大きな空の下、小さな洞の宝物
綻ぶ花弁に一滴分の鷹の鳴き声が響く。
街から数十分のこの丘には小さな家が一つ。夕暮れ、太陽の光が空に溶け切った頃に彼女は家に帰ってくる。
何十年と前からあるのだろう大きな木の小さなウロには宝物が詰まっている。彼女は連れ添った今日の分の宝物をウロに仕舞い込む。
ここ最近は、ウロを留守にする時が多くなった。宝物を連れ添うことも仕舞い込むことも減った。
とある日、大きな地震がやってきた。
彼女は地面に落ちた。見慣れた一面の花畑に蕾を見つけた。ウロの中の宝物と同じくらいに大切なものを見つけた。
摘んで持ち帰って仕舞い込むことはできなかった。咲く瞬間を待ち焦がれ、水をあげ話しかけては撫でるような日々が続いた。
季節が巡る、花は蕾のままかわらず、彼女は迷子になってしまった。ウロへ帰ることがうまくできなくなった。涙が頬を伝う。
幾ら待てども私にはその姿を見せてくれないのだと、微笑んでくれないんだと。
鷹が雲の上を飛んでいる。彼女は食べられてしまう不安に小さくなった。この宝物が花開くのを待っていても見る前に私は……。
夕闇を背にウロへの道を探しに行くことにした。まるく寝転んで、朝日を待って、宝物をもっとたくさん集めて、ゆっくりウロを埋めるように大きな木の小さな空洞を埋められますようにと。
花弁は綻んだ、彼女の背後で、一度も覗かせずに。はらりと地面に落ちた。鷹はまだ雲の上にいる。
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