第24話「恥ずかしいからやめて」

1時間が経ってようやく朱音ちゃんが起き上がってきた。そばに置いておいたタオルを巻いてリビングに現れた。


「おはよ、透くん...」


「え、あぁ...おはよ。」


なんだか気まずい雰囲気になってしまった。そりゃ昨日はあれからいろいろあったわけだけど、首や肩辺りにハッキリとキスマークを付けてしまったから正直怒られるかと思っていた。


「んー?顔赤いよ大丈夫?」

首をかしげながら少しだけ上目遣いを使ってきた。


「大丈夫だよ、体調はバッチリだからw」


なんでにやけながら今このセリフ言ったんだおれ、ただのキモイやつじゃねぇか。もう童貞じゃないんだ、ここは大人の男として少しかっこつけないとな。


「シャワー浴びてきな、その間に朝ごはん用意しとくから。そこの左の部屋がお風呂場だから。」


「うん、ありがと。そしたらちょっと汗流しでくるね。」


そう言って朱音ちゃんはシャワーを浴びに向かった。朝ごはんを用意しなければならなくなったので簡単に食パンを焼きながら野菜を切ってスープを作ることにした。


5分くらい経ってからトークの通知が届いた。高校のグループのやつだ。


『週末はみんな楽しみだねー!』


クラスメイトだった1人が送ってきた。それにすかさず美緒が返信を返していた。


『そだねー!みんなで楽しめる企画考えとくよーw』


美緒が企画するものは大体ヤバいのしかない。例えば夏祭りの時はロシアンたこ焼きを作ったり、肝試しの時は役者の友達を呼んで本格的なお化けを演じさせたりなどやることが極端すぎる。


「あ、陸も今日は起きんの早いな。」


陸もバイトだからか、朝早くに返信を返していた。高校の時は夏休みは大体昼近くにならないと起きないやつだったからなんか新鮮な気持ちになる。


『おけー。』


まぁ相変わらず返信はそっけないんだけどな。つか起きてるなら陸に一報しとかなきゃならねぇなと思い陸に個人でトークを送った。


『おはよ、陸に報告があります。』


『おはよ。え、なに急に。』


『いや、まぁこの度ようやく卒業できまして』


よし、とりあえず陸に報告はできた。すぐに返信が来た。


『あーそうなのね、おめでと』


おいおいせっかく一世一代の男を見せた瞬間をそんなにあっさりと受け流すか!?もっと褒めてくれよなー


『ありがとよ!』


トークはそれで終了したから陸に文句をぶつぶつ言いながら朝ごはんを準備し終えた。元々あんまりトークとかはしないって言っていたから直接今度は改めて報告することにした。


それにしてもまさかおれにもこのように春が訪れるとは思わなかった。確かに側から見たらモテていると思われている。陸や他の友達にもよく言われるけどそれまでだ。


結局他の女の子はおれのことをアクセサリー扱いするような子ばっかりだった。おれの顔やキャラとかで勝手に自分の理想の彼氏像をおれに押し付けるような。


「シャワーありがとね、さっぱりしたよ。」


っとここで朱音ちゃんが風呂から出てきた。同じボディソープやシャンプーのはずなのになぜこんなにいい匂いになるんだろう。一応有名なメンズモデルがオススメしているものを使用しているがおれが洗った時とはまるで違う。


「さっぱりできたならよかったよ。朝ごはんできたから服着替えたら食べようか。」


「ありがと、さっそくもう食べるよ!」


朱音ちゃんはすぐに服を着てテーブルに着いてまずはスープを一口食べる。


「美味しいこれ!」


「でしょ?おれも簡単には作れるんだよw

今日は塩分を多めにしてるんだ。いっぱい汗かいたからね。」


「まぁ...そうだねw」


朱音ちゃんはニヤけながらそう言った。


「食べて少ししたら駅まで送るよ。」


「うん、わかった。」


「あと、おれたち付き合おうよ。」


「うん、私もそう思ってた...」


会話の流れで付き合おうって言ったらまさか上手くいくとは思ってなかった。

こうして朝食を楽しく食べ、支度をして家を出た。なるべくなら知り合いに会わないようにしたいなと思う。



       ーーーーーー

それは朱音ちゃんを駅の前まで送り届けたところだった。


「改めて今日はありがとね朱音ちゃん!おかげで人生で1番楽しい誕生日になったよ!」


「いーえ!どういたしまして!」

     

