迷宮
湿地での一件以来、彼女との絡みが増えた……というより、一方的に彼女が絡んで来る様になった。
パーティーメンバーの揶揄の声も、其れに対する彼女の「妹が出来たみたい」という返しも、どこか白けて聞こえる……妹、だなんて思っていない癖に。
後衛職である私は彼女の警護の役目を負った……無論命令だし役割的にも不満はないが……実際彼女を護る事などそうないであろう。多分だが彼女は私より、パーティメンバーより強く……いや、若しかするとこの国の上位冒険者クラスなのかもしれない。
駆け出しである私如きが一目で人の強さを推し量れる訳がないが、何故か判らないが其の様に感じる時があるのだ。
一体何故、彼女の様な人がうちの様な……決して無名ではないが大規模なクランにも属さない、凡庸なパーティの性奴隷に甘んじているのか……。
……
ひと月程経ち私の試用期間も終わったようで、漸く数週掛かるだろう迷宮攻略に挑む事になった。
……そう、此処ひと月の冒険では必要なかった、彼女の本当の仕事も始まるという事……私はひと月前の狂乱を思い出し、若干の吐き気を覚えた。
迷宮攻略、といっても全く未知の迷宮を踏破する訳ではない。其の様な危険な任務は咄嗟の事態に耐えうる上位冒険者、若しくは全滅覚悟で迷宮踏破の名声と手付かずの財宝の奪取を目論む死にたがりがするべきであり、我々の様な……特に私の様な新人のいるパーティは獅子の喰い残しを貪るハイエナに過ぎぬ。
とはいえ掃除屋稼業も決して旨味がない訳ではなく、先人の遺した地図を使え、何故か迷宮内に無限に湧き孵るモンスターを倒し、魔石や有用な素材を持ち帰るだけでも充分な収入となるのだ。
入念な準備を済ませ、街から馬車で半日程の迷宮へと辿り着く。待ち構える大穴は初夏の好天の下でも暗く、私達を飲み込む漆黒の魔竜の咢にも見え思わず身震いすると……不意に彼女にぽん、と肩を叩かれた。
緊張しなくてもお姉ちゃんに任せれば大丈夫よ、と一応護られる立場の癖に嘯く……不覚にも其の行動で私の緊張は解けたが、素直に礼を言うのも憚られた私は一言だけ、大丈夫です、と呟いた。
……
探索開始して数時間、迷宮の上層では地上と左程変わらぬモンスターが多い。実際地上からも迷宮に入り込むモンスターも居る様だ。確かに偶に入る冒険者に気を付ければ無限に沸く安定した食料の確保が出来るだろうしな。
前衛の攻撃に合わせ魔法を唱える。モンスターは弱く彼らの攻撃だけでも充分なのだが……其れでも少しでも状態良く魔石を取り出す為には私の唱える睡眠魔法で敵を眠らせ、魔石に傷が付かない様止めを刺すのが有用だ。
十数回の戦闘を終え、流石に精神的疲労が強くなってきたが……まだ頑張らねば、と思ったタイミングで彼女が私の顔を覗き込み……休息を申し出る。私はまだやれると固辞しようとしたが……彼女は私をキュッと抱きしめ、無茶は駄目、と叱ってくる。
ロープ越しでも伝わる練乳が如く甘い匂いに、私は……ほら、思うよりもふらついているでしょうと言われたが……決してこれは疲労の所為じゃなく……。
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