にあるとされた魔界から進行してきた魔族との戦いに終止符を打ったとされる存在であり――
この摩天楼の創造主とされる神だ。
――武を究めんとする者に尋ねる
――階層主の部屋には本来、一度の戦いで何人までは入れるかわかるか?
(何?)
魔物との戦争の残酷な記憶を想起させる摩天楼は、人々から忌み嫌われ、男を除いて誰一人近寄ることはなかった。
だから、フロアボスの部屋に何人入れるかなど、当然男は知らない。
――本来、階層主の部屋には7人まで入ることができるのだ
(7人……)
――この意味がわかるか?
わかるはずがない。
――本来、階層主は7人で力を合わせることで、倒せることを前提にしているのだ
それを聞いて、男は自然と小さな笑みを浮かべる。
今の話が本当なら、武神が倒すのに7人は必要だと考えていた魔物を、自分は今まで一人だけで倒してきたということになる。
その事実を知れただけで、もう満足だ。
――ゆえに、我は惜しい思いをしている
(惜しい思いだと?)
――もし、お前に素晴らしい仲間がいたのなら
そんなことを考えても無駄だ。
この世界で自分以外に摩天楼に挑む者などいるはずがない。
――塔の頂の景色を見ることができただろうに
その言葉を聞いた瞬間、ないと思っていたはずの悔いが存在することに男は気づく。
(そうだ、俺は――)
摩天楼の頂に憧れていた。
ただ、そこだけを目指して今まで戦ってきた。
それが、こんなところで……
――悔しいか?
(ああ、悔しいさ)
願わくば、自らの目でこの塔の頂を見てみたかった。
だが、それはもう叶わない。
自分はもう、敗れたのだから。
(そろそろいいだろう。武神よ)
これ以上は、先ほどした覚悟が鈍ってしまう。
――本当に良いのか? こんなところで終わって
(――っ、いいわけが……ないだろ!)
――ならば、お前の武を究めんとする姿勢に免じて機会を与える
(機会?)
――お前を1000年後に転生させる
(は?)
――そして、生まれ変わった先で、相応しい仲間を見つけ、もう一度ここまで登って来るがいい
(――っ、おい――)
あまりにも常軌を逸した武神の言葉に、男はただ茫然と疑問符を浮かべることしかできない。
そして、武神の言葉の意味を理解する前に、急速に意識が虚ろになり、そのまま自然と何も考えられなくなっていって――
「――きろ、No.9」
(ん?)
「起きろ! No.9」
「――っ!?」
腹部に強烈な痛みを覚えながら、男は薄暗い牢屋ような部屋で目を覚ますのだった。
【異世界豆知識:摩天楼】
武神によって魔界が封じ込められた巨大な円柱状の塔。表面は灰色の固い金属でできており、傷一つつかない。階層は全部で100あり、各階層には実際に魔界に存在する光景が広がっている。階層を上がるためには、その階層にいるフロアボスを倒す必要がある。フロアボスの部屋に一度入ると、途中で部屋を出ることはできない仕組みになっており、ボス戦は常に倒すか倒されるか以外の決着はない。また、一度倒したフロアボスに再び挑むことはできない。
【作者より】
本作を読んでくださりありがとうございます! 作者の9bumi(くぶみ)です。この作品は第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト参加作品になります。少しでも面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、作品のフォローや☆評価での応援をお願いします!
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