「えっと、じゃあ気をつけて帰ってね。」


「ちょいと待って、まだバイバイのチューしてないよ?」


「え、ここですんの?w」


昨日は人前ではなかったから勢いでできたけど、今はもろ駅にたくさん人がいるじゃねぇかよw


「はーやーくー」


「わかったって」


そう言っておれはほんとに軽くキスを済ませた。そういえばファーストキス自体も朱音ちゃんが初めてになるな。


「ありがと...」


「ん?」


「おれの彼女になってくれて、最高の時間とかくれて。」


「何言ってんのw

これから始まるんだから、透は早く私にちゃん付けやめなさいw」


「うん」


そう言って抱きしめていた腕を解く。すると後ろに何か見覚えのある人物が歩いてきた。


「え、朱音ちゃんと透くん...?どうしてハグしてるの?」


そこにはなんと未紗ちゃんがいた。え、電車で帰るんじゃなかったの?てか見られた...恥ずかしいじゃねぇかよ。


「あ、未紗!ちょうどいいとこにw

私たち付き合うことにしたからよろしくね!」


「え!?マジで!?透くんほんと?」


「うん、そうだよ...」


なんだか一気に疲労がおれを襲ってきた。心身共に...未紗ちゃんは朱音にハグをして祝福をした。


「おめでとー!!成就したねー♪」


「未紗ありがとー!!そしたらお祝いしてよね!じゃ透あとでトーク送るね!」


「じゃあね透くん!おめでとー♪」


「うん、じゃあね...」


帰ったらもう少し寝よう、寝不足で疲れも取らなきゃな。こうしておれにとって最高の、そして長かった1日が幕を閉じたのだった。




      ーーーーーー


「え!?そんなことしたの!!?

てか透くん童貞だったんだね、なんか意外w」


「そうなの、だから久々疲れちゃったよリードするのはw」


透と離れた後、未紗にご飯をご馳走してもらうことになり近くのイタリアンレストランに入っていた。確かに気を使うから疲れたけど、リードされてた時の透の顔を思い出すと、どうしてもニヤけてしまう。


「あーまたニヤけてるーw

今日何回ニヤけるんだよー朱音ちゃんだってしてた時は満更じゃなかったんでしょ?w」


「まぁそうだけど〜...///」


こうしてありのままを話せるのは私の中では未紗だけだから秘密の共有はなんだかドキドキする。


「ちなみにその時は朱音ちゃんどんな感じに演技したりしたの?w」


「ちょっ、演技はそんなしてないし!///

恥ずかしいからやめてって!」


こういう時の未紗はなかなか鋭いから油断できない。的確にいろいろと聞き出そうとするから怖い存在だ。


「まぁ、確かにぎごちないから多少は教えたって感じ?///」


「へぇ〜...そうなんだ〜w」


「な、なによ!あんたはまだ付き合ってとも言われてないんでしょ?」


「その時は私から言うよ?朱音ちゃんみたいに待ちの姿勢じゃ彼氏できないからねー?w」


「ムカつくなこいつー!!」


「でも改めておめでとうね♪

てっきり一生独り身でいるんじゃないかと思ってたよ、彼氏ずっとできなかったからねw」


「それはあんたもでしょ!」


ツッコむことが多かったけれど純粋に祝福をしてくれた未紗に感謝をして最高の休日を過ごすことになった。

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